第8話
ちきききき
んん…
ふんす、ふんす
…んん?
ふんす、ふんす
何だか獣臭いな…
意識を取り戻した俺は獣臭さを感じて腕を動かした。
もふっ
んん?
もふもふする何かに手が触れている。何に触れているのか目を開けて確認してみると。
タヌキが目の前にいた。アライグマでもハクビシンでもない。日本固有種の獣、タヌキが。
な、何故俺の目の前にタヌキが居るんじゃい。
ウユーン
お、お前!そんな鳴き声なのか!?
タッタッタッ
ああ、手の幸せが逃げてく〜!カムバックポンポコ
ちょっと待て。んん?ん?あれ?あれー?
…身体中の傷が全て消えてる。そして、唯一の装備品だったブーメランパンツが無くなってる。斜面を転がってる途中で紛失したんだろうな。
幸いなことに全裸なのに全く寒くないから良いけど股間の装備が落ち着かない。こう、ぶらんぶらんとしているのが。え?ブーメランパンツの時と変わらない?はみ出てはいたけど、あれでも安定性はあった。
とりあえず、綺麗な身体になったから人里に出て服と仕事を探そう。仙人になるのは今度で。
俺は軽い足取りで下山した。すると舗装された道にさっそく出た。お、ラッキー。これで帰り道は楽だな。ん?なん、だ?
俺は宙を飛んだ。何故?
変な車が舗装された道を歩いていた俺をノーブレーキでぶつかってきたから。
どしゃ!と地面に落下した俺。意識が定まらない。ああ、こりゃ死んだわ。そう思った俺は訪れる死をじっと待った。
すると変な車から複数人が降りて俺の方に歩いてくる。
「んん?誰だコイツ?」
「さぁ?私達が知る犬とは違うわね。」
「綺麗な身体してるのに勿体ないことをしちまったかね?」
「ま、男なんて星の数居るんだから1人減ったところで大した差はないでしょ。」
「それより、コイツの始末どうするんだ?」
「面倒だけど、そこの川に落としましょ。」
「えー、死体触るとか嫌なんだけど。」
「なら、蹴りながらあそこまで運んで蹴り落とそうか? 」
「それ、賛成!」
「ダルいけど、やってみようかな。」
「誰が最初に蹴るかジャンケンで決めようぜ!」
「「「「最初から!」」」」
「「「「最初はグー、ジャンケン!」」」」
「「「「ポン!あいこで、ホイ!」」」」
やっべー、新参の家政婦ずだアイツら。古参家政婦さん達は加虐趣味についていけなくなって辞めて行ったから代わりに元ご主人様が雇った、俺が傷だらけの頃しか知らない新参の家政婦達。アイツら傷ついてる俺に塩水ぶっ掛けたりしてきたから嫌いなんだよな。
まさか、俺を始末しに来たのか?ご苦労様なことで。元ご主人様の指示かね?いや、こんな面倒なことをするなら屋敷内で殺れば良いから違うか。ということは、コイツらの独断か?つくづくクソッタレな奴らめ。
というか、誰も勝負運無いな!?いつまであいこやってんだよ。
ちょっと待てよ。俺、車に撥ねられたよな?なのに、身体の痛みを感じない。…新参の方の様子を伺う。まだあいこしてる。
逃げるなら今だ!と全力で転がる。
目指すは川だ。同じ街は元ご主人様がいるからダメ。なら川に入って別の街に行く。我ながら完璧じゃないか。ふははは!
ドボン!ゴボゴボ、はい、ゲームセット!ゴボゴボ…
「あ!死体が川に流されてる!」
「まだ生きていたのかしら?」
「ま、アレじゃ助からないでしょうに馬鹿よね。」
「手間が省けて良かったと思うしかないな。それよりも犬を探し出さなきゃな。」
「そうね。きっちりと始末しないとね。」
ばーかばーか!お前らに始末されるわけないだろ!はっははは!
にしても、水の中だってのに苦しくないな。やっぱ、あの不思議な液体が全ての元凶か?ま、ラッキーだったと思っておこう。
次の街で、何をしようかな?んー、元ご主人様と女医と新参達みたいのとは関わり合いになりたくないなぁ。飼われるのが1番楽だけど、殺されるのだけは勘弁だな。
やっぱ、風俗かな?住み込みで衣食を保証してくれるなら何処でも良いかな。
あー、楽しみだ。
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