第35話 出会いー1
「これで追加のご注文分は全部になりますね。確認とサインお願いします」
クラブの裏口で、マコトは酒が入ったケースといくつかの段ボールを台車から積み下ろすと、伝票を差し出した。
薄暗い路地裏の一角で開かれたドアから漏れる光がやけに明るい。
緩やかにパーマをかけたロングヘアーを後ろ手に結え、ハーフアップにしている。
今日は、メガネはかけていない。
白地に黒い字で『F.C.R.B』と書かれたカットソーを着て、下の黒いパンツは左の裾だけ膝までたくし上げられている。靴は白いエアフォース1。
仕事中のはずだが、いつもの刺繍入りポロシャツではなく、私服姿だ。
「マコトさん。夜分にすいませんでした。
太客が来てくれたんですけど、どうしてもこれが飲みたいって聞いてくれなくて」
黒服が納品された中から、木箱に入った一本を手にしている。
『イチローズモルト リミテッドエディション』と書かれている。
これが必要だったらしい。
「大丈夫ですよ。いつもお世話になってますから」
黒服の後ろで伝票と品物をチェックしていた若いスタッフが伝票にサインして戻した。
マコトが伝票を受け取る。
「あれ?マコトさん、また髪型変えたんすか?この色めっちゃ良いっすね」
「でしょー!美容室のゆうかちゃんがやってくれたんだー!ちょーかっこいいって!もう俺この髪型変えないから!」
若いスタッフの言葉に、マコトが笑顔になる。
「あ、口調戻るんすね」
「時間外割り増しの伝票にサインもらっちゃったし、もうプライベートなの!」
「でもマコトさん、この間もおんなじこと言ってたじゃないっすか。
あんまりパーマとかブリーチとかやり過ぎると髪に良くな・・・」
若いスタッフが何ごとか話しかけると、黒服が遮った。
「マコトさん、うちの代表が顔だして欲しいって言っているんですが、お時間いただいても大丈夫でしょうか」
「アキラさんが?ヤだよ。どうせ碌でもない事でしょ?良い子をこんな時間に呼び出すなって言っといて」
マコトが台車を押して、点々と灯りがともるだけの狭い裏路地を帰っていく。
「あれ?代表がマコトさん呼んでたんですか?」
「バカ。違うよ。ああ言えばマコトさん面倒くさがって帰るから。
と言うかマコトさんの髪や身長をいじるようなこと言うなよ!知らないぞ!」
「なんでっすか?スゲーいい人っすよ」
「お前今井酒店にお使い行ったことあるだろ。社長見たか?」
「はい。あのちょっと小柄なイカついスキンヘッドの・・・。そうすか」
黒服が、ポケットから電子タバコを取り出し吸い込んだ。
白い蒸気を吐き出し、つぶやく。
「前、マコトさんと飲んだ時ちょっと泣いてたよ。俺は呪われた血を受け継いでるんだって」
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