第63話 勇者の帰還ー4

「アヤに何してくれてるのよ!

 グジグジ、グダグダ、アニキがどうとか、お金がどうとか言い訳ばっかしてるそうね!

 そんなことアヤに関係ないわ!

 20代の乙女の時間をなんだと思ってるの!

 正月に告白もどきをしておいて、どこ行ったんだか分かりもしないバカアニキがなんだっていうのよ!

 そりゃ、私はあんたたちの事情なんて知らないわ!

 知ったこっちゃないわ!

 でもね!

 乙女の1ヶ月はね!

 あんたらボンクラの10年以上の価値があると思いなさい!」


 アサヒがうずくまって、呆然とハルカを見上げた。


 ハルカが、マコトを指差す。


「私のマコはね!

 ナリは小さいかもしれないけど、立派な男よ!

 あんたもちょっとは見習いなさい!」


「は、はい」


 ハルカが綾子に近寄り抱きしめる。


「アヤ。こんなのでいいの?

 私がもっといいの、いくらでも用意してあげるわよ?」


 綾子が涙を流しながら、少し笑った。


「ハルちゃん、ありがとう。

 でも、このひとがいいの。

 あっくんがいいの」


 ハルカが綾子から身を離すと、アサヒを睨んだ。


「あんた、アヤを泣かしたら、潰すから」


 マコトが、ハルカを後ろから抱きしめた。


「ハルカ〜。俺、眠たいから帰ろうね〜。

 ハルカは可愛くて優しいんだから、乱暴な言葉はメッだよ〜」


 そのまま玄関へとハルカと一緒に出ていく。

 玄関を出る二人をアサヒが見送ると、マコトは言った。


「あとは、アッちゃん次第だから。おやすみ」





 鍵をかけ、リビングに戻ると、綾子が立っていた。


  トップスこそ白いブラウスに変わっていたものの、一年前に再会した時と同じ、アーバンリサーチドアーズのブラウンのサロペットスカート姿だった。


 アサヒは、ここ最近、綾子の服装はおろか、顔もまともに見れていなかったことに、改めて気付いた。


 綾子の目は、真っ赤に腫れていた。







「長い時間、待たせてしまってごめん。


 いつも笑顔で僕を支えてくれてありがとう。


 貴女が好きです。


 良かったら、僕と付き合ってください」






 綾子が、また、涙を一筋流して言った。






「にいさんや、マコト、さんが、どっか行っちゃっても、いつも私の手を、ひいてくれた人が、小さい頃から、ずっと大好き、です。


 また、あっくんが、どっか行っちゃう、のかと思ったら、耐えられなく、なっちゃった。


 ハルちゃん、女の子の、1ヶ月が、10年だって。


 帰ってきてから、1年かかった、から、100年、以上、だね。


 ずっと、離さないで、ね」




 アサヒが綾子を抱きしめた。




 自然と目があって、長いキスをした。




 リビングの電気を消して、寝室に入っていった。






 暗いリビングのテーブルの上で、お守りが青く光っていた。

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