第三十七話 ニーメの武器製作

 俺は三夜の町に向かう時よりもさらに速度をあげて、メルザの領域を目指した。

 メルザは新しく整備した義手と、自分の手で俺の脇下からぎゅっとつかんで

体を預けている。

 ちょっとあたるようになった? ……いや何がとはいうまい。

 速度をあげた甲斐もあって、三十分程で領域まで到着した。

 ジョブコンバートのおかげか異様に身体が軽い。

 そのうち俺は、残像だ……ばかめ! とか言いながら、相手を翻弄出来るのか? 


 メルザはさっさと領域についてしまってすこし残念そうにしている。

 ゆっくり旅をしたいのだろうか? 

 領域に戻ると、ファナがパンを焼いていたらしく、いい匂いが漂ってくる。

 メルザは真っ先に飛び込んでいった。食いしん坊め! 

 だが、俺も部屋へ入るとお腹がぐぅーと音を立てて鳴る。

 ファナは少し微笑みかけて、俺にもパンを出してくれた。


「ファナ用にトランスフォーマーのカードを取っておいて

あるんだ。使ってくれ」

「え、いいの? そのカード高いんでしょ?」

「構わない。大会前に出来る限り俺たちの戦力を上げておかないと

いけないからな。パモのためにも」

「わかった、ありがとう。お返しに勝てるよう頑張るわね」

「それよりニーメはどうしたんだ? 飯はもう食べたのか?」

「いえ、呼んでも来ないから呼びに行こうと思ってたの。

ルインには着いたばかりで悪いけど、呼んできてもらえるかしら?」


 俺は頷くと、鍛冶工房予定だった部屋に入る。

 ニーメは真剣な顔で材料と睨めっこしていた。


「ニーメ、今戻ったよ。ひとまず食事を頂いてからにしないか? 

お姉ちゃんも呼んでいるよ」


 ニーメの頭を優しく撫でてやる。


「あ、お兄ちゃんお帰りなさい! ちっとも気付かなかったよ。

この貰った金槌がすごく綺麗で。ここにある材料もとっても上質なんだ。

これなら良い物が作れそうだよ!」

「そいつは嬉しいな。ニーメが作ってくれるってだけでも嬉しいさ。

安心して任せられるよ。ありがとうな」


 ニーメは少し赤くなり照れている。


「うん、じゃあご飯食べてくるね! 食べたら早速作業開始するから。

お兄ちゃんの欲しい形を考えておいてね!」


 そう言うと、ニーメは元気よく部屋を出ていった。


 欲しい武器の形か。今の形はかなり気に入っているが

 どうするかな……シールドレイピアは凄くいいのだが、殺傷力はかなり低い。

 レイピア部分を刀のように出来ればいいのだが……問題となるのは重量。

 レイピアはそもそも軽くはない。

 日本刀と同等位だ。筋力はついたが出来る限り軽装をいかしたい。

 盾を籠手として装着するスタイルが賢明かもしれないな。

 そうすれば好きな剣が左手に装備できる。

 もしくは剣を収納できるシールドガントレットか。


 ……まずはシールドガントレットの形状を地面に描きニーメに作ってもらうこと

にしよう。

 かなり難しいかもしれないが、ニーメなら応えてくれるだろう。

 それから格闘の方はやっぱりあれだな……。


 ニーメがパンを口に咥えたまま戻ってきた。

 余程早く製作にとりかかりたいんだろう。

 俺はニーメに武器の説明をすると、真剣に聞きながらものすごく驚いている。


「お兄ちゃん、一体どこでそんな武器を考えたの? それ作った時も

感じたんだけど、この世界にはない発想だよ絶対。

多分作れると思うから頑張ってみる! お兄ちゃんはあっちの部屋で待ってて!」


 そう言うとニーメは真剣な目で火をくべはじめた。

 邪魔になるといけないな。

 説明書きは地面に残したし、メルザたちの許へ行くとしよう。



 メルザの居る場所へ戻ると、ファナは既にいなかった。

 どうやらジョブコンバートをしに三夜の町へ戻ったらしい。


「なぁメルザ。大会まで他に欲しい物とかはあるか?」

「んー? そうだなぁ、香水ってやつが欲しいな! それと化粧品ってやつ! 

ライラロ師匠が『人が大勢いるとこでは絶対ないと女の子はダメよ。

好きな人にも嫌われちゃうわ!』って言ってたぞ。よくわかんねーけどよ」

「……あながち間違ってはいないが。

そうだ! 宝箱風呂久しぶりにやるか!」

「おぉあれか! 待ってろ水入れて火つけてくるからよ」

「俺も行くよ。先にカカシに余った木を貰って来る」


 カカシがいつもいる、種を植えた場所に向かう。

 アップルシードも月桂樹も流石にまだ芽は出ていない。


「カカシ? すまないが木材があったら少しわけてくれないか?」

「ん? おぉルインか。これを持っていくといいぞい」

「あぁ、すまないな。何か考えていたみたいだがどうした?」

「少し昔の事を思い出していてのう。気にするな」

「あ、あぁわかった。あんまり思い詰めて考えるなよ」

「わかっておるよ」


 俺はメルザへ火をくべるための木を持っていった。

 宝箱には一杯の水が入っている。


「メルザ、これに火つけてくれ。温めてお湯にしよう」


 メルザはうなづくと、ちょうどいい位置に置いた木に火をつける。

 しばらくして宝箱風呂が完成した。


「俺は後でいいから、先に入りなよ」

「おう! 覗くなよ?」

「覗くか!」


 部屋に戻り一息ついた。

 気付いたら座りながら寝てしまっていたようだ。

 布団がかけてある。右側が温かいと思ったら

 メルザは義手を外して俺に寄っかかり寝ていた。

 起こさないように少しずらして、宝箱風呂に入った。

 ぬるくはなっていたが十分だ。


 部屋に戻りメルザの横で寝る。

 平穏な時間がゆっくりと過ぎていく。 

 これから始まる激闘の日々の前。

 俺たちにとっての大切な時間だった。

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