2.ファーストバトル
妖精の後を追い、俺は建物の中を進む。
電灯がついておらず、窓から入る僅かな光だけを頼りに足元に気をつけながら進む。
小さな体の小さな手足で、なかなか思ったように動けない。
そのせいか、階段では途中で何度も転んでしまった。
しかし、そんな中でも分かったことがある。
それは、ここがどうやら廃棄された病院、または何かの研究施設のようだということだ。
無味乾燥な廊下の内装、厳重な扉の数々、そこらにある用途不明な機械たち。
そして、ホコリの積もり方を見るに長い間使われていない施設のようだ。
自分が目覚めた部屋は薄汚れてはいたが、どうやら手入れがしてある方だったらしい。
余計に分からなくなる。
なぜ俺は、この体の娘は、こんなところにいるのだろう?
答えは当然ない。
「あ、あれ?」
そんなことを考えている内に、急に妖精の姿を見失ってしまい戸惑う。
『こっち』
声は足元から聞こえた。
よく見ると床下から光が、そして地下への階段が覗いていた。
確かにこれなら建物を包囲されていても出られそうだった。
その階段を、俺はおそるおそる下りる。
下の方からもれる光のおかげか、それとも体に慣れて来たのか、今度は転ぶことなく最下段につくことができた。
光のもれるその先は、大きな地下道になっていた。
天井までは自分の身長の何倍もあり、横幅も自分が両手を広げて5人は入れそうな広さだ。
そしてなにより、明るい。
天井の電灯がともっており、最初に目覚めた部屋以上に明るかった。
そのおかげで、床と地面に規則正しく敷かれたツルツルのタイルの細かな汚れすら分かるくらいだ。
『この地下道をまっすぐ行けば、外に出られるよ』
そう言って、眼前に浮ぶ妖精がその先を指さす。
明るい場所に来たことで、初めてその妖精の姿をハッキリと見ることができた。
………?
その姿に見覚えがあるような気がした。
しかし、どこで見たのか、すぐには思い出せなかった。
考える暇もなく、妖精はまた先に飛んで行ってしまうので、俺はすぐにそれを追いかけた。
おいて行かれないように小さな足を忙しなく動かしなら、その後ろ姿を追う。
「……あっ」
唐突に気が付く。
いや、思い出す。
カードだ。
『クロス・ユニバース』のカード。
その姿は、《虚構天使ヴァナ》というカードそのものだった。
「―――待てッッ!!」
その時、背後から突然ひびく制止する声。
振り向くと、先ほど下りた階段の所に1人の少年が立っていた。
「僕はシティポリスだ!!投降しなさい」
先程の建物を囲んでいた男たちと同じ制服姿。
ポリスということは、やはり制服姿の人たちは警察だったようだ。
目の前の彼は10代後半ほどの若さに見えるが、新米警官のようなものなのだろう。
『そんなっ!!この通路に気づかれるなんて!?』
妖精、いや、ヴァナは少年警官を見て奥歯をかむ。
「レイミ・ミチナキ、不正アクセス容疑で君を拘束する!!」
そういって少年警官は、宙に立体映像で何かの画面を表示させる。
様子からして警察手帳的な物だろう。
とにかく、逆らうと不味い雰囲気だけは何となく分かった。
ちなみに、立体映像については驚かない。
目の前に浮くヴァナの存在から、もうそういうものだと思うことにしている。
「え、えーと。これは投降した方がいいのかな?」
そういって、俺はヴァナの顔色を見る。
『いい訳ないでしょっ。捕まったら最後よ』
「そういう感じかぁ。………じゃあ逃げる?」
『無理ね、その体じゃ。アナタさっきから何回転んだと思ってるの?』
「逃げるのもムリ、……となると」
『それは当然、………』
―――戦うしかないでしょ
そう言って、ヴァナはニヤッと笑った。
「戦うったって、どうやって?」
逃げることもできないこの体で、それこそ無理だ。
そう思った。
そんな俺の戸惑いも気にせず、ヴァナは叫んだ。
虚空に向かって。
『【
クロス・ユニバース?
カードゲームの?
何を言って………。
そう戸惑うも束の間、視界に重なるようにメッセージが現われる。
――― 「『
―― 対戦者「ランク1:レイミ・ミチナキ」「ランク3:ジュン・ケイラ」 ――
「僕に勝負を挑むか、いいだろう」
展開についていけない俺を尻目に、少年警官もそれを当然のように受け入れる。
「僕の要求は【大人しく拘束され、連行されること】」
『こちらの要求は【私たちを捕まえず、逃がすこと】』
―――――――― 「両プレイヤーの〔
―――――――― 〈クロス・ユニバース〉「起動開始」――――――――
少年警官の足元が光ると、そこから浮遊する球体の機械が現れる。
「僕のパートナーは、この《パトロール・ボール》だ」
『こっちは私、《虚構天使ヴァナ》 』
2人がそう宣言すると、俺と少年警官それぞれの目の前に5枚のカードが出現する。
それはまるでVR上での対戦の様な光景だった。
データ上のカードが実体化し、フィールドにはユニットが現われ、ゲームの進行も音声認識で自動で進んでいく。
カードゲーマーなら興奮するしかない状況だ。
………こんな状況でさえなければ、だが。
「僕の先攻!!パートナーのレベルが0のため、魔力は5だ」
少年警官の頭上に鮮やかな紅色の球体が出現する。
----------------------《1ターン目》----------------------
〈レイミ〉 〈少年警官〉●
ヴァナ Lv0 ボール Lv0
Lp 1000 Lp 1000
手札 5 手札 5
-----------------------------------------------------------------
--------------------------------------------
〈少年警官〉魔力 0→5
--------------------------------------------
「早速、《パトロール・ボール》の効果だ。手札1枚を代償に、君に100の電撃ダメージを与える!!」
宙に浮く球体の機械から電撃が放たれ、俺を直撃する。
「うあぁぁぁっ!?!?」
-------------------------------------------------------------------
《パトロール・ボール》
Lv0/攻撃力0/防御力0
タイプ:雷,機械
●:1ターンに1度、手札1枚を捨てて発動。
相手に100ダメージを与える。
-------------------------------------------------------------------
--------------------------------------------
〈レイミ〉Lp 1000→900
--------------------------------------------
それはまるで本物の電流が体を流れたかのような衝撃だった。
突然の事に俺は思わず悲鳴を上げて膝をつく。
あまりにリアルな映像は脳が現実だと錯覚するとは言うが、""これ""はそんなものではないように思えた。
………これはまさか、本物の……痛み?
身体からわずかに立ち上る煙も余りにリアルで、それは現実のように感じられた。
「こいつの電撃は強烈。……これが嫌なら、降参して大人しく捕まるんだ」
目の前の少年警官は、降参を提案する。
確かに、ダメージを食らうたびにこんな目に合うくらいなら降参してしまいたい。
そんな風に思う自分も、確かにいる。
だけど、―――
『降参なんてっ……!!』
「ああ、しない」
ヴァナに続けて、俺もそう宣言する。
小さな膝に、身体の全体に力を入れて立ち上がる。
そうだ、降参という選択肢はない。
大人しく投降なんてできない。
だって、そうだろ?
""いきなり電撃を浴びせるような奴らが、拘束した相手を大切に扱うはずがない""のだから。
もう間違いない、捕まったらこんな目では済まない。
だから、降参はできない。
俺は小さな体に力を込めて、よろめきながらも立ち上がった。
次回「ランク1」へ続く
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