17.同じ顔の少女
明かされたトゥエルブの素顔に、その場の誰もが息を飲み動けなくなっていた。
僅かな静寂の後、攻撃のダメージから回復したトゥエルブはゆっくりとその身を起こす。
―――やっぱり、似ている。
その銀の髪も、赤い目も、透き通るような白い肌も。
その姿は鏡越しに見た俺の、このレイミにとても良く似ていた。
唯一にして最大の違いは、その年齢。
俺ことレイミは10歳ほどのまだまだ幼い少女だが、目の前のこの黒衣の少女はおそらく10代後半。
身長は俺よりも高く、俺の顔の位置は彼女の胸の高さほど。
顔つきには多少の幼さを残すものの、その体のラインからは確実に大人へと成長しているのが見て取れた。
起伏の乏しい俺のカラダとは大違いでちょっとうらやま、って何を考えてるんだ俺は……。
とにかく!!、目の前の少女は俺のカラダを5~6年ほど成長させたような姿をしていた。
「…………、…………カーティス」
「……へ?」
トゥエルブの口から出た謎の言葉に、俺は戸惑いの声をあげる。
カーティス、って……人名か?
「……条件。……負けたから、【命令した人物を言うこと】を
ああ、なるほど。
俺を無理やり連れて行こうとしたこと、その黒幕の名前ってことね。
しかし、名前だけ聞いてもな……。
手掛かりになるのかこれ?、と思って他の3人に視線を移すと全員がスゴイ顔をして固まっていた。
「……カーティスって、まさか【
「さ、【
「…………うそ」
ジュンも、アガレスも、マリーも、その名前は聞き間違いであって欲しいといった様子だった。
三賢人?
純白って?
気になるワードだらけだったが、それを聞こうとしたその時、トゥエルブが割った窓へと足をかけた。
「…………条件に従い、ワタシは【目的をあきらめ】
「待ってくれ!!まだ、聞きたいことが……」
だが、バトルで俺が勝ち取った条件はこれで全部だ。
当然、彼女が待つ
窓に枠にかけた足を踏み出し、この場を去るべくその体を外へと向けようとする。
しかしその刹那、彼女は動きを止めるとその鋭く赤い目を俺に向けて言った。
それはこれまでの感情を感じさせないソレとは違う、まるで吐き出すかのような言葉だった。
「……偽りの名前、偽りの感情、偽りの記憶。…………どうして、ワタシたちはこんなにも違うの?」
―――ワタシたちは同じなはずなのに。
そんな呟きと共に、トゥエルブは外の闇夜にその姿を消す。
…………。
トゥエルブが残した言葉の意味は分からない。
だが、最後に俺に向けられた彼女の視線がいつまでも印象に残ってた。
その細められた目元に込められていたのはいかなる感情だったのか。
「…………何だってんだよ……」
今の俺には、何も分からなかった。
同じ顔の少女の存在も、黒幕の正体も、最後の言葉の意味も。
そう何ひとつ、だ。
● ● ● ●
トゥエルブが去った後、メチャクチャになっていたマリーの工房を片付けながら、俺たちは状況を整理していた。
まず俺が聞いたのは【三賢人】、そして【純白のカーティス】という人物についてだ。
3人の反応から有名人だろうというのは分かったので、まずは聞けば分かることから状況を整理するためだ。
それ以外のことについては、……正直なところ今はあまり考えたくなかった。
とにかく、内容を要約するとこうだ。
【三賢人】とはこのシティ・アルファにおいて個人としては最高権力を持つ3人のことらしい。
そのランクは最高位のランク10。
彼らが持つ権力は絶大で、限定的ながらもあの管理AI『マザー』の決定した政策への拒否権すらあるとのことだ。
そして彼らはそれぞれを示す色を二つ名として与えられており、その内の1人であるカーティスを示す色は【純白】。
つまり、通称【純白のカーティス】って訳だ。
「【純白のカーティス】は
ジュンがそう補足してくれるが、シティの政治体制が分からな過ぎていまいちピンとこない。
「中央議会は階級社会の勝ち組たちの集まりだ。そしてシティで階級をあげようと思ったら『マザー』に評価されることが第一になる」
つまり、とアガレスは続ける。
「中央議会のトップである【純白のカーティス】は『マザー絶対主義』の代表格って訳さ」
なるほど、ようやく見えてきた。
アガレスは『マザー』直々の指令である
トゥエルブは『マザー絶対主義』の最高ランク様の指令でやって来た。
つまりは今日襲ってきた全ての問題は、このシティの管理AI『マザー』が
なら、
「……俺はセントラルに行く」
それが、俺の答え。
トゥエルブ襲撃でうやむやになっていた、俺の次の目標だった。
降りかかる火の粉を根元から潰すために、そして何より彼らに狙われる俺という存在のことを知るために。
…………俺という存在、か。
今俺は、前以上にソレを知りたいと思っていた。
―――切実に。
同じ顔をした少女の存在、彼女の残した言葉、穴だらけの俺自身の記憶。
それらについて考えを巡らそうとすると、グラリと足元が崩れるような感覚を覚える。
俺は本当に……俺、なのか?
次回「中心都市セントラル」へ続く
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