第二章 闘技大会編 前編

第二十五話 久しぶりの領域

 あれから――――。


 闘技大会を目指してシーザー師匠の下、修行をしてから一年が経過していた。

 闘技大会までは後半年ほどだ。

 二か月前から受付が開始されるので、四か月ほどしか時間がない。


 メルザとも別々の修行をしていたため、会わない日々は続いているが、お互い

近い場所で特訓したりもしている。


 どちらも今は必死に頑張るときだ。

 俺も師匠のしごきがきつくて、あまりメルザを気に掛ける暇はなかった。


 メルザも同じだったようだ。

 ファナとニーメも相当修行をしていたらしい。

 特にファナは、誰に教わっていたのかわからないが、相当自信をつけたようだ。

 ニーメは相変わらず師匠にこき使われていたが、嫌な顔一つしない。

 本当にいい子だ。


 俺は領域へと戻り、カカシに挨拶をするところだ。


「カカシ、久しぶりに戻ったぞ。パモを見ててくれてありがとな」

「ぐぅ……ぐぅ……」


 寝てるわ……まじで寝てるわ。

 カカシはそっとしておいて、俺は小麦を引いて

小麦粉を作り、せっちゃんから貰った酵母をいれて

パンを焼いていた。

 

 とてもいい香りがする。


 ばっちり焼きあがったら、フライパンに油を引いて火をつける。 

 シミターキャットのシミターは、もう殆どガス切れのような状態だが、最後まで

きっかり使う。

 その使い方は勿体ない? いやこれでいいんだ。

 使い終わったらニーメに渡す予定だし。


「ただいまー、あれルイン、もうきてたのか! じゃなかった

きていらしたのね!」

「おかえりメルザ。なんだその喋り方は?」


 俺はメルザを見る……と、しばらく見とれてしまった。

 紫色の髪飾りに、赤薔薇のワンピースは変わらず。

 髪がかなり伸びていて、背も少しだけ伸びたか? 

 久しぶりのメルザは、とても綺麗に見えた。

 心なしかお化粧もしているような……いやいやきのせいだろう。

 なんせあのメルザだ。


「な、なんだよ。いやなんなんですか。違う……なんですか? だ」

「いや……普通に今まで通り話せよ。どうしたんだ急に?」

「急じゃございませんことだ。俺様……わたくしはこういった喋り方だ! ですわ」

「よくわからんから、戻って来いー。昔のメルザ」

「……ルインは昔の喋り方のほうが好きか?」

「当たり前だろ。今の喋り方じゃわけがわからん」

「そうか! そうだよなやっぱ。にはは!」


 あ、いつもの喋り方に戻った。自然体だ。


「そんなことよりすげーいい匂いするな。せっちゃんのパンもらってきたのか?」


 そういいながら、メルザは足をぴょんぴょこさせている。


「いや、酵母だけもらって俺が焼いたんだよ。ファナやニーメはまだか?」

「どっちも今日は来れないってさ。だからまた二人で行くことになるな」


 まぁ仕方ないか。どのみちファナにこれを言えば、洞窟でお宝探しに

夢中になっちゃうだろうし。


「んん? 騒がしいと思うたらメルザとルインか。きとったのか」

「おう、ゴサク。寝てたのか? 久しぶりだな。パモのこと、ありがとな!」


 メルザに先を越されてしまった……俺も挨拶する。


「わしはただ、たまに様子を見てるだけだがのう。

それより小麦はどうじゃった? うまく保存できていたか?」

「あぁ、ばっちりだ。助かるよ。俺たちこの後、以前話していた洞窟に行く予定なんだが、カカシ

もくるか?」


 カカシ一人、ずっとここにいさせていては申し訳ないしな。


「ほう、洞窟か。それならわしも久しぶりに出るとするかのう。

パモならどのみちここにおれば安心じゃしの」


 メルザを見ると、口いっぱいパンを頬張っている。

 可愛い顔が台無しだよ。まぁその状態も別の意味で可愛くはあるんだが。

 俺も少し食べておくか。

 一通り食事を済ますと、入り口の水面前に行く。

 目的地はガラポン洞窟。一年以上前に一度いった

入れ替え洞窟である。

 俺とメルザとカカシは水面下へと潜っていった。

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