5.閉鎖都市シティ・アルファ





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はじまりは21世紀最後の年、2099年のことだ。


その年、太陽の活動が突如として活発化した。


原因不明のその現象は、人類にとって致命的であった。


元々の地球温暖化と合わせて地球は急激に暖められ、太陽より断続的に発生する電磁波は地球の電離層をズタズタにした。


それにより連鎖的に発生した異常気象、ネットワーク障害、食糧危機、新型伝染病の蔓延、経済の混乱。


世界情勢は一気に不安定化した。


そしてとどめは、某国の独断により行われた『地球寒冷化作戦』。


大気圏外に遮光性の金属片をバラまくことにより地球をおおい、太陽光を反射して地球の気温を下げようとしたのだ。


結論から言うと、その作戦は失敗した。


正確には、上手く行き過ぎた。


増えすぎた太陽光を反射できたのは良いが、逆に反射しすぎる結果となったのだ。


地球は急速に冷やされ、人工的な氷河期がやってくることとなった。


そして太陽光が減ることにより、太陽光発電にエネルギー比重を移していた人類は大規模なエネルギー不足に陥ることとなる。


当時200臆を超えていた人口を支えることは、人類には不可能になっていた。


もう破局は目前だった。


そして、ある大国が某国へ行った報復ほうふく攻撃。


そこから連鎖的に全世界は戦争の渦に飲まれることとなる。


いわゆる『崩壊戦争ほうかいせんそう』の始まりである。




2年程でその戦争は終局した。


理由は単純だ。


どの国も、もう戦争を続ける体力が残っていなかったのだ。


この時、地球の総人口は10億ほどになっていた。


各国は文字通り生き残りの道を模索もさくした。


そんな中で生まれた計画の1つが、『閉鎖都市シティ計画』だった。


『閉鎖都市』とは地下深くに建造された直径20kmの円を底面とした、高度4kmのドーム型都市。


内外の出入りをなくしてエネルギー損失を最低限にし、あらゆる物資を内部で循環させることで単独で長期の維持が可能な独立シェルター都市だ。


人類は地獄と化した地上を捨てて、地中深くへ逃避することを選択した。


残された最後のエネルギーや技術を総動員して建設がすすめられ、うち9つが完成した。


その1つが、ここ『シティ・アルファ』。


生き残りの中から選ばれた少数の人々だけがそれらに移住し、新たな生活を始めることになった。


今からおよそ500年前のことである。





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隠れ家として案内されたマンションの一室で、俺はそんなこの世界の歴史をヴァナから聞いた。


まぁ感想を一言でいえば、それどこのSF小説?ってとこだ。


今年が西暦2602年だとか聞いても現実感が全くない。


だってそうだろ?


目が覚めたら500年たってて、人類はSFじみた最終戦争の末に地下都市にひきこもってますって急に言われて信じられるか?


それに……。


「で、なんでカードバトルなんだ?」


『……なんでって、何が?』


「百歩ゆずって今の話を信じるとしても、じゃあなんで""ここ""ではカードバトルで物事を決めれるようになってるんだよ……」


カードに勝てば警察から逃げられるとか、どこのカードアニメだ。


500年たってようと、地上が崩壊して地下都市になってようと、そうなる理由になるとは思えなった。


ここが完全な異世界だという方がまだ納得できる。


だが……。


『え?クロユニをすることの何が疑問なの?』


そう言うヴァナの顔は本気で不可解そうだった。


「…………」


どうやら、これについては聞くだけ無駄らしい。


この世界の住人にとって、これはもう""そういうもの""として受け入れられている常識のようだ。


「…………まあ、いいや。じゃあ、その大事で当たり前なクロユニのバトルのため、手持ちのカードを見る方法を教えてくれ」


気持ちを切り替え、今後のために重要な疑問を投げた。


ここに来るまでに気が付いたのだが、俺がなっているこの女の子は体のどこにも"カードを持っていなかった"。


思い返せば、先程の勝負でカードは全て立体映像だった。


ということはつまり、ゲームのアイテムボックスのような物があってメニューを開くことができるのでは?と考えたのだ。


ようは異世界転生モノとかで良くあるアレだ。


我ながら荒唐無稽な発想にも感じるが、ここが500年も未来なのだと考えたら十分にあり得る話だ。


『まあ、正解よ。まずは頭の中でカードを見たいと頭で念じながら、目の前の空間を開くようにイメージして?』


「目の前の空間を開く、ねぇ……」


ヴァナの説明は何言ってんだという感じだが、大人しく言われた通りにしてみる。


適当だが、目の前に本があるようなつもりでそれを開くことをイメージしてみる。


すると目の前の空間にゲームのようなウィンドウがいくつも現れる。


どうやら大正解だったらしい。


そこには沢山のカードがずらりと並び、所持カードの一覧や自分のデッキを写したウィンドウがあった。


俺はしげしげとそこにあるカード達を眺め、そしてため息をついた。


「……マジかよ」


そこにあるのは、見事なまでに低レベルのカードばかりだった。


しかも、そのほぼ全てがレベル0の微妙な強さのカードときた。


(『自分のランクより高いレベルのカードは基本的には手に入らない』)


つい先程に聞いたヴァナの言葉が脳裏に浮かぶ。


この俺の体の少女、レイミ・ミチナキは【ランク1】だと言っていた。


つまり普通はレベル1以下のカードしか持っていないのだ。


高いレベルのカードを例外的に沢山持ってるかもなどと思っていたが、そんなことはないらしい。


例外なのはただ1枚、先ほどの戦いを決めたレベル3スペルの《アシッド・ストーム》だけってこと……か?


「……これはキツイな」


ずらりと並んだ大量のレベル0カードを眺めながら、俺は頭を抱えた。








次回「賭け札アンティとデッキ調整」へ続く

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