3.ランク1






降参を拒否し、痛みに耐えながら俺は立ち上がる。


それを見て、少年警官は少し悲しそうな顔をした。


「……なら、仕方ないね」


そう言って、彼は手札のカードを1枚つかむ。


「ここからはもっと痛いよ?レベル2アイテム《写し身の鏡》を《ボール》に対して使用する!!」



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《写し身の鏡》

Lv2 通常アイテム

タイプ:光,闇

●:自分フィールドのユニット1体を選ぶ。

その同名ユニットをデッキから召喚する。

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〈少年警官〉魔力  5→3

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彼がカードの使用を宣言すると、彼の頭上に浮かぶ魔力の玉が2つ消える。


カードを使うには、そのレベル分の魔力を消費するためだ。


「《鏡》の効果で対象に選んだ《パトロール・ボール》をデッキから2体召喚する!!」


2つの鏡が宙に現れ、その中から2体の機械の球体が現れる。


先程と同じカードが2体、つまり―――


「さあ、さっきの再現だ。《ボール》の効果2回分、200の電撃ダメージだ!!」


「あうあぁぁっ!!」



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〈レイミ〉Lp 900→800→700

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先程の2倍の電流、当然その痛みも2倍。


余りの苦痛に、俺は再び膝をついてしまう。


だが、小さな体に力を入れ、倒れることだけは耐える。


身体はボロボロだが、俺の心は折れない。


まだ、ゲームは始まったばかりなのだ。


それにここまでの展開も悪くない。


アイテムに手札コスト、相手はこのターンに4枚もの手札を消費していた。


残るは、あと1枚。


その1枚を、少年警官をつかんだ。


「僕は最後に、手札から《セキュリティ・ガード》を召喚!!」


パトカー型のロボットがフィールドに召喚される。


これで、0枚。


だが、少年警官はこちらの考えを読んだかのように笑う。


「残念だけど、《セキュリティ・ガード》には効果がある。自分のライフと引き換えに、レベル2以下のユニットの攻撃を防ぐ効果がね」



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《セキュリティ・ガード》

Lv3/攻撃力300/防御力200

タイプ:光,機械,戦士

●:召喚された時、Lpを200払って発動。

次のターンまで、自身が存在する限りLv2以下の全ユニットは攻撃できない。

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〈少年警官〉

Lp 1000→800

魔力  3→0

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「ランク1の君には、この効果を突破する手段はない。ターン終了だ」


そう言って、彼はターン終了を宣言する。


だが、その中に気になる言葉があった。


「ランク1?」


俺、いや、この身体の持ち主""レイミ""が【ランク1】ってどういう意味なんだ?


その疑問に、ヴァナが答える。


『ランクっていうのは、【市民ランク】のことよ』


「市民にランクとかあるのか?」


なんか昔に見たディストピアを扱ったアニメにそんなのがあった気がする。


それを実際に聞くことになるとは思っても見なかった。


何となく気が付いてはいたが、ここは日本ではないどころか全く別の世界らしい。


今更だが。


『能力・出自・社会貢献度、それらを総合した評価が【市民ランク】』


生まれだけで決まらないのは、まあ良心的なのか?


『低ランクの市民は、より高ランクの市民に逆らわない。それが基本ルール』


訂正、まったく良心的じゃなかった。


つまり、ランク1の俺の身体の子は社会的地位がメチャクチャ低いってことだ。


でも、―――


「それが低いことって、この勝負に関係があるのか?」


降参しろと命令されたら逆らえない、って訳でもないようだし。


『大ありよ。だって、自分のランクより高いレベルのカードは、基本的には手に入らないんだから』


…………。


なるほど、確かにマズイ。


ランク1の自分が使うこのデッキは、基本的にレベル1以下のカードだけ。


そして《セキュリティ・ガード》が場を離れない限り、その効果で""それらは全て攻撃できない""ということだ。


「さあ、君のターンだ。ドローをするんだね」


少年警官に促されるまま、俺はカードをドローした。




----------------------《2ターン目》----------------------


  〈レイミ〉●   〈少年警官〉

  ヴァナ Lv0    ボール Lv0


   Lp 700     Lp 800

  魔力 0→5    魔力 0

  手札 5→6    手札 0


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---------------------《フィールド》-----------------------

〈レイミ〉 

虚構天使ヴァナ Lv0/50/0



〈少年警官〉

パトロール・ボール Lv0/0/0


《パトロール・ボール》×2 Lv0/0/0

《セキュリティ・ガード》 Lv3/300/200

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フィールドは圧倒的に不利。


攻撃も封じられている。


次のターン、再び電撃で攻撃されることは必至な状況だ。


そんな状況でドローしたこのカード。


それは意外なカードだった。


思わず俺は顔をゆるませる。


そんな俺の顔を見た、少年警官はいぶかしんだ。


「君はなぜ、この状況で笑っている?手も足も出ないこの状況。次のターンになれば、電撃がまた君を襲うんだぞ!!」


そう思うのも無理はないだろう。


だが、それは間違いだ。


―――次のターンは、ない。


「俺は《虚構天使ヴァナ》の効果を発動!!【性能調整】」


『相手のカードの数だけ、私の攻撃力をアップします』


相手の場は、パートナーを含めて4枚。


よって、攻撃力は400アップする。


それに合わせ、ヴァナの羽根や服が赤に染まる。



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《虚構天使ヴァナ》  攻撃力50→450

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俺の行動に少年警官は戸惑った。


「何のつもりだい?ヴァナのレベルは0。攻撃できない今、そんな効果に意味はないんじゃ」


「それがあるのさ!!」


俺は先ほどドローしたカードをつかむ。


これこそが、逆転の一手。




「""レベル3""スペル《アシッド・ストーム》を詠唱!!」




スペルの詠唱と共に、酸性の雨が暴風と共にフィールドに降り注ぐ。


その効果は、全ての機械タイプのユニットの破壊。


《パトロール・ボール》と《セキュリティ・ガード》は共に機械タイプ。


パートナーはルールにより破壊されないが、それ以外は全滅する。


機械の球体も、パトカーのロボも、共に溶けて崩れ去る。


《セキュリティ・ガード》の攻撃封じが有効なのは、それ自身がフィールドにいる間のみ。


破壊してしまえばその影響は消え、自由に攻撃が可能となるのだ。


「そ、そんなバカな!!」


少年警官は驚愕する。


フィールドが全滅させられたことに、ではないだろう。


間違いない。


ランク1であるはずの俺が、レベル3のカードを使ったことに驚愕したのだ。


ヴァナの説明を聞く限り、まず起こりえない事態のはずだ。


実際、聞いた直後に《アシッド・ストーム》を引いたのには俺も驚いた。


だが、思い返せば、先程のヴァナはこう言っていた。



""基本的には""



例外があるのだ。


きっとそれこそ、""身体と中身が違う""ような異常事態なら。


『さあ、今だよ!!』


「ああ、分かってる」


相手は手札にもフィールドにもカードがない。


俺の更なる一手を止める手段は残されていないのだ。


「レベル0スペル《ゼロ分岐》 !!レベル0ユニット、つまり《ヴァナ》は、このターン2回攻撃できる!!」



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《ゼロ分岐》

Lv0 通常スペル

タイプ:

●:このターン、Lv0のユニット1体は2回攻撃できる。

他のユニットは攻撃できない。

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「《ヴァナ》の攻撃力は450、僕のライフは800。……つまり」


「これで終わりだ!!」


『わたしの攻撃!!【トランス・ウェーブ】』


ヴァナが前に手をかざし、そこから念動波を放つ。


空間が揺れ、捻じ曲がるような感覚。


その念動波の直撃に、少年警官はパートナーと共に吹き飛ばされ、地下道の壁に叩きつけられた。



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〈少年警官〉

Lp 800→350→0

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―――――――――― 〈クロス・ユニバース〉「決着」 ――――――――――


  ―――――――――― 勝者 「レイミ・ミチナキ」 ――――――――――




俺の勝利を知らせるメッセージが視界に流れる。


ピー、っと電子音が辺りに響き、カード達は霞のように消えていった。







次回「脱出」へ続く

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