第30話

"おとーしゃん、どこいったのぉ?おかぁしゃんがいないよぉ、おとーしゃんにあいたいよぉさみしいよぉ。みすてないで、たすけておとーしゃん…"


娘のエイシャだ。


俺は目の前の不定形を抱きしめようとする。が、触れた途端ボロボロに崩れる。


本当になんなんだこれは。


声だけ聞こえる。しかも、ランダムでだ。


「ゴボゴボ!ゴボゴボゴボゴボゴボゴボ!ゴボゴボゴボゴボゴボゴボ!!」

(クソが!一体どうすれば良いんだよ!誰か教えてくれよ!!)


…あー、虚しい。いきなり騒いだからシャチ達に遠巻きに白い目を向けられてる気がする。すまんな。


"…多産のバケモノが他国に逃げた不始末を、アンタら陰陽連に支払ってもらおうか?"


不定形から久しぶりの娘達以外の思念が流れてきた。内容的に陰陽連ってあのクソ共か。


それに多産のバケモノ?やっぱり、間違った内容で記録されてるな。俺ミミズじゃないから女居ないと子供できないぞ。ネズミや猫じゃないからぽんぽん増えないぞ。多産って一体何処から持ってきたんだ?謎だな。


"30年も昔のことを持ち出されて責任取れなんて言われたって、俺達が生まれる前の話だ!それに陰陽師達が調伏出来ないバケモノなんて実在してるわけないだろ!"


いやいや、不老不死のバケモノなら此処に居るぞ!


"とにかく、払うもの払ってくれないなら…アンタを残して陰陽師は根切りだね。おめでとう、最後の陰陽師になれるよ。パチパチパチ"

"ぐ、分かったよ!やりゃいいんだろ!但し、俺が"

"分かってる。悪いようにはしないさ。"


陰陽連、滅びれば良かったのに。


"これより、行う儀式は死者を弄ぶ邪法である反魂の術。人の道を踏み外す愚行だ。だが、我ら陰陽師達の存亡の危機だ。背に腹はかえられぬ。…では始めよう。"


やっぱり、奴らの仕業かよ。クソが!


"儀式は成功したようだね。で、これからどうするんだい?"

"…呼び出した魂に刻まれている記憶からバケモノに対する執着を強めて、コイツらに探させる。"

"でも、すぐに殺られちゃわない?姿も歪だし?顔なんてほとんどぐにゃぐにゃになってるよ?"

"バケモノ由来の素体だから多少人間離れしていても所詮はバケモノから生まれたマガイモノ。人間モドキの姿なんてテキトーで良いんだよ。それに、コイツらは普通では壊れないように術式を込めてある。…だが、龍神由来の海水に身体の半分が浸かると術式がなくなっちまなうのが難点だ。"

"龍神由来の海水?"

"海は龍神の管理下だ。ただの塩水で効果はない。文献に残されていたバケモノの由来は山の神の霊薬を口にしたこととある。山と海では相性が良くない。施した術式も山に親和性があるものにしているから海水が弱点になってしまうのは仕方ない。"

"件のバケモノは海を泳いで他国へ渡っているようだが、バケモノは海との相性悪くないの?"

"…何故、反発し合うはずの相反する力が悪さをしないのかは分からない。とりあえず、コイツらを海底トンネルで大陸へ行かせる。あちらの方にもバケモノの種子で生まれたマガイモノが居れば管理しやすいように始末してから人形にすれば良い。"

"最も残忍に苦痛を与えた素体しか反魂の術が効かないから面倒くさいがな。"

"人のカタチをしたマガイモノに良心が傷付くのか?"

"そんな繊細な心があるかボケ。ただ、人間の真似をしているのが無性に腹立つのよ。だから、やりすぎて疲れちまう。それが面倒くさい。"


クソがクソがクソがクソがクソがクソが!!!アイツら、本当に昔から相も変わらずに腐ってやがる!人の命をなんだと思ってるんだ!


"どうやら、バケモノはソマリアに居るらしいぞ。"

"そうか、随分と遠い場所に逃げたな。ま、良い。とりあえず、この前鹵獲した外国人の船にマガイモノ達を積んでソマリアに輸送してやれ。"

"今の船は全部、無人で場所指定すれば勝手に動いてくれるから楽で良いよな。"

"そうだな。前世にも欲しかったくらいだよ。"


!!!

陰陽連に、俺と同じ前世持ちが居る?まさか、同じ世界の?…あんなことを平然と出来る連中の中に俺と同じ世界の奴が?なんであんなことを平然と出来るんだ?俺と同じ人間だったのか?


"おい、ソマリアにバケモノ居なかったぞ!"

"いや、一足遅かったようだよ。バケモノの種子で生まれたマガイモノは既に原住民に処分され、バケモノは海底深く檻ごと沈められた。その沈められた檻は見るも無惨に鉄くずになってバケモノの行方知れず。何処へ行ったのやら。"

"んな暢気なこと言ってられっか!米国が帝国に宣戦布告したんだぞ!"

"それなら、マガイモノを輸送してやれば良い。兵士としても兵器としても優秀だろ。"

"それも全て沈められた!どうすんだよ、米国は核を放つ気だぞ!?それも前世の比じゃない、帝国の地を海に沈めるつもりだ!"

"なぁ、歴史を変えたらどっかで揺れ戻しが発生することを考えたことがないか?それが今だったって話じゃないのか?"

"諦めんなよ!俺らが必死こいて、歴史を変えて帝国を強国にしたんだろうが!前世のように他国に舐められるような情けない国じゃない、自国民が誇れる国にしただろ!歴史の揺れ戻しがなんだってんだ!"

"…正直、私は疲れた。"

"は?一体何を…?"

"転生の術で子孫の肉体を乗っ取り、何百年と生き続けてやっと平穏に過ごせると思いきや高々、精力旺盛な不老不死の男に百年以上も付き合ってやれん。あんな男に関わったばかりに今度は帝国が米国に滅ぼされようとしている。なんてバカバカしいとは思わんか?"


因果応報だろバーカ!にしても、転生の術とかとんでもないことをしてんな。閻魔大王がいるなら地獄行き間違いないだろうな。


"…我ら陰陽師が死に絶えようとも、マガイモノ達は滅びぬ。バケモノよ、ゴボッ!…ハァ、お前が苦しむ姿をもう一度見ることが出来ないことが私の心残りだ。…先に地獄で待っているぞ。"


鳥肌立った!これ、完全に俺宛てのメッセージじゃん!きもっ!しかも、先に地獄で待っているぞ。キリッ、じゃねーよ!誰が地獄なんぞに行くかバーカ!お前らだけで落ちてろボケ!


そうか、彼女達を救える方法は海しかないのか。うーん、どうすればいいんだ!


とりあえず、シャチくんの背中にライドオン!海版ロデオで現実逃避しよう!今はそれしかない!


ああ〜!し、尻が!4つに割れる〜!!

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