第16話

"あのバケモノはまだ地下に封印されている"

"あのバケモノはいつか、地上に出てきて人類に大いなる災いを齎す"

"あのバケモノを滅することが我らの宿願"

"あのバケモノを滅することが出来た者が陰陽師の頂点に立つ"

"最近、人口が減少傾向にある"

"女が生まれにくくなった"

"今こそ、我ら男が大日本帝国の覇権を手にする時"

"女たちを管理するのは俺達、男だ"

"おい、女が最近生まれなくなったぞ"

"管理する女が減るのは楽で良いが人口減少は由々しき事態だ"

"なに?地下に陰陽師達が封印した女を産ませるバケモノがいる?"

"バケモノに女を作らせれば我らの天下は安泰だな!"

"陰陽師達の抵抗が激しいな!"

"見せしめに陰陽師の女たちをなぶり殺しにしてやれ、奴らも今までやってきたことが帰ってきたんだと思うだろう"

"くっそ、あんな隠し玉を持ってたなんて!"

"押せ押せぇえええ!"

"こんな地下深くにセメントとともに沈めたなんて、そんなにヤバいバケモノなのか?"

"さぁ、バケモノを掘り起こすぞ!"

"な、どういうことだ?"

"おい、ここに更に下へ続く人1人入れる穴が空いてるぞ!"

"まさか、既にバケモノに逃げられていただと?"

"陰陽師達め、杜撰な封印をしやがって!"

"おい、どうするんだ!国内の女を殺しすぎてもう女がいないぞ!"

"こんなはずじゃなかった!"

"ああ、大日本帝国はおしまいだ"

"昭和天皇がまさか、存在してなかったなんてな"


「え、昭和天皇が存在してなかったってどういうこと?ああ!…肝心な時に消えちまうなよ。めっちゃ気になる。」


どうも、俺です。今は何処か分からない海を漂流してる。


あの後、自分の規格外な防御力でセメントを砕いて更に地下へ掘りながら脱走した。日本には陰陽師達がいるからそのまま日本以外の国に行こうと思ってテキトーな方向に進んだら海底に出た。イカの大群に身体中をつつかれたり、抱き着かれたりしながら海上まで浮上に成功した。


最初は泳いだりしていたが、疲れたのでそのまま波に流されていたら楽だと言うことに気付いて漂流することを選んだ。


どうせ、いつか船が通りかかるんだ。その時に乗り込めば何とかなるだろう。言葉は…なんとかなると思いたいな。


腹が減ったり、水が欲しかったりする時に海藻食ったり海水飲んだりしてるが死なない身体だから普通に平気だった。俺意外と何処でも生きていける?ま、めっちゃ人外な方法だけど。


どんぶらこっこ、どんぶらこ


こうしてると、越後国に流れ着いて川漁師こと川澄涼子と出会った時を思い出す。それから色々あって、麻乃と暮らした数年間の幸せな日々、麻乃との間に授かった麻陽と束の間の家族という平穏な日々。ろくな最期じゃなかったがどうか、安らかに。


ブォォォォ!ザバァ、ザバァ


ん?何かが急速に近付いて来てる?船か?いでぇ!


ゴンと身体全体に衝撃を受けて海中に沈む俺。痛くないのに痛いと思っちまうことがたまにある。昔の感覚がまだ残ってるんだろうな。


そんなことより、どうやら俺はエンジン積んでる漁船に追突されたらしい。なんか、ファーストコンタクトが嫌な感じだからこの船はチェンジだ。


俺は船体の底へ潜って、底を蹴って海底へ更に潜った。身体の浮力で浮き上がりそうになっても岩場とか掴んだりしてれば平気だ。


しばらくすると、漁船から網が海へ投下されるが俺はそれを全て見てから避けた。業を煮やしたのか、スキューバダイビングのような格好をした女が海の中へ入ってきた。手には銛が装填された水中銃が握られていた。女は海中で俺を視認して最初は驚いていたようだが、手に持った水中銃で俺を狙って撃ってきたが俺は素早く避けて更に深い海溝に逃げ込んだ。


女は必死に俺を追いかけて来るが、イカの大群に襲われてパニックに陥る。アレ、死んだな。


しばらくすると、身体から徐々に力が抜けてピクリとも動かなくなった。


俺はイカに群がれている女の元へ行き、脈を測った。…死んでる。せめて、海に帰れるように女の装備を全て外して全裸にした。すると、今まで静観していたイカのボスみたいな俺よりデカイイカが女を鋭い嘴で啄み始めた。それを見た大群の大小イカが次々と女の遺体に群がり始めてあっという間に女の姿が見えなくなった。


俺はその場を後にした。何杯かのイカ達が俺に着いてきていたが群れからそんなに離れられないのかある一定の距離から群れの方に戻って行った。


俺は海上の漁船を見上げる。まだ乗組員がいるのか船が揺れている。あの女の帰りを待ち続けるんだろうな。


ま、俺は関係ないさ。


何日も海底を歩いた。海上で漂流するのはリスクがあり、面倒事が勝手にやってくると分かった。それに、海中は変わり映えしないと思っていた存外そんなことはなかった。澄んだ海は穏やかで陽の光で煌めいて見える。イルカに見つかっておもちゃにされたが悪い気持ちはなかった。サメに噛み付かれてあっちこっちに連れ回されたが新鮮な光景で面白かった。


そんな海中旅行もある日突然、終わりを迎えた。その日も別の個体の大型人喰いサメに噛み付かれながら海中をサメの誘導で移動していた。突如、サメが進路を変えて何処かに向かった。せめて、俺を離してからにしろよ。


目指す場所に何があるか分からないが他の大型人喰いサメ達が他にも同じ方向へ向かって泳いでいた。


十中八九、血の匂いで集まった感じかな?俺はなすがままサメちゃんに運ばれるだけだ。


辿り着いた海域では海中に大きな檻と周囲を血で真っ赤に染めたマグロの頭が散乱していた。あ、これ前世で見たやつじゃん!超懐かしい。


サメちゃんは、此処に来て食えもしない俺を噛み付いていたことに気付いて、解放してからマグロの肉片争奪戦に参加しに行った。にしても、本気のサメちゃんの迫力がすげえな。


ドボン!んん?何か海中に入ってきた?俺は周囲を見回すとダイバーが1人、俺を捕まえようと接近して来ていた。


ちょ、触んなって!あっち行け!と抵抗するもダイバーに捕まった俺はそのまま、ダイバーの船に乗せられた。


「Maxaad samaynaysaa oo sidaas u labbisan!」

「何言ってか分からないけど、怒られてるのは分かる。」

「qof caynkee ah ayaad tahay?」

「だから分からないって」

「Ku filan aan ku geyno guriga」

「雰囲気的にお持ち帰りされる的な?にしてもこの人ら何処の国の人だ?アジア系ではないけど、アフリカ系に近い?んー、分からん!」

「samaynta buuq la'aan」

「はぁ、久しぶりの地上は重力が重いな。少し寝たろっと。」

「Damiir laawayaal」

「weli ilmo」

「qurux badan」


異国の言葉を子守唄にして俺は意識を手放した。

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