第百十二話 旅立ち

 ――洞窟探索で疲れ俺たちは、装備の確認を終えたので、領域の温泉に浸かっている。 

 やっぱり温泉は最高だ。湯舟に入ってぬくぬくする俺。

 その隣にはシュールな骨。

 ここが地獄風呂ってやつなのか。


「あの、レウスさん」

「あー、骨身にしみるなぁ」

そりゃ直接骨だからしみてるっていうんでしょうか。身がありませんよね」

「細けぇ事はいいんだよ! な? そうだろ?」

「なんかレウスさんと出会った頃の事を思い出しました。今の」

「だっはっはっは。俺もだ。なぁ友よ! だっはっはっは」


 レウスさんは相変わらず元気だ。骨だが。

 こういう骨ならウェルカムだ。突然出てくると怖いけど。


「ぱみゅー、ぱみゅ!」

「お、ルインもきてたのか」

「ああ、出かける前だからな。ファナもあっちの湯気の奥にいるぞ」

「おー、俺様も奥に行ってこよ」


 混浴にもすっかり慣れたが、やっぱ風呂は一人でゆっくり入りたいな。

 そのうちどうにか拡張できたらいいんだけどな。

 ――湯舟から上がり着替えると、結構いい時間になっていた。


「それじゃニーメ、カカシ、マーナにココットは留守番を頼むよ」

「うん。気を付けて行ってきてね。お兄ちゃん」

「新しい種もばっちり植えたぞい」

「僕、心配だけどニーメといい子にしてるね」


 大きく頷くと――俺たちは泉からフェルス皇国へと向かった。

 


 フェルス皇国ペシュメルガ城前には、ベルローゼが待っているはずだ。 

 俺たちは急ぎ足で向かう。


 そして――城前に着くが……誰もいない? あれ? 

 しばらくキョロキョロしていると、急に後ろから声がする。


「ベレッタへ向かう者が増えているようだが」

「うわっ!? びっくりしたー! ベルローゼさん。急に現れないでくださいよ」

「知ったことか。それでそいつらも連れていくのか?」

「ええ、頼りになる仲間です」

「ほう。確かに珍しい装備をしている者もいるな。では早速輸送任務に向かう。

フェルドナージュ様より浮遊船メドゥーサリアを用いてよいと仰せつかった。

皇国の東門へ向かうぞ」


 俺たちは頷くと、ベルローゼさんに付き従う。


 ――東門に到着すると、ベルローゼさんは門から出てすぐの地面に

何かをかざす……すると地面下に通じる道が現れる。


「早く来い。すぐ閉める」


 俺たちは全員で中に入る。少し階段を下って、後は真っすぐ進む道だ。

 この方角は城に戻っていく方角だろうか。

 ……恐らく城からは直接行けない、もしくは行く道が固定で使用禁止なんだろうな。


 そこからしばらく歩くと、空間が広がる場所に出た。

 そこには一隻の巨大な船が停泊している。

 いくつもの青銀蛇が装飾された、美しくも恐ろしい船だ。

 船首像はフェルドナージュ様のような美しさがある女性の像だ。


「全員乗ったら出発する。物資は昨日詰め込んでおいた。降ろす時は

貴様らも運ぶように」

「わかりました。目的地は何という場所なのですか?」

「残虐のベルータス。奴の国ベレッタの喉元にあるマッハという村だ」


 そう言いつつベルローゼさんは船を操縦し始める。

 これ、妖術で動かすのかよ。とんでもないな。

 俺にはまだ、蜃気楼を起こすか横長になるくらいしか出来ないっていうのに。


「……貴様らは積み荷を降ろすのが仕事だ。休んでいろ」


 そう言うと、ツンデレさんは船を加速させた。

 船は城の裏手の湖を出ると、浮上していく。

 その姿はまさに、青銀の蛇が空を舞う様だった。

 地底だけど上空。そしてこんな高いところから世界を見渡した

のは、前世でも現世でも初めて。

 メルザはちょっと怖いのか、俺の裾をつかんでいる。

 ミリルは竜騎士なだけあって、余裕そうだ。

 ファナはそもそも、今も浮いている。その靴本当すごいな。


「すげー、ミリルの父ちゃんの竜も凄かったけど船ってすごいんだな。

空まで飛べるなんて!」

「いや、どの船でも空が飛べるわけじゃないぞ。多分この船が特別なんだろう」

「その通りだ。この船はフェルドナージュ様の船だ。そんじょそこらのガラクタ船と

一緒にするな」


 そう言うと、フンと鼻を鳴らして舵を取る。

 様になりすぎでしょ。どこぞのギャンブラーかよ。

 ……まぁ飛翔船の操縦手がダサかったら、ちょっと嫌だし、様になっている方がいいか。

 しかし妖魔ってなんであんなに顔が整っている奴ばっかりなんだろう。


 ――外を見ると、遠くに何か飛んでるのが見える。

 ここから見えるってことは相当大きい何かって事か。


「あれはなんです?」

「ベオルブイーター。飛翔するものの中で最も強い。安心しろ。こちらには来ない」


 怖すぎるだろ。襲われたら死ねる。

 空中で戦う術なんて持ち合わせていない。

 落ちればフリーフォールでぺしゃんこだ。


 このメンバーだと、ぺしゃんこになるのって俺だけか? 

 メルザは風斗使えるし、ファナは浮いてるし、ミリルは竜騎士だ。

 舞いながら落ちる自分を想像しながら、遠い雲を見ていた。

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