6.未来世界のカード事情






少年警官ジュン・ケイラが用意してくれたマンションの一室。


そこは殺風景な部屋だった。


家具は少なく、ソファーとテーブルがある他には冷蔵庫らしき機械と小さな戸棚くらいしかない。


汚くはないが、整頓されていると言うよりはただただ物がない、そんな印象だ。


壁は金属がむき出しで、空調も効いてないのか正直言って肌寒い。


だが、その部屋の真ん中にあるソファーに座る今の俺にとって、そんな部屋の環境はあまり問題ではなかった。


「むうぅ……」


俺は唸りながら、今の最大の問題である自分のデッキとにらめっこしていた。



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《鬼火》

Lv0/攻撃50/防御0

タイプ:炎,死霊

デッキに何枚でも入れることができる。

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デッキの中身を見てみると、殆どこんなカードばかりだったのだ。


ここではカードで勝つことが大切で、それが常識な世界だというのは直前の戦いやヴァナの反応でよく分かった。


ましてやこの俺の体の娘はシティポリスに追われる犯罪者(?)らしい。


この先、追跡者から逃れるために何度も戦い、そして勝つ必要があるだろう。


だというのに、こんなデッキでこの先も勝ち続けるのはかなり厳しい。


デッキの大幅強化は必須事項だった。


デッキ外の所持カードリストも見てみるが、そのほとんどがレベル0。


役に立ちそうなカードはこれといってな……


「……ん?」


そのリストの最後の方にあったカード達が目に留まる。



《パトロール・ボール》Lv0、《写し身の鏡》Lv2、《セキュリティ・ガード》Lv3



そこには、本来は持っていないはずのレベル2以上のカードがあった。


だがそれ以上に気になることがある。


「……コレ、さっきの試合で相手が使ったカードじゃ…?」


そうなのだ。


この3種類は先ほどの戦いでジュンが使用したカード達だった。


『ああ、それは賭け札アンティのカードだね』


そんな俺の疑問に、横から見ていたヴァナが事もなげに答える。


賭け札。


文字通りに理解するなら、バトルの勝者が敗者からカードを貰えるということだろうか?


『その通り。バトルで勝てば、その試合中に相手が使ったカードを全て貰えるんだよ』


ヴァナの言うそれは、現状を打開できる最高の情報だった。


つまり勝ち続ければ、この弱いデッキをどんどん強化できるのだ。


しかも貰えたカードを見る限り、この賭け札はランクというやつが関係ないらしい。


【ランク1】である俺でも、高レベルのカードが手に入るってわけだ。


なるほど案外、デッキ唯一のレベル3カードもそうやって手に入れたものかもしれない。


…………。


しかし、こうなると今度は別の疑問もわいてくる。


「じゃあ、自分のランクより高いレベルのカードは手に入らない、って話は何だったんだよ?」


それは当然の疑問だった。


『ああ、それは……、』


それに答えるヴァナの言葉は、頭に響く電子音に途中でさえぎられた。



  ――――――― マザーより『配札』が与えられました ―――――――



そんなメッセージが視界に映り、俺の手元のウィンドウに1枚のカードが表示された。



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《波紋》

Lv1 永続スペル

タイプ:水

●:ユニットが破壊される度に発動する。

ターンの終了時まで、ユニット1体の攻撃力・防御力を100ダウンする。

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『うーん、ナイスタイミング♪』


新しい情報と展開に混乱する俺をよそに、ヴァナは嬉しそうに説明を始める。


『【配札はいさつ】といってね。定期的にこうやってシティの管理AIが全市民にカードが配られるんだよ』


そう言いながらヴァナはひょいと飛ぶと、表示されている俺の【配札】のカードを指さす。


『で、さっきの答えがこれだね』


いや、指さしているのはカードと言うよりも、そこに書かれたレベルだ。


今貰えた《波紋》 のレベルは1。


「つまり、【ランク1】の俺は【配札】ではレベル1以下しか貰えない。それが"高いレベルのカードが基本的には手に入らない"という言葉の意味か……」


『大正解!!』


目の前に飛んできたヴァナがパチパチと拍手をする。


……ようやくこの世界のカード事情の全体像が見えてきた。


自動で配布されるカードはランク分けされたカードのみで、低ランクの者は弱いカードしか手に入らない。


基本的に低ランクの者はより高ランクの相手に従うルールがあり、それに逆らうにはカードバトルしかない。


でも、手に入るカードに差があるからそうそう勝てない。


賭け札のシステムも、勝たなければ意味がない。


社会システムに組み込まれている以上、強力なカードは誰にとっても重要だろうから、買おうとしてもそうそう買える物でもないだろう。


その結果"自分のランクより高いレベルのカードの入手が困難になる"、そういう仕組みか。


…………。


だが、これは俺にとってそこまで悪くない話だ。


だって逆に言えば、今の俺は本来持てないはずのカードをすでに何枚も入手できている。


この先、戦う相手は俺のランクを見て間違いなく油断するだろう。


――そのスキを突く。


そうやって油断した相手に勝てば勝つほど、賭け札で俺は強くなれる。


思えば、この世界も、この体も、置かれた状況も。


何もかもが分からないことばかりだったが、ようやく切り抜けるすべが少しずつ見えてきた。


"クロスユニバース世界王者である俺"が、このカードに支配された未来世界を生き抜いて見せる!!


……まぁ、500年も前のだけど。


新たな決意を胸に、俺は賭け札と配札カードを入れたデッキ構築を始めた。









―――くちゅっん


小さな少女の可愛らしい咳が鳴る。


寒い部屋の中、薄着でデッキ作りにいそしむ俺のカラダは当然のように冷え切っていた。








次回「少女でお風呂」へ続く

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