間話 頼み事の代償 ~メルザ編~

 全く、何なのよアイツ。こんな手紙寄越して。

 やーーーーーーーーーっと私の気持ちに応えてくれる気になったわけ? 

 一年もほっておいて。ほんとにもう。

 けどこれで、私もメディルに負けず劣らずの新婚生活が過ごせるのね。

 にしても、とにかく急ぎで俺の許へ来いだなんて。

 熱烈なプロポーズね。昔から真っすぐだったし。


 あいつ、私の作った風斗車フルドライド見たこと無かったわね。

 見たらきっと驚くでしょうね。うふふ、今から楽しみだわぁ。


 フォメの町で珍しいお菓子が売ってるんだったわ! 

 ちょっと寄り道して買っていきましょう。



 ――――ある者が手紙を受け取ってから一か月後。レジンの快鉄屋にて。


「……遅ぇ」

「だーってぇ、仕方ないじゃない。旅に出たら

あっちもこっちもそっちも気になって。ぐるーーーーってしてたら

遅くなっちゃって。テヘっ。 

それよりそれよりー、早く式を挙げましょう? ね?」

「それ以上近づくんじゃねぇ! 嚙み殺すぞ!」

「え、なぁに? チューをせがんでるの? もーぅ、順番が違うでしょ

ベルディス! けど、私もチューしたーい!」

「バカやめろ、ひっつくな! 離れろ! ……はぁ。

こいつを呼ぶのはこれだから嫌なんだ……」

「あーもうベルディスのいけずぅー」

「うるせぇ! そこでちっと大人しくしてろ!」

「に、賑やかだな……俺様より元気一杯だぜ、あの女」


 メルザはシーザーに呼び出されていた。

 快鉄屋に呼び出されて伺うと、シーザーに

引っ付く一人の妙齢な女性がいた。

 額にはとがった角が生えている。


 メルザはキスと聞いて、ルインにしたことを思い出し、かぁっと赤くなる。


「ん? なんで嬢ちゃんが赤くなってやがるんだ? それはいいとして

こいつはライラロってんだ。見ての通りのユニカ族だ。

……だから動くなっつってんだろ!? わかった! 

今、茶入れさせるから待てって!」


 そういうとシーザーは、奥で働いているニーメを呼び、茶を持ってくる

よう伝える。


「えーーーーー、なんで私がこの小っこい女に幻術を教えなきゃいけないわけ? 

私はベルディスと結婚しに来たのよ? こんなどこの馬の骨ともわからない

女……まさかあなた、ベルディスを狙ってるのね? 敵だわ!」

「落ち着けライラロ! そいつにはルインって小僧がもういるんだよ」


 ボンっっと音を立ててメルザが真っ赤になる。


「ち、ちちちちげーよ! あいつは俺様の子分だ! 

その、そんな関係じゃねーしよ!」

「あらぁ……そうだったの。あんたも首を縦に振ってもらえないのね。

私の仲間かぁ……じゃあ考えてあげなくもないけど」


 シーザーは後ろで首を縦に振れと言わんばかりにうんうんしている。

 メルザも仕方なく首を縦にふる。


「二つ条件があるわね。あなたのその義手、外してもらえるかしら?」


 メルザは黙って義手を外した。


「今後この義手は使わない事」

「お前……」

「ダーリンは黙ってて!」

「ダーリンじゃねぇ!」

「それともう一つ。私と勝負して傷一つでもつけてみなさい」

「わかった。ぜってー勝つ!」

「あら、いい目ね。そしていい度胸だわ! この幻残のライラロ相手に勝利宣言

するなんてね!」




 ――三人はシーザーと特訓した場所へと移る。


「私はこの場所から動かないから、好きに攻撃してらっしゃい」


 メルザは少し後方に立ち、いくつか土斗で壁を造った。


「燃斗! 燃斗!」


 杖からいくつかの大きい火球が飛んでいく……が。


「水流神の盾」


 燃斗はライラロの目の前に出た透明な水の四角い壁に阻まれて消えていく。


「まぁまぁの威力だけど、もうおしまいかしら?」


 メルザは今一度杖を構える。

 今度は土斗で自分の足元に踏み台をつくっていた。


「あら、少しは考えて戦うのね」


 ライラロが少し思案している刹那――メルザは風斗を放つ。

 そして踏み台を利用して高くジャンプした。

 空中で燃斗を放ち、風斗に重ねる。

 風斗を受けた燃斗は、数段威力をあげる。

 これは三夜の町でルインがやっていた行動を真似たものだ。


「まだまだ! 燃斗! 燃斗! 燃斗!」


 メルザは防壁用の土斗の上に飛び乗り、次々と燃斗を放っていった。


「水神のドーム」


 しかし三百六十度を覆う半球上の水壁により防がれてしまう。

 ……だが。


「私の負けね。やるじゃない」

「へへっ。そんな傷じゃ勝ったことにならねーよ」


 メルザの持っていた杖は土斗で固定されて土に突き刺さっていた。

 飛んでいた時に杖を地面にさして風斗を放っていたようだ。

 上に攻撃を集中させて下からの攻撃を見え辛くしていた。


「いいわ。今日から私が教えてあげる。

だからあなたもシーザーを落とすのに協力なさい!」

「わかったぜ、ライラロ! ……えっ?」

「師匠とよびなさい!」

「わ、わかったライラロ師匠」


 こうしてメルザの特訓は一か月遅れて始まるのだった。

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