10.セカンドバトル 突然の訪問者







「いいねー、かっわいいねぇ!!これにしよー」


しばらくマリーの着せかえ人形になっていた俺は、最終的にフリっとした可愛らしい白いスカートのワンピース姿になっていた。


彼女の言う通り鏡に写る俺の姿はとても可愛らしく、着せられた服はとても似合っていた。


促されるままに鏡の前でくるりと1回転してみると、フワリとスカートの裾がはためく。


『満更でもない、って感じだね』


「…………」


ヴァナの突っ込みに正気に帰った俺は、誤魔化すように咳払いをする。


赤く染まった顔がとても熱かった。


「おーい、そろそろ入っていいよー」


マリーが扉の向こうで待っているジュンに声をかける。


さて、この姿になんと言われるか……。


なんだか微妙にドキドキしてきた。


信じられてこそいなかったが、彼には俺が実は男であると言ってしまっている。


そんな俺がこんな少女な格好をしているのを見たて、一体どんな感想を持たれるのか……少し怖い。


しかし、いくら待っても彼は入ってくる様子がなかった。


いや、よくよく耳をすませば、建物の外で何やら争うような音が聞こえてくる。


「……!?」


その事に気がついたマリーと俺は顔を見合わせると、急いで外に向かった。


……なんだか、嫌な予感がした。




● ● ● ● 




店の前の通りに出た俺たちが目にしたのは、倒れたジュンと、彼と対峙し大鬼を付き従えた男の姿だった。


その威圧感を放つ大鬼の姿に、俺は見覚えがあった。


たしか、《ダークネス・オーガ》という大型ユニットカードだったはずだ。


そして、その怪物を付き従えているのはスーツを着た長身の男だった。


鋭い眼光が印象に残る、細身ながらもそれなりにガッシリとした20代風の男性で、少女の体になった今の俺はその姿にかなり威圧感を感じる。


そして手前の地面に倒れたジュンの姿から、もめ事からクロユニのバトルになったこと、そしてジュンが負けたということを理解した。


「……逃げるんだ、……レイミ…君」


ボロボロになりながらのジュンの言葉に、相手の目的が自分にあることを俺は悟る。


だが、長身の男はもうすぐそこまで近づいて来ていて、今さらどこにも逃げようがなかった。


マリーが俺とその男との間に立ちはだかってくれるが、彼女も女の子だ。


その背中は震えていた。


迫る男の眼光を睨みながら、俺は頭の中で解決策を探る。


それにしても、いったいこいつは何者なんだ?


何の目的で俺を?


そんな疑問が脳裏をめぐる。


そのスーツ姿からして、犯罪者の俺を追ってきたシティポリスという訳でもないだろう。


「オレはアガレス。君を""セントラル""へ連れていくため迎えに来た者だ」


その謎の男、アガレスはそう言った。


セントラル。


このシティの中心区域にして、俺の情報があるかもしれない場所。


そこは俺が行きたいと思っていた場所で、それ自体は願ってもない申し出だった。


「そちらのお嬢さんはレイミ・ミチナキを保護してくれたアウターの子かな?……引き渡しの謝礼はこのくらいでいいかい?」


そう言って彼は金額の書かれたウィンドウを表示する。


小切手のようなものであろうそれには、0が7桁以上並んだ数字が表示されていた。


それを見たマリーの喉がなるのが見える。


先程の霧雨通りの商品たちの値段を考えると、それはかなりの金額であると予想できた。


強引ではあるものの、何から何まで至れり尽くせりな提案だ。


だけど、――


「なんで、ジュンをこんな目に合わせたの……?」


強い口調でそう言うマリーの疑問はもっともだ。


地面に倒れ気絶したジュンの姿が背後に見えていては、彼の語る言葉の全てが疑わしい。


「彼はこちらの話もほとんど聞かずにいきなり反逆権リベリオン・コードを使ってきて、って……はぁ……もういいや」


アガレスは話の途中でため息と共に急に態度を豹変ひょうへんさせると、マリーのえりを掴んで締め上げる。


「そこのランク1のガキを大人しく渡して金を得るか、ランク7の俺に逆らって痛い目を見るか、今すぐ決めろ……!!」


どいつもこいつもアウターズ風情が!!、と彼は続けて忌々しそうに吐き捨てる。


アウターズというのは初めて聞くが、流れからして低ランク者を侮蔑ぶべつする言葉のようだ。


彼の態度の急な変化に戸惑いはしたものの、その本性を早々に見せてくれたのは助かった。


そうと分かれば、提案を断ることに後悔はない。


こんなヤツについて行ってセントラルに入っても、きっとろくな目にあわないだろうからだ。


そうと決めたら、やることは1つ。


俺は全身に力を込めて、全力で目の前の男に体当たりをした。


この小さな身体では大した威力にはならないが、それでも男の体はぐらりと後ろに後退し、たまらずマリーを掴んでいた手が離れる。


「ヴァナっ!!」


『了解っ!!……【反逆権リベリオン・コード】発動!!「クロス・ユニバース」!!』


さあ、条件をかけたカードバトルの始まりだ!!




――― 「『反逆権リベリオン・コード』確認」「『マザー』より承認」「リンク完了」 ―――


―対戦者「ランク1:レイミ・ミチナキ」「ランク7:アガレス・ウォルム」―




「俺たちの出す条件は【目的をあきらめ、知っている情報を話すこと】だ」


前回の経験から、俺は見よう見まねで勝利した場合の条件を言う。


視界の端に「条件を承認」というメッセージが見えたので、どうやらこれで合っているらしい。


「……レ、レイミちゃん!?、ランク7の相手に反逆だなんて……」


「大丈夫だよ、マリーさん。……俺は、こんな奴に負けない」


俺の突然の行動に驚きながら不安そうな顔を見せるマリーに、俺はそう言って笑いかける。


だが、それを見たアガレスは激昂する。


「また反逆権だとっ!!……どいつもこいつも、アウターズ風情が舐めやがってっ!!」


そう言って、彼はギリギリと奥歯を噛みしめる。


そしてしばしの間の後、アガレスも条件を提示する。


「オレの条件は【オレの命令に全て従え】だ。……ランク差6での敗北による代償の大きさに後悔するんだなっ!!」


出された条件の内容に俺は戦慄せんりつする。


……ランク差が大きいほど、提示できる条件もやばくなるのか!?


色々な意味で、負けられない戦いになってしまった。


俺は覚悟を決めて構える。




 ―――――― 「両プレイヤーの〔条件ベット〕を確認」 ――――――


―――――――― 〈クロス・ユニバース〉「起動開始」――――――――




「オレのパートナーはレベル1《魔界の召喚導師》 だ」


アガレスのその言葉に反応し、彼の足元から仮面をつけた小さな悪魔が現れる。


『こちらは私、《虚構天使ヴァナ》です』


俺のパートナーはヴァナが自主的に答える。


両者の宣言と共に、俺とアガレスそれぞれの目の前に5枚のカードが出現する。


「よし、まずは俺のターンだ!!」


宣言と共に、俺はカードを宙から引き抜いた。


---------------------《1ターン目》---------------------


  〈レイミ〉●   〈アガレス〉

  ヴァナ Lv0    召喚導師 Lv1


  Lp 1000     Lp 1000

  手札 5      手札 5


--------------------------------------------------------------


--------------------------------------------

〈レイミ〉魔力  0→5

--------------------------------------------


「レベル0の《鬼火》を召喚してターン終了だ!!」


小さな炎のお化けを召喚して、俺はターンを終える。


今の手札では他に出来ることはない。


今は我慢の時だ。


だが、それを見ていたアガレスは笑う。


「ハハハ、やはりその程度か。5もある魔力を使わずに終了とはなぁ!!ま、使えないの間違いか」


そう言ってバカにしたように高らかに笑う。


クロユニではカードを使うにはレベル分の魔力がいる。


本来は毎ターン与えられる5の魔力をやりくりしながら戦うのがこのゲームの流れだ。


だが、俺のデッキのカードはそのほとんどがレベル0。


やりくり以前に魔力自体をほぼ必要としないのだ。


そして、それはほとんどのカードがゲームを大きく動かす力がないことを意味してもいる。


ランク7であり、様々なレベルを入れているであろうアガレスとのデッキのパワー差は歴然。


そう考えるのが自然だ。


「さあ、オレのターンだ。力の差ってやつを教えてやろう!!」


ドローと共に彼のターンが始まる。



さあ、ここからが正念場だ……!!







次回「ランク1 VS ランク7」へ続く

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