第十八話 宿屋に戻り

 俺たちはファーフナー、ニーメを連れて、真なる夜のエリアを離れ、せっちゃんの待つ宿屋へと戻った。


「まぁお帰りなさい! 無事だったのね!」と叫びながら突っ込んでくるせっちゃんを

回避し、これまでの経緯を話す。


「……そういう事なら仕方ないわね。今度盗みを働いたら容赦しないわよ?」


 そういうとせっちゃんはニーメを見る。

 骨に睨まれてニーメは恐怖した顔を浮かべていた。

 ファーフナーはまだ気を失っているままだ。


「せっちゃん、この子たちの宿代を払いたい。それと傷薬をもらえないか?」

「わかったわ。今回はこちらの不手際もあるし、部屋も一緒でいいなら

サービスして銀貨二枚でいいわ」


 せっちゃんにお金を払い、傷薬を持って俺たちは部屋に戻る。

 セシルが追加で布団を持ってきてくれた。


「お休みでした」


 まだ起きてるよ! 語尾が過去形だとわけがわからない。


「メルザ、その子に傷薬を縫ってやってくれ」

「あぁ、わかった。うへー、こいつ胸でかいなー。ぽよぽよだ」


 どこ触ってるんだよ! まぁいい、俺は明日行く場所を再確認しよう。

 鍛冶屋と道具屋と……あと呪いを解くような場所はないかな。

 呪いってどうやって解くんだ? 前世だと祈りとか魔法だったよな。

 魔法は前世にはないか。呪いもあるかわからん。

 幻魔神殿ってのがあるな。ここにも行ってみるか。


「うぅーん。お宝……」

 

 色々と考えているうちに、ファーフナーの目が覚めたようだ。


「よう、お前胸でけーな。おっきくする方法教えてくれよ」

「なっ……! お前たちは! きゃっ。ちょっとどこ触ってるのよ!」


 ファーフナーは目を覚ますと、ニーメの前に立ち、俺たちに身構える。


「私たちをさらってきたのね。そう簡単に売られてたまるもんですか!」

「いや落ち着けって。傷だらけだったから運んできたんだよ。

あんな何もないようなとこじゃ治療も出来ないだろ」

「姉ちゃん、この人たちなら大丈夫だよ。

俺たち子分なんだってさ! 親分が面倒見てくれるって。な、親分」

「そうだぞ、お前らはこの俺様、メルザ・ラインバウトの子分だ! にはは!」

「はぁ? なんで私があんたの子分なわけ? それにニーメまでなんで子分なのよ!」

「まぁ落ち着けって」

「ぱみゅー? ぱーみゅぱーみゅ!」


 俺たちが止めようとするとファーフナーはパモに釘付けになる。


「なにこの子ちょー可愛い! ふわっふわ。ナニコレ欲しいちょー欲しい! 

あなたのお名前は? ねぇねぇ!」

「ぱみゅ? ぱーみゅぱーみゅーー!」


 飛びついてパモをもふもふしている。その気持ちはわかる。

 俺もパモをしょっちゅうもふもふしている。


「そいつはパモだ。俺はルインでそいつがカカシで……俺らの主

がメルザだ」


 メルザはエッヘンとポーズをとっている。

 カカシは眠っているようだ。カカシって寝るんだな。


「いいわ、この子と一緒にいられるんならあんたたちについていっても。

けど勘違いしないでよね。まだ認めたわけじゃないから!」

「それはいいけど、もう盗みは働くなよ。なるべく食べ物とかは

用意するから。その代わりちゃんと働いてもらうけどな」


 それを頷いて聞きながら、ファーフナーはパモをもふもふしている。

 パモの移動にはファーフナーが常に持ち歩いてくれそうだ。


「そうそう。聞いているかもしれないけど、私の名前はファーフナー。ファナでいいわ。

今日は疲れたからもう寝るわね。ニーメもこっちに来なさい」


 そういうと、片方のベッドにニーメとファナが寝そべる。

 メルザも疲れたのかもう片方のベッドで横になっている。


 ……仕方ない椅子で寝るかと思っていたら、メルザが俺を呼んでいる。


「ちょっと心配だから手を繋いでてくれよ。

ゴサクみたいにルインが突然消えたら俺様は困るから……」


 仕方ない主だ。いなくなったりしないさ。

 俺はお前とずっと一緒だ。これまでも、そしてこれからも。

 それから俺は、心配そうにしているメルザの右手をしっかりと握り、眠りについた。


 ――――翌朝……といっても夜なんだが、俺たちの部屋をノックする音が聞こえる。

 

「食事の準備が整いました」


 セシルが起こしにきた。過去形でも正しい表現となっている。

 俺とメルザ、ファナ、ニーメを連れて食事に行く。

 ニーメとファナも良く眠れたようで、昨日と比べると顔色はいい。

 怪我も十分回復したようだ。

 ……しかし、カカシはまだ寝ているな。


「あらぁおはよう。寝起きもいい男ねぇ。頂いちゃおうかしら」


 後ずさりする俺を「冗談よ」とからかうせっちゃん。

 朝からヘヴィなスケルトンジョークを食らった。


「朝食はパンに酸味の効いたジャムよ。それにスープと

ギガンポークの腸詰にレノンのジュースよ。パンはお代わり

してね」


 久しぶりのまともな食事なのか、ファナもニーメもがっついて食べている。 

 それを見て考える。前世は飽食だった。食べ物は捨てられ腐らせるような事もあった。

 この世界では考えられないだろう。

 しっかり食べられる環境があれば、小さいニーメのために盗みを働くなんて考えなかっただろう。

 それだけ前世は、恵まれていたんだろうな……。

 そう感じる程、ここまで見てきた場所は、貧しい所が垣間見えていた。


「食わないならもらっちまうぞ? いいのかルイン、ルーイーン!」


 考え込んでる俺を心配してか、メルザは俺の顔を覗き込んでいる。

 考えても仕方のない事か。今は忘れるとしよう。

 ファナとニーメは四回もパンをお代わりして、お腹をパンパンに膨らませていた。

 俺の肉はファナとニーメに少し分けてやると、メルザに羨ましそうな目で見られた。

 近いうちにでも美味しい物を沢山用意して、こいつらに食べさせてやろうと俺は誓うのだった。

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