第36話 出会いー2

 幅1メートルほどの裏路地を、台車を押して表通りに戻ろうとしたところで、大きな声に気づいた。


「だから、ちょーーっと付き合うだけだって言ってるじゃん」

「そうそう、楽しく飲もうよ。お友達も一緒にさ」

「やめてください!」


 柄の悪い男二人が、女性二人に絡んでいる。

 薄暗くてどんな顔立ちかハッキリとはわからない。

 男のガタイは結構がっしりしていそうだ。


 台車を押すマコトには気づいていない。


「すいませーん。ちょっと退いてもらえますかー」


 声をかけるが、聞いていない。


「すいませーん。台車通りまーす」


 ガン無視だ。


 帰れないことにイラついたマコトだが、グッと飲み込んで男の肩を叩いた。


「ここ、通路なんで他でやってもらっていいっすか?結構、迷惑なんで」


「なんだテメエ、関係ねーだろうが」


 振り向いた男が、手を払い除けるとマコトを睨みつけた。


「道塞ぐなって言ってるんすよ。台車が通れないって言ってますよね」


「反対回れや!ボケ!」


「反対は行き止まりなんすよ。あんた、この辺のモンじゃないのか」


 女性たちは、男たちが揉めているタイミングでこの場を離れようとしたが、もうひとりの男が道を塞ぐ。


「ちょっと付き合えって言ってるだろうが!」


 女性たちは、かなり怯えてしまっている。


「そっちのおにーさんも、台車通るだけだから、退いてくれないっすかね?」


「ああ?わりーな、あんまりチビで見えなかったわ」


 もう一人の男がマコトを見て笑った。


「台車?んなもん知るか!

 チャラチャラした髪しやがって!引きちぎってボウズにすんぞ!」


 マコトに向き直った男が、マコトを突き飛ばすと台車を蹴りたおした。




 マコトが、キレた。





「ボウズだとッテメーッ俺がッハゲにッ見えんのか!!」





 台車を蹴った男の髪の毛を掴んで、顔面に3発パンチを叩き込む。


 突然のことに唖然としたもう一人の男にも、腹に前蹴りをかますと、うずくまって下がった顔面に膝蹴りをぶちかます。




「誰がッどチビだッゴラァ!」





 騒ぎを聞きつけた先ほどの若いスタッフが走ってきた。


「マコトさん!まずいですって!お前らとっとと消えろ!」


 鼻血を滲ませた男がもう一人に抱えられて去っていく。


「あ、ありがとうございました・・・で、良いんでしょうか?」


 女性の一人が頭を下げる。

 もう一人は、突然のことに目を丸くしている。


「見せ筋が肉体労働者を舐めやがって・・・。ナンパなら人の迷惑にならないところでやれよ。あ、お礼してくれる気があるなら今度ウチの店でお酒買ってねー」


 ポケットから名刺入れを取り出すと、今井酒店のショップカードを取り出して二人に渡した。


「だーれーもマコトさんのことなんて舐めないっすよ!」


「お前らのせいでもあるんだからな!せっかくおうちでFFやってたのにさぁ・・・」


 台車を押しながらブツクサ言うマコトをスタッフが押し出した。


「お疲れ様っしたっ!」




 次の土曜日、今井酒店には店を訪れた女性をナンパするマコトの姿があった。



 3年前のお話し。

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