第2話 不審者が部屋にやってきた

「ほらスクワット!やめない!!」


「ひゃい!」


 壁に取り付けられた40インチのテレビ画面の中では、金色のリングを持った青年のキャラクターが1匹の青くて丸いバランスボールのような形のモンスターと対峙している。


 半袖、短パン姿のアサヒは、両手に持ったリングコンを真っ直ぐ前に突き出した姿勢のままゆっくりと膝を曲げた。


 画面内の青年はアサヒの動きに合わせ、ゆっくり膝を曲げていく。

 アサヒが空気椅子の体勢をキープすると、画面の青年の髪の毛が揺らめきながら光り出した。


『ヒザを伸ばして!』


 テレビから響いた声に合わせ、アサヒが膝を伸ばして真っ直ぐに立ち上がると画面の青年も立ち上がった。


 画面内のモンスターが青い脚の形のエフェクトに蹴りつけられる。

<BEST!!> <295!!>

 モンスターの横に数字がポップアップする。

 どうやら青年がモンスターにダメージを与えたらしい。


 ******


 国道から一本外れた閑静な住宅街。

 道路沿いに電柱が立ち並んでいる。


 その中の一本の電柱に、『不審者注意!!すぐに110番!!』と書かれたブリキ看板がくくりつけられている。

 いつ設置されたものだろうか?風雨にさらされてすっかり色が掠れてしまっている。


 道沿いの1件のマンションの敷地内に、立派な桜の木が見える。

 2ヶ月ほど前にはピンク色の花びらを舞い散らせていた桜の木が、今では青々とした葉で街灯の光を遮っていた。


 桜を見下ろすマンションの一室で、西野アサヒ(28歳独身)がニンテンドースイッチのフィットネスゲーム「リングフィットアドベンチャー」をプレイしている。


 リングコンを持つアサヒの傍らに、もう一人、男が立っていた。


 好き好んで人様に見せたい姿ではない気がするが、友人や家族であればそんなこともあるだろう。

 声援の一つも投げかけてくれるかもしれない。


 ただし、普通の友人や家族が、フィットネスをしているだけの人間に、大きな刃物を突きつけることはあまり無いだろう。

 室内だというのにゴツい革のブーツを履き、黒い鎧を身にまとい、大きな刃物を突きつけてくる髭面の男が友人にいるというならば別だが。



 着古した白いTシャツを濡らす汗が、運動による物なのか冷や汗なのかわからないまま、アサヒはなんとか言葉を吐き出した。


「すいません!僕、貧乏でお金とか全然持ってません!勘弁してください!」




 髭面の男はアサヒを見つめ、言った。





「強盗じゃないよ!!むしろ、俺は、宮神大介は、勇者になったんだよ!!!」





 唖然とするアサヒに、テレビ画面の中の青年が手に持つ金色のリングが語りかけた。





『すごいじゃないか!よく頑張ったね!!!』








 これは、異世界転移した勇者が、アサヒの部屋に来るお話。

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