第九十八話 メルザパート デイスペル国の現状

 ――メルザとミリルは三夜の町を出る支度を終えた。


「そーいや以前、ガルドラ山脈を越えるときによ。ひでーめにあったんだ。

もうちょっといい行き方はねーかなぁ」

「あら、メルザさん。わたくしは竜騎士ですわよ。

勿論手配しておりますわ」


 ――しばらく歩いた二人は、町から離れた木の下にいた。

 そこでミリルは首から下げていた笛を鳴らす。

 その笛の音は、メルザにはまったく聞こえなかった。

 竜騎士にだけ聞こえる笛の音なのだろうか。

 ――すると、遠方より緑色の竜に乗った青年がやってきた。


「お呼びでしょうか。お嬢様」

「サモン。ご苦労様。わたくしたちをデイスペル国の、人があまりいない場所まで

運んでもらいたいの」

「承知いたしました。お乗りください。

しかしお嬢様がそのような恰好をなされるとは」

「今、デイスペル国は少々危険らしいの。気にしないで」


 サモンと呼ばれた竜使いは、メルザとミリルを乗せて

空高く舞い上がる。

 メルザは空で吊るされて運ばれたり、落ちることはあっても

竜に乗って飛ぶ事には慣れていない。

 少し怖いけど、見える世界はあまりにも美しい。


 こんな景色を再び、ルインと見れたら……そう思いながら飛竜は速度を

上げていく。

 ――竜が飛翔してまもなく、トリノポートが遠めに見える。

 そこから北を目指すように飛んでいった。


 風を切り、雲を切り裂いて、飛竜はトリノポートの北にあるデイスペル国へと

到着した。

 時間にしてわずか五時間程度だろうか。


「ありがとうサモン。ここから先は二人で行くわね」

「お気をつけて。私はトリノポートへ向かいますので」


 そう告げると、サモンは再び竜に乗り、トリノポートへ飛んでいった。


「さて、ここからは人目を気にしながら町まで行きましょう」

「うん、俺様たちは行商人。おいしいものを売りにきた商人だったな」

「ええ。既に大会会場が襲われてからかなりの時が経ちましたが、どこに

常闇のカイナがいるかわかりませんし」

「まずは宿屋でマリーンに話が聴きてーんだ」

「ええ、そうしましょう」


 ――宿屋インフィニティへ向かったメルザとミリルはマリーンを探す。


「結構ボロボロになってるな。まだあちこち直ってないとこだらけだ」

「やはり危険ですわね。けれど宿屋は営んでいるみたいですわよ」

「おやいらっしゃい。こんな時に。行商人さんかい?」

「ああ、なぁ女将さん。ちっちゃい声じゃないと聞けねーけどよ。

大会優勝者が斬られる所を見たって聞いたんだけどよ。詳しく教えてくれねーかな」

「あのお話かい? あまり思い出したくないんだけどねぇ」


 ミリルがそっと金貨を一枚握らせる。


「情報を頂けるならこちらは差し上げますので」

「……わけありそうだね。わかったよ。悪い人には見えないし。お金はいらないよ。

ちょっとこっちにおいで」


 そう言うと、奥の部屋へと案内された。


「あの日騒ぎがあって、そこのツボの中に隠れて窓から見てたのさ。そしたら

多くのローブを被った奴らがいてね。

それに立ち向かうようにする勇敢な青年がいたんだよ。

それがね、うちのお客さんだったんだよ。

けど、卑怯にも後ろから来た奴に真っ二つにされてしまってね」


 メルザとミリルは真剣に話を聞く。痛々しい表情で……。


「そうしたら、斬られたその勇敢な青年を手がつかんでね。地面に黒い穴が

開いて引きずりこんだのさ。変な網と一緒にね。

そいつらは他の地面に落ちた装備を全部持って行ったけど、その場で何か

探しているようだったね」


 ミリルは思案する。メルザも考えている。

 網と斬られた身体を両方。そして何かを探す常闇のカイナ。

 必ず共通する何かがあるのだろう。

 そして理由があるのなら、やはりルインは助かる可能性があった

のかも知れないと。


「有難うございます。今日はこちらの宿に泊まりたいのですが」

「ああ、いい話が聴けた。ありがとな!」

「いえね。真剣だったからさ。泊まるのは構わないけど、まだ散らかったままだよ。

いいのかい?」

「ああ。あっちの部屋がいいんだけど、いいか?」

「あら。先ほど話していた青年の部屋もそこよ。構わないわよ」


 そういうとメルザたちは自分たちが泊っている部屋に宿泊した。

 ここまで戻って来た甲斐はあったのだと、メルザは確信した。


 ――そして、絶対にまたルインに会えると。

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