第十七話 静かなる裂け目にて

「この子、女の子……だな」


 倒れた少女はおさげの髪に緑色の服を着ている。


「こいつ連れてとりあえずゴサクを助けようぜ!」


 俺はメルザにそう言われて少女を担ぐが

 ところどころ衣服が破れている……しまった。前が思い切りはだけている。


 「バカ!」と言われて突き飛ばされる俺。不可抗力だ! 冤罪だ! 

 メルザは少女を片手で担ぐと少し引きずりながら歩き出した。


「見えてしまいました」


 冷静に分析するなよセシル! 

 俺は後ろからメルザに続き、裂け目へと入った。


「おぬしらも大変だったんじゃのう。それでここに移り住んで

どのくらいになるんじゃ?」

「二年位だよ。じーちゃんはどこに住んでるの?」

「わしは主に拾われたばかりでのう。これから何処に行くかは

主次第じゃな。どうだ、お主も来るか? 頼んでみるぞい?」

「えー、いいのー! 姉ちゃんと一緒でいい?」


 おかしいな。裂け目の中から爺さまと孫の和気あいあいな会話が聞こえるぞ。


「あ、姉ちゃんどうしたの!? ひどい傷じゃんか! 敵がきたから

ほふってくるって言ってたのに」


 少年はこちらを睨むように見る。

 奥にはカカシもいるようだ。やれやれ無事か。


「おめぇがゴサクをさらった犯人か! 覚悟しやがれ!」

「ひっ……怖いよぅ、爺ちゃん」

「主よ。子供を泣かせてはいかんぞ。よしよし……」

「ゴサクを助けに来たんだろ! 心配させやがって」

「そういえばわし、さらわれたんじゃったな。ふぇっふぇっふぇ」


 カカシよ。メルザが燃斗を打ち込む前に謝るんだ。


「いやーすまんかった。じゃがわしなら大丈夫じゃ。

この子らも悪気はあったんじゃが悪い奴ではないかもしれん

とも言い難いが、大丈夫じゃ」


 どとらかというと悪いで終わってる気がするな……。


「んで、こいつらはとりあえず何処かに突き出せばいいのかい?」

「そんな……謝るしちゃんと返すよ。僕たち生活が苦しくて。

町にいたときに門番と話してるのを聞いてさ。

意思のある生き物なんて思わなかったんだよ」

「わしが呆けている間に攫われそうになってのう。

地図に印だけ残したんじゃ。じゃが退屈だったんでそこの小僧と

話してたらついつい……な」


 ……この流れだとカカシがしっかりしてれば連れていかれなかった可能性があるな。

 この一件はもしかして、カカシのせいになるのか? 

 だがひと様の部屋に勝手に入って物を持っていったらいけないな。


「んじゃよ、おめぇたちは今日から俺様の子分だ。

俺様の子分であり弟分でもあるルインに負けたんだ。

この女は俺様の所有物。おめえは盗んだ代わりとして

俺様の所有物だ。にはは!」


 えーっと暴君かな? どのみちここに放っておくわけにもいかないか。

 メルザのことだ。気に入った奴らの面倒は見たいんだろう。


「わしも主にそう提案しようと思っていたんじゃ。よかったな」

「本当に許してくれるの? 突き出されるかと思ってた。僕はニーメ。お姉ちゃんは

ファーフナー。よろしくね!」


 そういうとニーメは一生懸命丁寧に挨拶しようとする。

 謝るのは大事だ。そして罪も償う必要はある。


「あ、お姉ちゃん服がびりびりだ。これお兄ちゃんがやったの……?」


 違う、誤解だ! これは命を守るための代償だったんだ!  

 メルザとパモがジト目で見てくる。いやお前らだってやっただろ! 

 ニーメは奥から替えの服を取りに行き、姉に着せてやった。

 お姉ちゃん思いのいい弟のようだ。

 それから姉が迷惑をかけたと言い、俺に奥へ来るよう呼び掛けている。


「これ、ちょっと呪われてるけどあげるよ。呪いをどうにかしてからなら

使えると思うんだ。僕には呪いを解くお金も知識もないから」


 お礼に呪いのアイテムをプレゼントって、やばい展開の時だよな。

 俺はアナライズしてみることにした。落人の籠手の影響? か、以前より

詳しく調べられる気がする。


 アンドヴァリの神聖腕輪(死呪XX不幸XX)【アーティファクト】


バッドステータス 幸運-99999  3歩事死25%

かつて神々がドワーフより奪ったとされる腕輪

極めて強い呪いがかかっており身に着けるものを

不幸のどん底に陥れる

その効力は神ですら危惧するとされる

アーティファクトは壊れる事がない



 ……とんでもない腕輪のようだ。見た目こそ美しいが

禍々しさがある。


 メルザに身に着けないよう釘を刺しておこう。

 俺は腕輪を受け取ると、ニーメにも説明をしておいた。




「そろそろ帰りました」


 セシルにそう催促され、俺たちは宿に戻る道を急ぐことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る