第八十八話 友からの贈り物を胸に

 俺はフェルス皇国の南門周辺まできた。


「おーいルイン。ちょっと待って」

「あれ……リル? かっこよく旅立ちの挨拶をしたあとはそのまま別れるものだぞ」

「いや、やっぱりそのまま行くと君が死んじゃいそうで。フェルドナージュ様から

許可をもらってきたんだ。ものすごく怒られたけどね」


 リルは笑いながら左半身を見せると、ひどい傷を負っているのがわかる。


「ああ、気にしないで。怒ってたけどやっぱり君を凄い気に入ってるんだね。僕とサラの

装備を一つずつ貸し与える許可と、これをくれてやるからもっていけってさ。いいなぁ」


 そういうとリルはアイテムを差し出す。

 手甲とすねあて? みたいな物。蛇の紋様が入っている。

 確かフェルドナージュ様お手製の作品だったかな。


「それとこれは僕の格闘武器レヤック。こっちはサラの格闘武器ランダ。どちらも

アーティファクトでレヤックは穴が四つ。ランダは穴が二つ。

レヤックには ボルデキマイラ、フィリスドラゴン、パオーム、ギルティランサーが

封印されてる」


 ……まるで知らないモンスターの名前だな。


「ランダにはピクシーキャット、ブラッディヘルが封印されてるよ。急ぐだろうから

使い方は君が実際試してみてね。と言ってももう少し君自身のレベルが上がらないと

技は引き出せないだろうけど」

「何れにしても全く知らないモンスターだな」

「そうだろうね。フェルドナージュ様の装備については、紙に書いといてあげたから。

後で見てね。それとこれは食料。君、急ぐあまり食料忘れてたでしょ……」

「あ……何から何まですまない」

「この貸しは大きいからね。覚悟しておいてよ」

「ああ、ありがとう! 行ってくる!」


 今度こそ俺は旅立つ。未開の地へ。


 軽い足取りで……あれ、めちゃくちゃ軽い!? 

 そうか、この装備に封印されてるモンスターの能力が反映されてるのか。

 アナライズ出来ないのが口惜しい。そもそもなんでアナライズできないんだ? 

 目が関係しているのは間違いないが、いつからアナライズできないか定かじゃない。

 それに、目の力も今は使えないかもしれない。用心しないとな。


 ――ファルス皇国南門を出た俺は、フェルドナージュ様の装備に関する説明書を見る事にした。

 どれどれ。 


 フェルドナージュ様の青銀蛇籠手。

 麗しきフェルドナージュ様が自ら製作された地底一美しい一品。

 妖魔鉄鋼とナージ青銀を美しく織り交ぜた造形は流石という感嘆の一言。

 そもそもまずはフェルドナージュ様の素晴らしさを語らずには……よしとばそう! 


 なんで装備の説明書なのに人物像を語りだすんだ。

 これじゃフェルドナージュ様の説明書だろ! 

 突っ込みのためにばちこーんと一度紙を地面に叩きつける。

 ――そして拾い上げて再び読み始めた。俺は一体何をやってるんだ。

 なんでこんなに分厚い紙束かと思ったら……とんでもなく数の多い付加効果でもあるのかと

思ったよ。

 さてどのあたりからが説明だ……? 

 崇高な……煌びやかで……ああ何と……ここからが本装備の凄い所でその性能である。


 おい、最後の一ページじゃないか! 

 この装備は一匹の青銀蛇となり、共に戦ってくれる。

 相手を飲み込み消化して、装備者の体力や気力を回復できる。

 装備時は鉄壁の防御。解放時は体力回復とまさに至れり尽くせりの一品である。


 はぁ……これを書くためにどれほどの枚数の紙を……すねあても最後のだけ見よう。


 フェルドナージュ様の青銀蛇佩楯は、足を防御するだけにはとどまらず、脚力を

大きく上げ、装備者を高く跳ねあがらせる力を持つ。

 更に空中で佩楯が蛇へと実体化し、さらなる跳躍ができるだろう。

 ただしそのまま地面に落ちれば地面にて自らの足を砕くだろう。


 えーっと、ハイジャンプして骨折するから気を付けろってことか? 

 そりゃそうだけど、そこの工夫はないのかよ! 

 ……まぁ気を付けて使うとしよう。どちらも非常に貴重なものだ。


 突っ込みを入れながらフェルドナージュ様解体新書を見ていたら、いつのまにか

目的地付近に着いていた。

 

 モンスターには遭遇しなかったが、これもフェルドナージュ様のご利益だろうか。

 目的地に着いた感想としては、一言でいうならやばい……だな。

 改めて気を引き締め、幽閉の辿りへと足を踏み入れた。

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