第八十六話 全ては我が主のために

 ――――泣き叫んだルインは、泉から許の場所へと戻った。

 固い決意を決めて。


「やぁ、無事領域はできたかい?」

「早く行こうよ! ね?」

「その前に二人に話がある」

「なんだい?」

「なにかしら?」

「俺の主に会いたい。今すぐにでもだ」

「……領域で何かあったのかい? さっきまでとは随分顔つきが違うけど」

「一人になって考えた。俺はどう見てもあの時死んでいる。

それを知った俺の主がどうなるかを考えてしまった。

あいつは心が優しすぎるから。きっと壊れてしまう」

「……そうか。確かに僕もフェルドナージュ様が死んだら

壊れてしまうかもしれないね。君の気持もわかる」

「なら!」

「だが、危険すぎるんだ。今度はきっと助けられない。僕もサラもそこへは

行けないんだ。正規の方法で行くにはすごい時間がかかるんだ。ごめん、言え

なくて」

「危険? 危険なだけで行けないわけじゃないんだな? 

どうしたら行ける? そのためなら何でもする。しなきゃいけないんだ」

「僕は君を失いたくない。なぜかわからないけど君をひどく気に入ってしまったんだ。

お願いだよ。時間をくれないか?」


 リルもサラもとても不安そうな表情を浮かべている。

 ……こんな未開の地でも、俺を心配してくれる奴がいるなんて。


「その正規の方法ってどのくらい時間がかかるんだ」

「……十年はかかる」

「リル。俺はお前にすごく感謝してる。死にかけのところを

助けてくれただけじゃない。俺に興味を持ち、話しかけ、様々な

事を教えてくれた事。こうして心配してくれる事にもだ。この恩

は必ず返す。だからその危険な方法とやらでも絶対に死なないで

見せる。信じてくれ。でないと俺は十年も経たずに死んでしまう

かもしれない」

「……何もせず死ぬのは一番困る。ずるいなぁ、君は」

「すまない。その分の礼も帰ったら必ずするさ。メルザと一緒にな」


 リルは困惑した顔で思案する……と、ゆっくりと語り出した。


「このフェルス皇国の南に、地上へと通じる幽閉の辿りって場所がある。

そこは過去の罪に捕らわれた怨念の巣窟。その怨念の魂に乗っていけば地上

には出られるよ。もし運良く地上に出られたら、その子の領域でその時計を

使いなよ。君の領域に繋がるはずだから。

それと君の領域が開いたなら、僕とサラの領域侵入の許可は出しておいてね」


 リルはそこまで考えてあの時計を……妖魔は変わり者が多いって言ってた

けど、本当だな。

 本当に変わってて、呆れる程にいい奴だ。

 俺はリルの手を取って拳を握らせる。


「なに?」

「いいから。俺の国に伝わる、代々の友との挨拶だよ」


 拳を握ってリルの拳に合わせる。


「ありがとう友よ。俺は必ずリルの許へ戻る」

「そしてあたしと結婚してね。胸を触った約束だよ」

「それは既成事実だ! 断固拒否!」

「えー! あれは遊びだったのね」

「遊んだのはそっちだろ、サラ!」


 最後は少しお笑いになってしまったが、二人に幽閉の辿りへの行き方や

注意を聞いて、すぐ向かう事にした。


 目的地は決まった。

 いざ幽閉の辿りへ。

 どんな危険があろうとも。


 我が主のために! 

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