第28話

シャチと共に海で生活をし始めて随分経つ。


俺が出会ったシャチの群れは回遊型のようで特定の海域に留まらないから刺激的な毎日だった。


発情中のクジラの巨塔並の棒を噛みちぎってクジラを怒らせて返り討ちにしたり、シャチを狩ろうとしてきた人間の船に俺をぶつけて(物理)船底に穴を空けて沈没させたり、ホッキョクグマを海に引きずり込んで食したり(俺はホッキョクグマにお持ち帰りされそうになったが)…


出会った当初は10数頭の群れも今では50頭前後の大世帯になった。


何世代も代替わりしても俺はシャチに咥えられている。群れの中の1番元気な若い個体に受け継がれる感じだな。


シャチの寿命は知らないが何世代も代替わりしてるから数年くらいか?長く共にいる気がする。


※シャチの寿命は約50年から90年くらい。


"どこ?どこ?どこ?どこ?どこ?どこ?"

"あの人が見つからない"

"■■■ちゃん、どこ?ねぇ?"

"お■■■ゃん、どこ?さみしいよぉ"


最近になって、不定形達からの思念が意識しなくてもハッキリと聞こえるようになった。


だが、俺には分からない。一体、誰を探してるんだ?…俺には関係ないだろ。





今日もいつものように、哀れな船をシャチ達と共に襲った。だが、今回は乗組員が居なかった。無人船だった。


海という逃げ場のない環境だが、俺はシャチ達からある程度の自由を与えられてる。


今、俺は沈没させた船内を海底で探索している。最近の情勢が知れれば良いなぁとか何か美味そうな携帯食無いかなとか思って。


今回、沈めた船は船内に個室が5つある作りで1つはキッチン、残り4つのうち3つは倉庫、最後の1部屋はよく分からない。色々な機械が所狭しと壁に固定されていた。


俺はキッチンで拝借したウインナーを食す。久しぶりの肉は美味い。さて、見るものも食べるものも済んだが今の世界情勢のことが知れてないな。


このよく分からない機械をいじっていれば…ん?タブレット端末がある。未だにタブレット端末があるなんてとは思うが利用者が居れば残っていても不思議はないか。前世ではスマホが世に溢れていたのにガラケー使っていた人が居たもんな。


でも、どっぷりと海水に浸かってるから使えなくなっているかも?俺はダメ元でタブレット端末の電源ボタンを押して動作を確認した。


すると、ロックもされていなかったようでホーム画面が映し出された。壁紙はデフォルト草原。アプリのアイコンは全く知らない物だったがファイルアイコンだけは前世と同じだった。


とりあえず、いくつかあるファイルアイコンにタッチして中身を見る。…英字で書かれているメモ?がいくつかと動画データがいくつか入っていた。英字はさっぱり分からなかったが動画はニュース映像の切り抜きって感じで編集されたもののようだ。


内容は市街地でテロ?内戦?があったのかってぐらい荒れた街並み、逃げ惑う男女、泣いてる子供、瓦礫の下敷きになった人々…そして、黒く歪んだ女達が何かを探すように身動きが取れなくなった人を1人ずつ顔を確認し、首を横振りして殺して回っていた。


軍隊が黒く歪んだ女達に銃火器を浴びせるが、木っ端微塵になったかと思ったのにグズグズと逆再生したかのように元通りになった。


戦車の砲弾も戦闘機のミサイルも黒く歪んだ女達には効かなかった。


弾切れをした兵士が次々と散り散りに逃げ惑うも体力の限界を迎えた兵士から順番に殺されて行き、遂に放送していたスタジオまで襲撃され映像は生きてる者が居なくなったスタジオと黒く歪んだ女の顔をドアップした状態で終わっていた。


…他の動画も確認したら使われている言語は違えど似たような感じのニュース切り抜き動画だった。だが、1つだけ違う動画があった。このタブレット端末の持ち主が撮影した物だろうか所々手ブレが酷い動画があった。


それには、黒く歪んだ女を船から海に突き落としたら黒く歪んだ女が泡になって消えるという内容だった。撮影者と数人がその事に喜んで居たが他にも黒く歪んだ女達が船内に居たのか次々とお互いの数を減らしていった。


撮影者はなんとか、俺がいる部屋に辿り着きタブレット端末を部屋に残しておくから役立てて欲しいみたいな雰囲気を醸し出して動画が終了していた。


…思った以上に終末世界になってんじゃん。分類的にゾンビパンデミック系に近いな。


にしても、黒く歪んだ女のドアップ映像に映っていた女の顔…川漁師の娘に似ていた。顔のほぼ半分がぐにゃあと歪んでいたけど、川漁師の墓で会った時と同じ顔だった。


まさか、黒く歪んだ女達って俺の縁者が素体になってるのか?


胸糞悪い。死者を弄びやがって。


…最近の不定形達の思念がハッキリ聞こえていたのって全部、俺を探す声だったのか?何故?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る