最終章 Your dream is my dream
とあるサーキット場にて・・・
「調子はどう?」
『マシンは最高です!』
開幕戦に向けて富井の猛特訓がおこなわれる。
『私が愛情込めてマシン整備してるから後はライダーしだいよ』
音絵奈は、楽しそうにマシンの点検をしている。
「よし!レースはスタートが大事、この前の最終戦のスタート出遅れたやろ?勝ったからいいけどもったいない」
「ギヤは何速?」
『一速です』
「二速にしよう。それで見る限り今までスタート練習をメインにしたことないやろ?」
『そうですね・・・』
「俺なんか当時は、自転車乗っていて信号待ちでも意識して瞬発力を身につけていたよ」
「1コーナー立ち上がるまでは、まだ富井君に負ける気がしないな」
そういい、俺も準備して富井とスタート勝負をすることにした。
『なぜ勝てないっ!』
数回に渡り勝負したが、俺の連勝であった。
「俺に負けているようじゃ予選危ないな」
『すみません』
俺は一からアドバイスした。
「まずは、発進したときに回転が落ちないアクセルの位置の音を身につけて」
「逆に回転を上げ過ぎると、リアタイヤが空回りして出遅れる」
「発進したとき、スタートのゲートを速く乗り越えないといけないのだが、富井君は前のタイヤが浮かないようにと、前傾姿勢のままだが、後ろのトラクションをかけるために少し荷重移動することも必要」
「ときにマシンが暴れて不安定になることもあるが、とにかく発進したら直ぐにステップに足を乗せてニーグリップをして1コーナーまで全開!!」
富井は何度も練習を重ね、なんとか形になってきた。
スタート練習を終え、次はコースにて特訓を開始する。
“ストレートで速いのは初心者、コーナーを極めて中級、上級者となるとストレートでもなく、コーナーでもなく、第三のポイントで差をつける”
ある、漫画でのセリフがあるが、それを教える。
「それで、第三のポイントとはなにか分かるか?」
『コーナーから次のコーナーに向けてですかね?』
富井は、自信なさそうに答える。
「まぁ・・・そんなところかな?俺も知らんけど」
『知らんのかい!』
ツッコミを入れられる・・・
「高速コーナーで逆バンクになって無理に攻められないコーナーあるだろ?」
『はい、攻めるとスリップして転倒するしイライラするコーナーですよね』
「そう!そういうコーナーは、低いギヤで速く曲がろうとせずに、高いギヤでとにかくスムーズに曲がることを意識する」
「高いギヤだと、今度は立ち上がりで失速するから、回転を上げておかないといけない、そうなるとコーナーのスピードを落とさないように曲がらないといけなくなり無理をせずに、速く曲がれることに繋がってくる」
「それでレース中に、立ち上がりで焦ってアクセル開けたとき、低いギヤで立ち上がるとリアタイヤがスベったりすることがあるが、高いギヤだとそのリスクが減るからいいよ!知らんけど・・・」
『知らんのかぁーい!』
笑いを入れつつ、富井は特訓に励む。
俺が教えられることは、すべて教えた。
そして春になり、全日本モトクロス選手権の開幕戦が始まる!!
「ついに、開幕戦やな」
『まさか、全日本モトクロス選手権をフル参戦できるとは思っていませんでした』
開幕戦は、富井にとって初の会場となり、かなりのプレッシャーに追われている。
『マシンは、完璧に仕上がっているから軽く予選通過がんばれよ』
音絵奈は、富井のマシンを押しながらスタートグリットに向かう。
『さぁ!全日本モトクロス選手権、開幕戦。ここ宮城県のスポーツランドSUGO!まずは、国際B級クラスの予選からです』
全日本モトクロス選手権のレース実況解説者、MCよっちゃんの実況がマシンの音と共に流れる。
『昨年、【Goodbye my hero】の小説と映画が大ヒットして、今年はモトクロスブームとなり観客動員数が増えています』
『また、この国際B級クラスは、映画の影響もあり新人ライダーからベテランライダーまで沢山のエントリーがありなんと、150台近く集まり予選が5クラスとなりました』
『今大会、スタートグリットに並べられるのは、30人のライダー!』
『つまり、予選で六位以内に入らないと決勝に進出できません』
レースクイーンが、スタート15秒前のボードを提示する。
『さぁ!予選スタート15秒前となりました。10分+1周でおこなわれる予選、まずは一組目』
コースオフィシャルが、5秒前のボードを提示。
『スタート5秒前!!エンジン音が高まるぅーーー!』
“ガシャーン”
『今スタート!ホールショットを取るのは・・・』
202×年 全日本モトクロス選手権 国際B級クラス
開幕戦 宮城県 スポーツランドSUGO
プレッシャーに負けてスタートに出遅れ、追い上げるも転倒して予選落ち。
第二戦 奈良県 名阪スポーツランド
無事に予選通過し、決勝進出。
完走したものの、あと一歩届かずノーポイント。
第三戦 広島県 グリーンパーク弘楽園
全日本モトクロス選手権のレースにも少し慣れてきて、予選三位で通過。
決勝も、一時三位を走行していたが甘くない全日本モトクロス選手権、後続車に抜かれ順位を落とし六位でゴールする。
第四戦 熊本県 HSR九州
なんと!予選をトップで通過。
決勝では、スタートに出遅れるものの、見事に追い上げ三位入賞、初の表彰台に。
第五戦 岩手県 藤沢スポーツランド
予選にて、またもスタートに出遅れ追い上げる形に・・・
ファイナルラップに逆転劇をみせ、ギリギリで予選通過。
だが決勝にて、スタートのクラッシュに巻き込まれマシンが大破しリタイヤを余儀なくされる。
第六戦 宮城県 スポーツランドSUGO
四位で予選通過。
スタートが決まりオープニングラップを三位で通過、ラスト5分までトップ3台激しいレース争いをするも、コーナーで二位のライダーと接触をして転倒。
直ぐに、再スタートするも転倒中に後続車に抜かれ、五位でゴールする。
第七戦 奈良県 名阪スポーツランド
走り慣れたこのサーキットは、トップで予選通過。
決勝は、四位を走行中、ファイナルラップにて、二位と三位のライダーが激しいレースの末、接触して2台が転倒して、それをうまく交わし、運良く二位でゴールをする。
第八戦 広島県 グリーンパーク弘楽園
トップで予選走行していたが、二位のライダーと接触をして転倒。
直ぐに再スタートして、ギリギリで予選通過。
予選の転倒により身体にダメージが残ったまま決勝に挑むが、ペースが全くあがらず十位で完走。
第九戦 熊本県 HSR九州
二位で予選通過。
決勝にて・・・大雨の影響で、コース場には沢山の水溜りと轍ができて、半数以上のライダーが轍につまずきリタイヤしていく。
富井は、うまいこと轍を回避しなんと!決勝で初のトップを快走するが、レース後半になるにつれ雨も更にひどくなり、水溜りを走行しなければならなくなった富井は、勢いよく水溜りから抜け出すも、エンジン内に水が入りエンジントラブルに見舞われてマシンがストックしてしまいリタイヤを余儀なくされる。
そして最終戦!
埼玉県 オフロードヴィレッジ
富井は無事に予選を通過し決勝進出。
決勝当日は、最終戦にふさわしく晴天に恵まれた。
パドックで決勝に向けてウォーミングアップで自転車をこいでいる富井の隣で、
『マシンの最終チェック完了!めっちゃコース荒れているから少しセッティング変えてるから、後今日は、晴天でホコリがやばいから多分、レース前に散水をいつも以上にすると思うからタイヤは、ミディアムソフトにしたよ』
音絵奈は、毎日マシンを整備することによって、この一年でかなりの技術を身につけていた。
「しかしあれだ、ポイント争いギリギリで決勝に挑むとはな・・・」
国際A級クラスに昇格するには、年間十位以内に入らないといけず、富井は現在十一位で最終戦に挑む。
十位以内に入るには、優勝しかないのだ。
「まぁ・・・なんだかんだでここまでよくやってくれたよ!」
「優勝して、約束通り国際A級クラスに昇格してもらいたいが、甘くないからな」
俺は、笑いながら言う。
「泣いても笑っても、俺達の契約は今日で最後や!とにかく悔いの残らないようにこの一年の成長をみせてくれよ」
『はい!悔いの残らないように、全部だしてきます』
「おう!全部だすのはいいが、ち○こはだすなよ」
冗談を言うと、
『レディーの前でち○こいうなっ!』
音絵奈が、笑いながらつっこんでくる。
めっちゃ緊張していた富井だが、俺の話で少し緊張がほぐれた。
『よし!そろそろ時間や。スタートエリアにいこう』
準備満タンの富井、音絵奈はマシンを押し、俺は台車に積んでいるスペアタイヤや工具を押して、俺達三人はスタートエリアに向かう。
そして、決勝進出の30台のライダーとマシンが、スタートゲートに並び終えた。
「とにかく冷静にな!」
『こんな最高のマシンに乗れるのは、これで最後かもしれんから悔いを残さず走ってきてね!』
俺と、音絵奈は富井にエールを送り見守る・・・
『全日本モトクロス選手権最終戦、国際B級クラス、ここ埼玉県オフロードヴィレッジまもなくスタートです』
MCよっちゃんの実況解説がはじまる。
『このクラスは、既にチャンピオンは決定していますが、このままチャンピオンは優勝できるのか?また新たな優勝者が現れるのか?スタート5秒前・・・』
映画の影響で、この年はモトクロスブームで更に会場が関東でアクセスしやすいサーキット場となっており80年代、バイクブームの時代並の会場動員数となり、何万にという人口が注目するなか・・・
“ガシャーン”
『今スタート!さぁ、1コーナーを先に抜けだすのは・・・』
『富井だ!富井がホールショットをとったぞ』
なんと、一番苦手としていたスタートだったが、うまく決まりスタートダッシュに成功。
「あいつやりやがった」
『エンジン快調っ』
俺と音絵奈は、ハイタッチした。
無事1周目、トップで通過・・・
そのままトップをキープして周回を重ねる富井。
しかし、甘くない全日本モトクロス選手権、スタートに出遅れたチャンピオンが追い上げをみせ二位まで浮上し富井に追いついた。
「あいつ焦っているな・・音絵奈ちゃん、ボードに“教えたこと忘れるな”と書いて」
『りょうかい!』
音絵奈は指示通り富井に、ボードをだす。
『おっと、チャンピオンが富井のインをさし抜いた』
MCよっちゃんの実況が聞こえてくる。
「やられたか・・・」
そう思った俺だったが、富井は諦めず必死にチャンピオンを追いかける。
『抜かれたけれど、そんなに離されてないね』
音絵奈は、抜かれると直ぐに離されると思ったが、差があまりないので少し安心する。
各ライダー、熱いバトルを繰り広げられるなか、
『国際B級クラス、いよいよファイナルラップとなりました』
『現在トップを走っているのは今年のチャンピオン!このまま逃げ切り優勝するのか?』
『二位は後半戦から、トップレベルに成長した富井選手』
『最終戦で、優勝すれば大逆転で国際A級クラスに昇格できます。このファイナルラップで逆転優勝できるのか?』
トップとの差はなく、富井は抜き返すチャンスを狙っている。
そして、逆バンクの高速コーナーに差し掛かる。
『おーっと、富井選手、チャンピオンの真後ろについた・・・』
『あーーー!チャンピオン・・・立ち上がりでリアタイヤがスベり転倒した』
『大逆転、富井が再びトップに立ったぞ、転倒したチャンピオンは直ぐに再スタートしたが・・・』
『後半周、もう追いつけないか?』
後ろに迫られて、焦ったチャンピオンはアクセルワークをミスり、スリップしたのであった。
追う立場で落ち着いていた富井は、俺に教えられた通りに高速コーナーを高いギヤで侵入しスピードが乗っていたので、チャンピオンに追いついたのであった。
『龍司さん・・・逆転しましたよ。本当に優勝するかも』
「このまま調子のって転けるなよ・・・」
最後まで、富井を見守る・・・
『そして、最終戦コーナーを立ち上がり、今ゴールイン!!』
『富井選手、初優勝しました!これで来年は国際A級クラスです。そして、今二位のチャンピオン・・・』
最終戦で、見事優勝をした富井はマシンに乗ったまま、コースオフィシャルに表彰式がおこなわれる所まで誘導される。
「やったな、本当に優勝するとまでは思ってなかった」
『約束通り、国際A級に昇格できました。ありがとうございます』
俺と富井は握手をした。
『おめでとう富井!それと、龍司さん・・・弟のためにありがとう』
気の強い音絵奈も、このときばかりは、涙しながら喜んだ。
表彰式がおこなわれ、
『優勝は富井選手です!!盛大な拍手を』
富井は、嬉しそうにシャンパンファイトをする。
“富井よ!夢叶えてくれてありがとう。最高の一年だったぜ!
これで、俺達は夢を叶えて、無事一年の活動に終止符を打ったのであった・・・
数日後、俺は初めてジミーの墓に訪れた。
「お前の墓参りは絶対に行くか!と、思っていたけど、お前の話のお陰で一人のライダー夢を応援できた。ありがとうな」
「あの世でも、レースしてるんか?今度はクラッシュせんようにがんばれよ」
そう言い、手を合わせると、
『お前もがんばれよ!』
と、聞こえてきた気がした・・・
翌年の春。
『まさか国際A級クラスでレースできると思ってなかったですよ』
「さぁーそれよだ。一年だけの契約っていうたのにな・・・」
そう、俺は一年だけの契約で、無事に夢叶えたので、終わりにしようとしたのだが、チームにスポンサーが付き新たにレーシングチーム、
【Jimmy's☆Diamond】
を、設立したのであった。
『あんたら、マシンは完璧なんやから、チンタラ走らんと気合い入れて走らんかい!』
新しいチームを設立と同時に、俺や富井のようなレースをしたくてもできないライダーや同じような夢や考えをもったライダーのオーディションをおこない、国際A級クラスに、一名。
国際B級クラスに二名のライダーがチームに加入した。
音絵奈は、メカニックとしてライダーをサポートし、相変わらず気の強い音絵奈は、レース前のライダー達に気合いを入れていた。
さすが元ヤン・・・
『202*年、全日本モトクロス選手権開幕戦、ここ熊本県、HSR九州!』
本年度も、変わらずMCよっちゃんが実況解説をする。
『今年は、どのようなレースが観られるのか?去年のチャンピオン、防衛できるのか?また新たな新チャンピオンが誕生するのか?』
『また、去年国際B級クラスか昇格した十名のライダーは、ルーキーとして国際A級クラスでどこまで通用するのか?非常に楽しみです』
「とりあえずデビュー戦、予選通過できてよかったな!決勝の目標、ポイントゲットな」
『頑張ってきますっ!』
俺は、富井の背中を叩きエールを送った。
コース場には爆音が響き渡る!
コースオフィシャルが、5秒前のボードを提示し、
『スタート、5秒前・・・』
『エンジン音が高まるーーー!
“ガシャーン”
『今スタート!横一列、30台並んだライダーが一斉に1コーナーへ向かう!』
『開幕戦が始まったーーー!!』
“夢が叶うのは、一握りの人達・・・”
“特に夢もなく順風満帆で、お日様西々の人生もいい・・・”
“だが、叶わなくても夢をもって生きる人生は最高にカッコイイ!”
“矛盾だらけの世の中やけど、毎日やりたいことやって楽しいことを求めて生きようぜ!”
作者・ジミー
Goodbye my hero ~ second story~
《完》
【Goodbye my hero ~ second story~】 ジミー @845jimmy
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