1.転生




ふと、俺は目を覚ました。




最初に思ったこと、それは""暗い""、だ。


部屋に明かりがついてないのかと思ったが、そうではないことにすぐ気が付いた。


俺の頭に「何か」が被さっているのだ。


そのせいで何も見えないというわけだ。


邪魔なので、とりあえずソレを外してみる。


被っていたのは、大量のコードが付いた半球状の機械だった。



………なんだこれ?



てっきりVRのヘッドセットだと思っていたのだが、違ったらしい。


それは見たこともない、謎の装置だ。


いや、これだけじゃない。


俺はすぐに気がつく。


自分がいるのが、見たことがない部屋だということに。


周囲に並ぶ巨大なコンピューター。


薄汚れた天井と壁。


わずかに点滅する電灯。


その中心に置かれた白いベット、その上に俺はいた。


そこは俺の部屋ではなかった。


もっと言えば、知っている場所ですらなかった。


思わず、俺はつぶやいた。


「……ここ、どこだ?」


""高く可愛らしい声""で、俺はそうつぶやく。


…………


……………………、は?


何かがおかしい。


「気のせいだ気のせい、そんなわけがない」


可愛い声でつぶやきながら、俺は頭をふる。


それに合わせ、""長い髪""が俺の背中でゆれる。


嫌な予感が胸の中で膨らむ。


ベットを下りると、""小さな足の裏""に床の冷たさを直に感じた。


""小さな胸""の奥で、心臓がすごい早さで鼓動をうつ。


それらをあえて無視しながら、俺は歩く。


部屋に並んだコンピューター、その1つの真っ暗な画面を覗きこむ。




そして、そこに映る""自分の姿""を確認した。




長くキレイな銀髪。


パッチリとして大きな赤い目。


か細く小さな身体。


透き通るように白い肌。


ボロボロな紺色の病衣。


見たこともない可愛い女の子がそこにいた。




● ● ● ●




ひとしきり混乱した後、十数分ほど経って俺はようやく冷静さを取り戻した。


とにかく、状況を整理しよう。



1、知らない場所で目を覚ました。


2、よく分からない機械を頭についていた。


3、俺は10歳くらいの可愛い女の子になっていた。



……なんだこれ


なに1つとして理解できなかったが、最後は特に意味不明だった。


次に、意識を失う前のことを思い出す。


家でVRをしていたこと。


そこでカードの大会に参加し、優勝したこと。


そして、始まった世界崩壊のこと。


そこから導かれる答えは。


「不具合で緊急ログアウトしたけど、上手くいかなくて別のプレイヤーの体に戻っちゃた、とか?」


そんなバカな、と思いながらもそれが最もそれらしい答えのように思えた。


しかし、よりにもよって男だったはずの俺が女の子の体になるなんて……。


…………


……



あれ?


そこで、ようやく俺は気がついた。


いや、気がついてはいけなかったのかもしれない。



「………俺は、誰だ?」



自分が誰なのか、俺は何も覚えていなかった。


最後にVRを起動した時より前のことが、なにも思い出せない。


顔も、名前も、年齢も、住所も。


自分が男だったという記憶はあるが、それも何となくそんな気がするだけというものだ。


実は覚えていないだけで、俺は初めから銀髪の幼女だったのでは?という疑念が浮かぶ。


いや、それはない、ないハズだ。


だが、そう確信できるだけの材料は何処にもかなった。


………とにかく、情報だ。


ここは何処なのか、この体が誰なのか、俺は誰なのか。


情報がなければ、考えたって答えは出ない。


そうと決まれば、次は行動だ。


周りにあるコンピューター、これらを調べることが先決だろう。


そう思った矢先に、""それ""は響いた。


けたたましいサイレンと、拡声器の声。



『『この施設は完全に包囲されている!!大人しく投降しろ!!』』



警察だろうか?


そんな声が外から響く。


まさか、包囲されているのはこの施設?


とにかく状況が分からない。


俺は半開きになっていた扉から外に出る。


部屋の前は廊下で、その向かいは一面の窓だった。


夜の街灯と赤く点滅する光が窓の外から差し込み廊下を照らす。


『『市民コード099456733、レイミ・ミチナキ!!アーカイブへの不正アクセス容疑で拘束命令が出ている!!投降しろ、これは最終警告である』』


窓の外を見ると、制服姿の人間と警告灯のついた多数の乗り物がこの建物を囲んでいる。


レイミ・ミチナキ、というのは俺…いや、この体の娘の事だろうか?


拘束される理由も含め、分からない事ばかりだ。


あえて投降することで、状況を把握するのも手かもしれない。


眼下で点滅する赤い光を見ながら、そんなことを考えていた時だ。


""そいつ""は突然、目の前に現れた。




『早く逃げて!!アイツらに捕まったら終わりだよ』




「な、な、な???」


あまりの驚きに言葉も出ない。


今の自分の顔サイズ、10数センチほどの少女が眼前に浮かんでいた。


背中には青く透き通る羽を持ち、青と白の神聖さを感じる服を着た、小さな女の子だ。


VRの世界でならよく見る妖精系のアバターのようなその姿だが、問題はここは現実世界という事だ。


幻覚か?あるいは3D映像?


そんなことを考える俺を急かすように、その妖精は言葉を続ける。


『ほら、何人かが施設内に入って来てる。とにかくここを離れて!!』


言われて外を見れば、何人かがこの建物に入る様子が見える。


確かにどうするにせよ、ノンビリとはしていられないのは確かなようだった。


「わかった、わかった。で、離れるってどこに?」


『こっちへ来て』


妖精はそう言うと、光の軌跡を残しながら廊下の先へ飛んでいく。


「ちょっ、ちょっ、まって」


彼女はこっちの様子も見ずにさっさと先に行ってしまう。


冷たい床を踏みしめながら、俺はその後ろ姿を何とか追いかけた。




次回「ファーストバトル」へ続く

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