第10話 引っ越そう

「新年早々ありがとうございました。

 これ、良かったら飲んでください」


 3人で来た運送会社のスタッフにペットボトルの緑茶を差し入れる。


 がっしりとした体格のスタッフは、ものの数時間で家電や家具・ベッドなどを設置してくれた。

 気になっていたシャワートイレも家電量販店から派遣されて来た水道工事業者が取り付けてくれた。


「電気とガスと水道はオッケーで、あとはネットと電話回線の業者さんが15時に来るんだよな」


 ダイニングテーブルは、ニトリでセールだった5点セットの物を購入した。

 ウォールナットカラーのテーブルと、同色セットの背もたれのない椅子が4脚セットで2万円ちょっととお買い得で、アサヒのお気に入りだ。

 一人暮らしなら十二分だし、両親が来ても安心だ。


 実家の母が送ってくれたコップや皿・丼などをダイニングテーブルに取り出して、作り付けの食器棚にしまっていく。


「これどっかの結婚式の引き出物か?一応物がないから使えないことはないけどさぁ・・・」


 少しゲンナリしながら片付けていく。


「この服は・・・もう入らないからゴミ。

 昔の服はほとんど全滅か。

 後でユニクロに行って一通り揃えればいいかなぁ」


 寝室で段ボールを開け、服の整理をしていると一本のデニムパンツを見つけた。


「これ昔レナがプレゼントしてくれたサンローランだ。懐かしー。入る・・・わけないな」


 足を入れてみたが、太ももがきつくて入らなかった。


 ゴミに出すか少し悩んで、タンスにしまい、片付けを続けた。


 所詮一人暮らし。荷物はそう多くなかった。


 それでも落ち着いた生活ができるようになるまで、数日かかった。


 ******


 壁にかけた40インチのテレビの下にラックを設置し、ニンテンドースイッチのドックを置いた。


「12畳でも、家具を置けばこんなもんか。

 ソファとローテーブルは結構大きめのヤツ選んだしな」


 イケアのワイドローソファが4つ並んでいる。

 身長が高いアサヒでも余裕で寝転べそうだ。


 その前に置かれたローテーブルに、キーケースと財布と紙袋が置いてある。


 ソファに転がり、ひとしきりグダグダしていたが、気合を入れて立ち上がった。


「お隣さんに引っ越しのご挨拶行かないと」


 ******


 左隣は70代くらいの老夫婦が住んでいた。


「隣に越してきました西野と申します。

 引っ越しでバタバタしてしまいご挨拶が遅くなりました。

 こちらお口に合うかわかりませんが、お騒がせしたお詫びです」


 エコルセの焼き菓子セットを差し出すと、ちゃんと受け取ってもらえた。


「わざわざご丁寧に。

 宜しければお茶でも召し上がって行かれますか?」


 おばあさんがお茶を勧めてくれたが、反対側の部屋にも挨拶に行くのでと断った。


 右隣のインターフォンを押すと50代くらいの男性だった。

 同じように挨拶すると、

「ああ。そうなんだ。私は出張が多くてね。あまり部屋にいないから。大騒ぎだけしないでくれれば大丈夫。まぁヨロシク頼むよ」

 と返された。


 隣人が特に気難しい感じでもなかったことに安心したアサヒは、その足のまま、国道沿いのラーメン屋で夕食をとったあと自宅に帰った。


 テレビはつけず、ソファに寝転がり雑誌を読んでいたが、隣から生活音が響いてくる様子はなかった。


 スイッチの電源を入れゼルダをプレイしていると、天井から足音がした。

 さほど大きな音では無かったが、少し気になってテレビの音量を下げた。


「左右の壁は厚いけど、上下がちょっと薄いのかな?

 まぁ普通の人が歩くだけならいいけど、自分の今の体重だとちょっとわかんないなぁ。

 2階の住人とトラブらないように気をつけないと」

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