第百話 お前に俺のなにがわかる

「一応念のために聞くけど、君はどうやってここへ」

「答えるつもりはない」

「そうだよねぇ。もう一つ聞いていいかな? ラーンの捕縛網はどこへ?」

「お前に答える事など何一つないよ。常闇のカイナ」

「それを何で知ってるかも聞きたいんだけどねえ。まぁいいや。捕獲して

聞こうか……な!」


 とてつもない速度で、俺へ肉迫して蹴りを入れる。籠手で防ぐと奴はその足を

蹴り込み、そのまま空中へ飛翔した。

 

 回転しながら剣を突き刺そうとしてくる。

 ここは場所が悪い。バックステップすると追い詰められる。


 蛇籠手から奴を捕まえるよう指示を出す。


「むぅっ……それは」


 やつは剣を俺ではなく蛇の方へ向ける。

 すかさず蛇佩楯で跳躍して奴の高さを上回ると、下に向けて消化液を噴射する。


 奴は着地と同時にバックステップをする。しめた! 

 そのまま飛翔し続け、天井に足をつけて天井を蹴り、奴との距離を詰める。

 

 この高さじゃ天井までは余裕で届く高さだ。

 そのままブロードソードを突き立てるが、回避された。

 刹那、奴の攻撃が来る。


「妖楼」

 

 奴のもう片方に装備された格闘爪を回避して、中央で対峙する。

 ただの司会野郎じゃないと思ったが、さすがは常闇のカイナ……の幹部か? 

こいつは。


「参ったね。君の戦闘スタイルがまるで違う。司会中ずっと見ていたんだけどね。

なんだい、その能力は」

「……」

「しょうがないね。このままじゃやられちゃうか。裏技を使おう」

「……はったりはよせよ。力の差は歴然だろ」

「そうだね、今のままだと……ね」


 そう言うと、奴は頭の上に何か乗せた。すると一気に巨大化して建物が破壊される。

 慌ててマッドシールドを展開して、目の前の崩れる建物の隙間へ跳躍し、外へ出る。

 危ねぇな……。


 ――あれ、なん……だ? 見覚えのあるような姿に奴は変わった。

 ギルドグマに近いサイズ。でかい剣を一本。尻尾が生えている。

 目つきはキツネのように鋭く、牙もある。


「さぁ終焉の始まりだよ」

「いや、終わるのはお前だよ。バーカ」

「何だって? この状況を見ても、まだ僕に勝てるとでも?」

「そりゃそうだろ。お前がぶち壊して出てきたお陰で全員集合だよ」


 俺の横にメルザがいて、俺の体をつかんで離さない。

 ミリルがいて、真奈美もいた。ココットもパモもいる。


 この場所へ来ていたのか、ライラロさんもハーヴァルさんも怖いお姉さん

もいる。

 師匠は連絡役で遅れてるのかな。

 ファナとニーメは領域で祈ってくれているだろう。


「ここでお前に勝たなきゃ、何千回俺を殺しても足りない位、自分を呪う」

「下等種族の人間如きが、すり潰してお終いだよ」

「人間……ねぇ。そう思ってた時もあったな。

メルザ、ちょっと支えててくれ。オペラモーヴ!」

 

 回避不能な赤い斬撃が奴を切り刻む。

 

「なっ……斬撃が見えなかった。なんだこの甚大なダメージは!?」


 あー……やっぱりか。そうだとは思ったんだよな。

 アナライズも出来るだろ、きっと。メルザの間近で使ったから、目の出血や体のダメージが

やばいけど。

 幻薬を使っておこう。血はメルザが急いで拭いてくれる。

 ……直ぐに奴をアナライズしてみた。


 キャットマイルド(超暗鬼形態)


 常闇のカイナの一員

 暗鬼の狐と呼ばれる幹部の一人

 ギル化しても意思を保つ

 素早く動き獰猛で残忍



 この目の力は俺の力じゃ無いんだな。

 メルザと離れれば離れるほど弱くなる。

 近くにいればこれほど強いのか。主従関係にぴったりの力だ。

 本当に。


「メルザ、心配かけてごめん。話はあいつを倒してからだ」

「ああ……ああ。わかった! 早く倒しちまおう!」

「ずるいですわ、メルザさんだけ! わたくしも心配したんですのよ」

「やっぱベルディスの弟子ってだけはあるわね、あんた。あれで生きてるとかどうなのよ。

本当に。けれどよかったわ。あんなベルディスの顔見せた罰は受けてもらうわよ!」


 そう言いながら、ライラロさんは特大の水竜を奴に向けてぶっ放す。

 この人やっぱ凄いわ。


「そいつ、動き素早いらしいんで気を付けてください。今の斬撃でかなり

ダメージは与えたけど」

「ふざけるなよ。なんだあの赤い斬撃は! いいだろう、こっちも

斬撃を飛ばしてやる! 暗円の舞斬アンエンのブラッシュ!」


 奴はそう言うと、円を描くように大剣を振るい俺たちに無数の斬撃を

飛ばしてきた。範囲が円状で広い! 


「ヘインズの盾」


 ハーヴァルさんがさっと前に出てで、かすぎるほどのシールドを張る。


「いやー、毎回盾にしかなってないな。こんなでかい剣もってるのに。

お前さん生きててよかったな。ようやく傭兵になれるか?」

「すみません。そっちもちゃんと考えてましたから」


 ハーヴァルさんは、にっと笑うと上を指す。

 上空を見ると……「巨爆烈牙斧」

 厚さ四十メートル程の分厚い斬撃がマイルドキャットを襲う。

 何あれ、何それ。


「がああああああああああああ」


 奴は尋常じゃないダメージを負って、苦しみだす。

 師匠はやっぱりとんでもない。


「俺ぁ微塵も心配しちゃいなかったけどな。元気そうだがおめえ、なんか

弱くなってねえか? また小僧からやり直しだな、こりゃ」


 そこまでお見通しとは、流石です……新たな力も手に入れたんですよ。師匠! 


「メルザ、行こうか」

「ああ!」


 俺たちは最後を飾るべく、奴の前に出る。

 師匠の一撃をもろにくらった奴は、もうふらふらだ。


「ほら、目の怪我は治してやったからな。オイテメェ。

死んで戻ってくるとは上等じゃねえか、コラ」


 本当怖いです。セフィアさん。

 メルザは杖を握り唱える。蛇籠手に意識を集中させて技を振るう。


「燃刃斗!」

「プラネットフューリー!」


 燃え盛る巨大な剣と、燃え盛る巨大隕石が重なり奴を引き裂いて

押し潰した。

 

 やつは音もなく崩れ落ち、小さくなって倒れた。

 俺も意識が飛びそうだ。


「それじゃ倒れるだろ。しまらねえな全く」


 セフィアさんがすぐ回復してくれた。怖いけどやっぱり優しい。

 メルザに支えられながら、奴の近くまで行く。

 死んではいないようだ。


「こいつは俺たちが連れて行く。お前らはやることあんだろ」


 そういうと、師匠たちはキャットマイルドを捕縛して、どこかへ連れて行った。

 その場には、俺たちだけが残る。

 あいつは一体何がしたかったんだろうな。

 今はどうでもいいか。



「メルザ。ただいま」

「おかえりルイン、会いたかった。ずっと会いたかったぜ。ばか! ばか!」

「ああ、俺もだ」


 無事戻って来れた。全ては、我が主のために。

 今はそれだけを嚙みしめて、メルザを抱き締めていたかった。

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