第11話

次に、川漁師に会ったのはアレから10年後。一児の母になっていた。当然、俺の子だ。そうか、2周目は10年か。


ええと、此処に入れられたのが18の頃だから今33歳になったのか…俺気が付いたらアラサーになってた。


俺の日常は相も変わらず。いや、最近若い子が来るようになったのと2周目来てないのが居るくらいか。


役所員は入れ替わり激しいからよく分からない。最初の頃のクソ所員はもうだいぶ前から見てない。


飯抜きもあの時だけだな。


種馬ライフを満喫していたある日、越後国主つまり県知事的な役職の人が代替わりしたとかでわざわざ挨拶しに来た。何で?最初、挨拶すらなかったのに。


「この度、越後国主を襲名した者だ。」

「…」


こういう場合、どうしたらいいのか知らないから目を合わせないようにしてるけど正解かな?前世、目上の人の目を見て話を聞いていたら怒られたことがあるから許可があるまで目を見れなくなった。


「名を聞こうか。」

「…」

「…名乗りなさい。」


越後国主とそのお付きの人に名乗れと言われたが名前なんてねぇよ!!もうめんどくさいからアレ言ってみっか。


「…桃太郎と申します。」

「…貴様!」バッ


お付きの人がブチ切れて持っていたカバンを俺にぶつけようとするが


「待ちなさい。もう一度聞きます。名乗りなさい。」

「名はありません。越後国に流れ着いた時に出会った川漁師に名付けてもらったのが"桃太郎"なのです。」

「川漁師?」

「何年か前に再会した時には一児の母になっていました。今、どうしているか知りませんが幸せであればと思っています。」

「…」

「調べます。」

「任せるわ。それでは、桃太郎よ。あなたは一体今の歳はいくつですか?」

「その前に今は昭和何年ですか?」

「昭和128年です。」

「…61歳になります。」


驚いた。その場の俺を含めた全員が驚いた。川漁師と最後に会ってから更に28年経っていた。


昭和天皇長生きし過ぎ問題。


最悪、川漁師往生してそう。というか、あん時で9歳の子供が今37歳くらいになってんのか。知らずに致してそうで冷や汗が止まらない。


他にもヤってそう…これ以上は気を失いそうだから一旦考えるのをやめよう。


それと、俺自身の肉体年齢が18歳の頃から止まっていることが証明された。


「ば、馬鹿なことを言うな!そんな荒唐無稽な話を信じられるか!!」

「…」


越後国主はだんまり、お付きの人達がやんやん言ってくるけど事実なんスよ。ホント、ホント。


「今まであったことを全て話しなさい。」

「…分かりました。」


…病院から越後国に流れ着くまでの一連の流れを事細かく話した。竿捨山の中で飲んで浴びた液体のこと以外全て。多分、アレが全ての元凶だから。


「これが私の半生全てです。」

「…戸籍上の名前が鈴々木司で信濃国出身、ね。」

「既にとうの昔に死んだ者の名前なので私には名乗れません。」

「名前が無くて不便はしてないのかしら?」

「そもそも、誰が男である私の名前を気にすると?男は全て家畜。今の私の環境も家畜小屋で永遠と種馬として女を相手にする。そんな者に名など昔も今も必要とされてきません。物心ついた時から私は死んでも良い者として扱われて来ました。此処に入れられる時もそうです。当時の所員に此処のことを監獄だと言ったらお前は殺しても良い家畜だと言われ、罰として食事抜きにされ種馬としての業務はそのままでしたよ。そんな私に名前?私はそんなのはいらない。欲しいのは生きることを脅かされない暮らしだけだ。女と行為をするのは好きだから強制されなくてもやってやるよ。」

「…」


…はっ!や、やっちまったー!?ついつい、この数十年間の溜まりに溜まった色々が口からスラスラ出ちまった!今度こそ殺される!ほら!お付きの人達の顔が修羅になってる!!あわわ


「ふふふ」

「え」


越後国主がいきなり笑い出したんですけど!怖っ!


「確かにそう。その通りだ。名が無くても誰も気にはしなかった。今までは、ね。」

「?」

「あなたが越後国でどういう風に伝えられているか知ってる?知らないわよね。ふふふ」

「…何のことを言ってるのか分からない。」

「今の越後国の大半の人間があなたの子種で生まれた民なのよ。それで、あなたと実際に交合ったことがある、かつての女達があなたのことを"越後国の父"と影で揶揄っていたのがいつしか名前がないあなたの呼び名になったわ。今では略されて"国父"となっているわね。」

「は?」

「それだけじゃないわ。あなたの娘との間に出来た子供に遺伝子異常がなく、更に孫娘との間に出来た子供も異常ナシ。更にひ孫、玄孫、来孫とまったくの異常ナシ!」

「え、ま、まさか!最近の若い子達は?」

「そうよ。あなたの来孫にあたる女よ。」

「年齢が合わない気が…」

「そりゃあ、普通ならそうよ。普通ならね。でも、何故かあなたの種で生まれた子って皆早熟で初潮も早いのよ。」

「20代とかに見えたが?」

「あれでもまだまだ10代半ばよ?おじいちゃん、ボケるの早くない?」

「お、おじいちゃん呼ばわりされ…」

「いいえ、血の繋がったおじいちゃんよ。あなたは。」

「はぁ?」

「うふふ、はじめまして。おじいちゃん。迎えに来たわ。」

「え?迎え?」

「そうよ。私の家に帰りましょう。」


ある日突然、俺のことをおじいちゃん呼ばわりする自称孫娘が家畜小屋から外へ43年ぶりに出してくれた。

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