第百三話 二人の行方は

 ――俺たちはリルの人形家を目指していた。

 道中値踏みをするかのような目ですれ違う妖魔に見られた。

 

 なんか物々しい雰囲気だな。少し雰囲気変わったか? この辺り。

 妖魔はあまり他人に関心がない筈なんだけどな。まぁいいか。

 リルの家までは覚えやすい道だったので、道には迷わず着いた。


「ムーラさん、こんにちは。リルとサラはいますか?」


 俺は人形に丁寧に挨拶する。一緒にいるメルザは不思議に思っている。

 あれ、返事がないな。寝ているのか? 


「ごめんメルザ。行き先を変えるよ」

「ああ、誰もいねーみたいだったしな。出かけてるのかな?」


 俺たちはアルカーンの家に行く……が、こちらも誰もいないようだ。


「参ったな、どっちも留守か。改めて出直すか……そうだ、武器防具屋フォモルコデックスの

店主なら知ってるかもしれない」


 そう思い、妖兵エリアにある武器防具屋を目指した。


「すみません。店主さんいますか?」

「おうおうなんだ、この忙しい時に。下妖一がなんのようだ?」

「あのー、ちょっと聞きたいんですが」

「げげっ、あんたは!? しかもその装備はぁ! うひぃ!? 

ななな、なんのご用でしょうか。おぼっちゃま」

「……えーっとリルとサラに会いたいんだけど、どこにいるか知りませんか?」

「リルカーン様とサラカーン様ですかい? フェルドナージュ様に呼ばれて、お二人とも

出かけられましたよ」

「そうですか。行先まではわかりませんか?」

「いえ、言いにくいんですがね。実は戦争が始まりそうで。

我々も忙しくて忙しくて」

「何だって? じゃあリルとサラはその戦争に?」

「い、いえ落ち着いてください。使者として向かったと聞いてますんで」

「戦争する相手に使者? それは危険なんじゃ」

「そうですなぁ。確かに危険ですが、フェルドナージュ様のご命令ですから」

「……そうですか。ありがとうございました」


 リルとサラが危険な場所に……自分の装備をまじまじと見てみる。

 二人は自らの武器を俺に託したままだ。


「リル……俺は」


 メルザが心配そうにこちらを見ながら裾をつかむ。


「大丈夫だメルザ。この国の皇女、フェルドナージュ様に

面会を申し込んでみる。一緒に来るか?」

「ああ、勿論だ。その皇女様ってのにも会ってみてーしよ」

「わかった。だがメルザは皇女様の前ではあまり喋らない方がいい気がする

な……厳しい方だから」


 メルザが小首を傾げているが、俺の心中は気が気ではなかった。


 ――それから暫く歩いて、フェルス皇国、ペシュメルガ城に到着した……のだ

が、門の前で頭を抱えることとなる。

 どうやって面会を取り付ければいいんだ。

 ――しばらく城の前で思案していると、一人の男が門から出てくる。


「何用だ。城の前をうろうろしていると牢に入れるぞ」


 あれ……? 確かこの人は……「ベルローゼ殿……でしたよね?」

「ああ、貴様は献上品を持ち寄った剣客か。あまり城前をうろつかぬことだ」

「実は、フェルドナージュ様に頂いたこちらの装備を返却しようと思いまして。

私には過ぎたるものなので」


 俺は取り外していた蛇佩楯を見せる。蛇籠手は装備したままだ。


「ほう。過ぎたる物を返上とは良い心がけだ。

よかろう。フェルドナージュ様にお話しを通してやる。しばし待て」

「はい、承知しました」


 ベルローゼはすっと消えて、門が閉まる。

 フェルドナージュ様の右腕だろうか。恐ろしい雰囲気がある。

 しばらくするとベルローゼが戻ってきた。

 少し不機嫌そうな顔をしている。


「貴様に会うとおっしゃっている。それと防具は返上不要とのことだ。

身に余る物を与えられている事に、深く感謝せよ。ついて来い」


 そう言うと、ベルローゼはゆっくりと歩き出した。

 俺とメルザもその後を続く。


 フェルドナージュ様の眼前に立つと、直ぐに平伏し挨拶する。


「ルインよ。無事戻ったか。表をあげよ」

「はい、フェルドナージュ様。失礼いたします」


 メルザも見様見真似でポーズをとるが、無茶だった。


「それがそなたの主か。教養が足りないようじゃ。其方の主としては不十分。

精進するがよい」


 天…確かに礼儀作法は少し教えないとな。

 メルザも女の子だし。自然のメルザが好きだが、覚えておいて損はないだろう。

 メルザを見てにっこりする。メルザの顔が赤い。


「よい関係ではあるようだな。して童に用向きとは、与えた装備の返上だけ

だったのか?」

「実は戦争が起こるかもしれないという知らせと、使者としてリルとサラが

その場所へ赴いているとお聞きしました」

「其方の耳にも入っておるか。困った事になっておってな。

リルとサラには危険だが、敵国への潜入調査と使者両方の役目を任せておる」

「どちらの国に赴いたのでしょうか?」

「教えれば其方は向かうつもりであろう。危険どころの騒ぎではない。

それでも知りたいか」

「はい、私はこの装備と、フェルドナージュ様が与えて下さった

装備が無ければ確実に死んでおりました。恩を友人の死などで終わらせるつもり

はありません」

「其方は相変わらずよのう。童が気に入ったのもそういった

忠義忠節に真っすぐなところだ。よかろう。そなたにも任務として向かってもらう。

よいな」

「はい、承知致しました」

「ベルローゼよ!」

「はっ。ここに」

「貴様はその者たちを率いて輸送任務をこなせ。その者たちを決して無碍に扱うで

ない。よいな!」

「……承知しました」

「リルとサラを頼む。童にとっては可愛い甥と姪じゃ。二人は残虐のベルータス

……奴が収める皇国ベレッタに向かった。気を付けて行くがよい」


 再度礼をしてから、フェルドナージュ様と謁見を終えて部屋を後にする。


「メルザ、勝手に決めてごめん」

「だいじょぶだ。俺様はルインと一緒ならどこまででもついていくぞ」

「おい貴様ら。まさか貴様らと行動を共にしなければならないとは。

屈辱だが命令であれば仕方ない。そのみだらな身だしなみを整えよ」


そう言うと、お金らしき袋を俺に投げ渡した。


「フォモルコデックスで装備を整えろ。それ以外の準備もしろ。

出発は二日後。またこの城門前に来い」

「わかりました。あの、ベルローゼさん」

「なんだ」

「有難うございます」

「主の命令だ。貴様に礼を言われる筋合いはない」

「それでもです」

「ふん……早く行け」


 あれって男版のツンデレじゃないかと俺は思っている。

 どのみち今の装備だけでは不安があるな。

 そういえばレウスさんから渡された装備などもある。

 ちゃんと調べて適切な装備を選ぼう。


 ――この先の旅のために、しっかりと準備をしなければ。

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