第67話 幕切れ
…お客様、本日の一席、お楽しみいただけましたでしょうか?
誰かの声で目が覚めた。
あなたは気がつくと寄席の客席に座っていた。
いつの間にか、うたた寝してしまったらしい。
舞台上では檸檬亭とやらが、まだ何がしか、しゃべっている。
・
・・
・・・
いやあ、勇者の話という割に、まともに出てきやしない上に、戦う場面が随分と少のうございますか?
本来は腕の一つや首の二つもポンと飛ぶのですが、本日はお目見えでございましたので、随分と控え目にさせていただきました。
愛が全てを救うのでしょうよ。
胡散臭い?
これまた失礼いたしました。
なんで勇者が異世界に行ったのか?
勇者は何と戦っていたのか?
神はどこへ行ったのか?
転移の条件とやらは本当に勇者の言う通りだったのか?
ジンは何をしていたのか?
色々謎が残っておりますが、この辺りは、またのお運びということで。
おや?
そちらの方はたいそうにご立腹のご様子で。
なになに?
ワタクシメの話に名前を出された会社の御関係者様でございましたか。
それは困りました。
聞かなかったことにしていただけると、ありがたいのですが。
大変に申し訳ございませんでした。
平に、平に御容赦を。
ほんの出来心、だったんです。
そちらのお客様。
何をお笑いで?
ああ・・・花色木綿をご存じで。
勇者も盗賊も変わりませんよ。
みなさま、どうぞ、不審者にはご注意を。
そろそろ、おあとがよろしいようで。
本日は誠にありがとうございました。
・・・
・・
・
男が深々と頭を下げる中、ゆっくりと幕が下りた。
あなたは、背伸びをして立ち上がる。
ハネ太鼓が「出テケ、出テケ」「テンテンバラバラ、テンテンバラバラ」と打ち鳴らされている。
太鼓の音に背を押されるようにして会場を出ると、チケットのもぎりをしていたスタッフに、声を掛けられた。
この度はお忙しい中、ご来場ありがとうございました。
新人の拙い話芸に最後までお付き合いいただきましたこと、スタッフ一同、心より感謝申し上げます。
あまり自信がない演者なもので、一言ご感想を頂けますと大変励みになろうかと存じます。
お時間ございましたら、ご協力くださいませ。
差し出された用紙を手にしたあなたに、スタッフが微笑んだ。
「お気に召しましたら、下の星をポチッと、お願いいたします」
どっとはらい。
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