第九十九話 精神的苦痛との闘い

 俺は真っ黒だった。


「邪魔だなどけよ」

「やだ、可哀そうよ。目が不自由な人じゃないの?」

「は? 知るかよ。人込みの中歩くなよな」

「あ、それは言えてるかも」


 ……。


「いてーなどこ見て歩いてんだよコラ」

「すみません。よく見えて無くて」

「ちっ、次から気を付けろよコラ。ったくくそが」


 ……やめてくれ。


「君ね。見えてないからってまともに仕事もできないの?」

「すみません。一生懸命やってるつもりなんですが」

「それはわかるけどね。うちも国からの支援があるから雇ってる

けど、それが無ければいらないんだよ。わかる?」


 ……もう、うんざりだ。


「お客様はちょっとうちの店では。お引き取りください」

「あの、予約したんですけど」

「すみませんね。こちらでキャンセルしときますから」


 ……なぜ、そんな扱いをする。


「何あれ、可哀そうー変なのー」

「こらこら、指をさしちゃいけませんよ。そういう方もいるのよ」

「大変そうー」


 ……もう、やめてくれ。やめてくれ。やめろ! やめろ! 苦しい。

 心が壊れる。そんな目でみるな。

 俺がお前らと何が違うっていうんだ。

 人間じゃないか。お前らと同じ血が流れる。人間じゃないか。

 目が不自由な事がそんなにいけないことか? 

 身体が不自由な人は人間じゃないっていうのか? 


 哀れみをかけてイライラをぶつけて、それでストレスが発散されるのか? 

 人に迷惑をかけないようにしたい。

 だが、社会はそんなこと許さないだろ。

 例え外に出たくなくても、出ないといけないだろう。

 別に光を与えてくれなんて言わない。


 けど、闇を与えてこないでくれよ。

 静かに生きていたいだけなんだ。

 静かに暮らしたかったんだ。ただそれだけだ。


 ……けど。けど! それじゃダメなのがわかった……。

 いや、俺は知ってたんだ。

 ずっと。ずっと。なのに俺は……見えないことで、そこから目を背けていた。


「なぁあんた。そっちは危ないよ。気を付けていってな」

「目悪いのに頑張って働くよね。仕事熱心だし。本当助かるよ。

部長? あんなの気にすんなって。誰にでもああだからな。あれ。ただのモラハラ男だよ」

「ぶつかっちゃってごめんなさい! お怪我はないですか? 私急いでいて。

あの、これ落としてしまったものです。

ちゃんと全部拾いましたから。次から気を付けます!」

「何階まで行かれますか? 押しますよ、ボタン。二階? 

着いたら段差があるので気を付けてくださいね」


 ……社会には自己中心的な人もいる。けれど、多くの優しい人がいた。

 子供がいてしっかりと注意出来なかったのは俺もだ。

 もししっかりと注意していれば、あの子は助かったかもしれないのに。

 こんな社会と決めつけて。

 けれど……もしもあの世界にメルザがいたらどうだった? 

 

「危ないからよ。これは家に帰ってから遊ぼーぜ。な?」


 こう言ってスマホをいじるのを止めていたかもしれない。


「俺様が手を引いてやるよ。だから安心しろよな」


 そう言って真奈美を注意してくれたんじゃないか? 

 手を引いて歩いてくれたんじゃないか? 

 そうした人が他にもいたのかも知れない。

 けれど、俺自身がその手を振りほどいて来たんじゃないのか? 

 心の見る目で人の感じ方は大きく変わる。


 ……俺にこれ以上、精神的な攻撃をしても無駄だ。


「誰かの呪縛を解き放ってやれば、その者が苦しんていた場所へそこから行けるよ……か」


 この闇の中で何度も何度も何度も車に引かれていた。

 そして障がい者が受ける、世間からの苦痛や苦しみをループで味わった。

 

 これはきっと、真奈美が見ていた光景を含む。

 罪として与えられた罰かもしれない。

 真奈美はぬいぐるみになった今でも、毎夜こんな夢を見せられて

いたのだろう。


「お兄ちゃんごめんなさい。僕悪いことしたから罰を受けてるの。

帰りたい、帰りたいよ」


 本当にすまなかった。厄介ごとに巻き込まれたが、真奈美もパモも

ファナもニーメもカカシもココットも……そして我が主も。


 まとめて救い上げ、笑いながら暮らせる場所を作ってやる。


 ――――俺はまだ暗闇にいた。だがそこは真っ暗な精神的苦痛の場ではなく、ファナ

と真奈美を救った隠し部屋の地下牢だった。

 真奈美が最も精神的苦痛をイメージする原因の場所か。

 地上へ戻って来た……慎重にゆっくりと祭壇へ上がる。


 誰かいるな……スカルマージか!? いや……こいつは見覚えがある。


「まさかこんなところで君と会うとはね、充実青年。

ずいぶんと探したよ。運命を感じるね。けど、残念だがすぐお別れしなきゃ。

君の首を持ってね」

「やるわけねーだろ。うっとおしい司会者が」


 そこには闘技大会で司会をしていた、キャットマイルドが剣を構えて

立っていた。

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