第8話 ニンテンドースイッチを買った理由

「いやいやいや・・・マジかぁ」


 5月の頭、アサヒは自宅マンションで、健康診断の結果表を見ながらため息をついた。


 現在勤める会社で4月に受けた健康診断の結果表が届いていた。


 総合判定は、

『メタボリックシンドローム予備軍』

『医療機関で検査・指導・治療を要す。仕事や生活を見直してみま賞』

 だった。


 結果表を持って恐る恐る病院を受診したところ、すぐにどうこうというわけではないが、適度な運動と食事制限を勧められた。


 アサヒも自分が太ったことはわかっていた。

 わかってはいたが、アサヒにとって、ジムは敷居が高かった。


 ******


 原因はわかっていた。

 前の会社に勤めていた時、ハードワークによるストレスが向かったのが食欲だった。

 20歳の頃69キロだった体重は、23歳の時就職してから、毎年4〜5キロづつ増加し100キロを目前に迎えていた。


 27歳になった昨年の8月に過労で倒れ、入院・退院・退職・実家に帰るのコンボを決めた。

 ある程度、貯金はあった。少なくない退職金も出た。


 実家に帰ってから、体調不良もあり、しばらくは何もする気が起きなかった。


 療養中、ネット通販で買い物をしようとAmazonを眺めている時にゲームのページを開いた。


 プレイし損ねたゲーム『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』を見つけた。

 何年前のソフトだっけ?なんて思いながら、何の気無しに

『いつもと同じつまらない景色が違ってみえる。』

 というタイトルのゲームレビューを読んだ。







 涙が止まらなくなった。







 今すぐにやりたくなって、近所のゲームショップに車を走らせた。

 目当ての『ゼルダの伝説』はあったが、ニンテンドースイッチがなかなか売っていない。

 数店舗回ったところで見つけた古い小さな玩具屋に、一台のニンテンドースイッチが残っていた。


「今これしかないんだよねぇ。他のスイッチよりちょっと高いのよ」


 店員のおばあちゃんが持ってきてくれたのは、スイッチ本体にあらかじめリングフィットがインストールされた『ニンテンドースイッチ リングフィットアドベンチャーセット』だった。





 何度もゼルダをクリアして、3ヶ月が経った時、アサヒはもう一度頑張ろうと思えた。


 まぁ、部屋に篭ってゲームばかりしていたので、肉体的にはヨロシク無かったが。

 結局、リングフィットに触れることはなかった。


 伸びていた髪を切り、ベリーショートにしてもらった。


 叔父に知り合いの会社を紹介してもらい、再就職したのが今の会社だ。

 小さい会社で給料も高くはないが、9時ー18時の勤務で残業することはほとんどない。

 土日は、ほぼほぼ休みを取れる。


 実家から電車で小一時間かかったので、会社から2駅ほど離れた場所に借りたのが、今住むマンションだ。

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