序章~七節~
「らァッ!!」
殴打する鈍い音、息を荒げた男の声。
港にある倉庫の中では大人数の男達が一人の男を囲み、ひたすらその体躯を痛めつけていた。
後ろ手を拘束された男はびくともせず、ただ黙って拳や蹴りを受け入れるのみ。
それを黄色いサングラスの男……尾上組若頭補佐・柏木が見つめていた。少し前に喰らった『重い一発』によりその鼻は赤黒く腫れており、大きな絆創膏が貼られている。
リンチを受けている男……逢坂遮那もまた柏木と同じ極道であり、その筋では有名な人物でもある。遮那の所属する黒鵜組は関東の極道を束ねる広域指定暴力団・艮会の傘下にあったが、彼らはその中でも指折りの実力を持った武闘派集団であり、実質艮会が関東を統一できていたのはこの黒鵜組による貢献が大きかった。実際黒鵜だけでも関西最大の暴力団に匹敵する力を持っていたほどであり、西を束ねる理事会に『東には鮫をも飲み込む黒鵜あり』と言わしめていた程だ。
そんな黒鵜を束ねていた先代組長もまた、激動の昭和の時代において伝説を築き上げた任侠であり、艮会の次期会長候補として名も挙がっていた。かくいう柏木自身もまた、黒鵜組はともかくその組長個人に対しては敬意の念を抱いていたほどだ。そんな男が7年前に他界してからと言うものの、黒鵜の中でも跡目争いにより派閥ができては分裂し、すっかり弱小組織へと落ちぶれてしまっており、今や伝説も過去の話となっていた。
……だが、そんな衰えた組織の中で、最近名を上げ始めている男が現われた。先代組長の右腕を務めた『黒鵜の狂犬』の息子であり、元は堅気だったが組長の死をきっかけに極道入りしたルーキー。たった一人で抗争相手の事務所に乗り込んで壊滅、艮会で長年信頼のあった理事が裏で不義を働いていたのをいち早く突き止めて破滅へ追い込む、自身を探りに来た公安の刑事を拷問し、沈めたか或いは廃人にしたなど色々ネタの尽きない男。柏木自身も噂には聞いていたが、まさか自分達の組にまで乗り込んでくるとは思わなかった。それも、あんな七面倒な策を弄してまで。
一通り殴られても不敵な笑みを崩さない遮那に、柏木は重い腰を上げる。遮那を殴る舎弟を退かせ、尋問を始める。
「……まさか黒鵜の遮那王がこんなややこしいことするとは思いませんでしたよ。何が狙いです?」
ぺっと血を吐き捨てた遮那は「あ~~」と惚けた声を漏らす。
「その前にさァ、煙草ねェの?」
「てめェッ、調子こいてんじゃ…!」
はやる舎弟を制しつつ、柏木は持っていたタバコ咥えさせ、火を点ける。
遮那は肺いっぱいに吸い込んで煙を吐きつつ、「味がしねェ」と文句を言った。
「……なら一個ずつ聞きましょ。あんたコレがなんだか知ってて盗んだんですか?」
柏木は懐からある物を取り出す。
金色の大鷲の紋が描かれた、年代物の印籠。遮那が尾上の事務所から盗み出した品だ。
「あァ、主君の証だろ?『幽霊ども』の」
「………」
ぴくりと眉をひそめる柏木に、遮那は嘲りの笑みを浮かべる。
「ウケるよなァ、幽霊が忠臣ヅラしてやがんの。どうせ主の肉体乗っ取って腐らせちまう癖にな。契約する奴もする奴だ」
「……そこまで知ってるとはねェ」
柏木もまた、喉を鳴らして笑う。二人の男が同じように不気味に笑うので、囲んでいる舎弟達は神妙な面持ちで見守った。
「ひょっとして黒鵜さんも噂聞いて契約狙ってるクチですか?あんたの所も落ちぶれ具合はウチといい勝負ですしねェ」
「あァ、泣けなしのメンツで何とか意地張ってるところよ。ま、てめェんとこはそれすらも気にしてられねェようだな」
「ええ、そりゃあもう焦ってますとも、うちのオヤジ。……哀れなもんや、こんなもんに頼らんと親名乗れんくらい腑抜けになってしもうた」
皮肉そうに印籠に視線を落としつつ、まあそんなことはどうでもええと柏木は仕切り直す。
「ではもう一つ、なぜこんなややこしいことを?」
「ややこしいって?」
「わざわざ変装してウチ忍び込んだ上に撃たれたフリして逃亡するなんてややこしいに決まってるでしょ」
「撃たれた撃たれた。いやぁもうシャバが半分取られちまった気分よ。どうしてくれんの?」
「あんたの目は元からやろ」
こつん、と遮那の白い眼帯をつつく。
「逃走経路だってわざとアシがつくようにしとったな?それに本気で正体隠すならわざわざ『同じ変装で』居続ける必要もない。あんたはウチらに見られた時のまま、黒鵜に帰ることもせずこの辺うろちょろしとった」
「………」
「捕まえてくれ言うてるようなもんですよ、コレ。……あんた何がしたいんです?」
「……あァ、ただの撒き餌の一貫さ」
すぱぁ、と肺の中の煙を吐きながら遮那は言う。
「名人の真似してコマセを多めに撒いてさ。んで目論見通りヒットよ。もー入れ食い入れ食い♡」
「ほォ……ウチら狙いにしちゃややこしい撒き方ですねェ」
「あァ?『コマセ』が一丁前に魚ヅラか?」
小生意気な笑みを一層深めて吐かれたあからさまな挑発に、控えていた舎弟も身を乗り出す。
「てめェッ……!」
「待てェ」
「……ッ!」
だがそれでも柏木だけは挑発に乗らず、遮那の狙いを探るのをやめなかった。
「……ではあんたの狙いは……あくまで別にあると」
こうまでした目の前の狂人の狙いが何だったか……柏木は印籠を盗まれてから今日までを振り返り、どこかでヒントがなかったかと探る。
……そこでふと、思い出したものがあった。
「……あんたと一緒にいた、あのガキ」
ヒントはほんの先刻にあった、とある異分子との遭遇だ。
正面から射殺を試みたものの、なんと回避不能の弾丸から逃れて見せたあの少女。
挙げ句の果てにはその場にいた舎弟達を一瞬にして地に伏せると、最後に自分に一撃を喰らわせ遮那を連れて逃げ仰せるなどの離れ業もやってのけた。
自分の死角から迫ったあの獣の目は、この先一生忘れられないだろう。
「あれはあんたの部下ですか?」
「いんや?今口説いてるところよ」
「……なるほど」
少女を思い出したことで組み立てた即席の予想は、なんともあっさりと確証に変わった。
「あのガキおびき寄せるためにこんなことをした、と……へェ、なるほど。そのためにわざわざ大阪からウチらを引っ張り出してきた、と」
なるほど、なるほどねェ……と繰り返す柏木は俯き、肩を震わせて笑う。
その場に響き渡るのは彼一人の笑い声しかなく、それに追従して笑う者など誰もいなかった。
柏木をよく知るものは、その笑い声に込められた感情を察していたからだ。
「おもろい話やないか」
すっと顔を上げて遮那を見るその目は、案の定、一切笑っていなかった。同時に、タバコを咥える遮那の横っ面を思いっきり殴り飛ばした。
「ッげほっ、」
吐き出された遮那のタバコのフィルターは血反吐に染まっていた。
柏木はそれを踏み潰し、倒れた遮那の髪を掴んで起こす。
彼の中にあった苛立ちの感情はたった一つだった。
「そんなことのためだけにコマセに使われてたまるかい」
他にもある思惑を吐け。それが柏木の次なる主張だった。
「あのガキが普通ちゃうのはよォわかった。あの後もウチの若い奴らもほとんどノバされたそうやし。ありゃあんたが欲しがるワケやな?あんなバケモン早々おらん」
けどな、と続けながら柏木は印籠を遮那の隻眼にぐいと見せつける。
「あのガキ勧誘するだけならウチを使うんも『回りくどすぎる』。わざわざコレ盗った目的はなんや。契約を奪うためやないのか」
「オレは幽霊と組むのはごめんだね」
「なら何が……」
そう言いかけた時、柏木は思わず言葉に詰まる。
印籠越しに目が合った遮那の黒い瞳が、あまりにも底なしに見えたからだ。
狂気を抱いた人でなしの目を持つ者はこの世界にごまんといるが、奴らはまだヒトの範疇にいるからこそ安心できる。
だがこいつの目はどうだろう。もし本物の化け物なんてものがいるとしたら、こんな目をしているのだろうか。そう思わせるようなこの闇は、一体何なのか。
「……奴らとの契約にゃこんなルールがあるんだよな?」
底なしの隻眼をにんまり細めながら、遮那は愉快そうに話す。
「『決して自分が主だと他言してはならない』。てめェらが知ってるってことはおそらく信用する相手なら問題ねェようだが」
整った顔立ちをこんなにも歪ませられる人間がいるのか。
そして、この男はどこまで知っているのか。そんな不気味さが場を支配していた。
「印籠は奴らの主君…信頼の証。そいつを持って餌を与えてる間、奴らは犬として忠実に機能するし何でもやる。……だがそいつが一度失われたら?」
「……!」
「あの幽霊どもは『影の刃』でいるために徹底して自分達の存在を隠すし、契約を結んだ相手もそれを守らなきゃならねェ。その印籠はオレ達が都市伝説に等しい奴らの存在を確信できる、唯一の物証だからな」
「………何が言いたい」
喉を鳴らしながら笑う遮那。ぐにゃりと歪んだ口角と目尻の先まで、全てに男が柏木達から味わっている愉悦が行き渡っている。
そして、その口から出てきた言葉もまた同様だった。
「……ソレをおめおめと奪われたマヌケは……一体どうなるんだろうなァ?」
「……ワレェ……」
苛立ちは見せていたものの、努めて冷静を装っていた柏木の額にとうとう青筋が浮き出た。
だがそれを見ても尚、逢坂遮那はなんとも愉しそうに嗤い、
「短ェ蝋燭は消えるもんさね、センパイ」
と、彼らに宣告した。
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どうしよ。
どうしよどうしよどうしよどうしよ……
「どうしよ~~~~っ!!!」
なかなか見つからないよ~っ!黒い車なんて結構あるからわかんないし!
もっと速く走れば追いつけたかもしれないけど……。
(す、スカートの中が気になってうまく走れなかったし……っ!)
それもこれもあのお兄さんがいつの間にかわたしの……ぱ、ぱんつを取って行っちゃったから……!
ていうかどうやって取ったの!?マジシャンなのあの人!?
商店街とか路地裏とかあちこち探し回って、とうとう港まで来ちゃったけど……このまま見つからなかったらどうしよう……!
「うぅ……なんでこんなことに……」
海の塩っ辛い匂いを吸い込んだのと同時に鼻の奥につん、と痛みが走り、じんわりと涙が滲む。そもそもあのお兄さんに目を付けられちゃったのが運の尽きだった。どうやってわたしのこと知って色々突き止めたのか、未だにわからない。あのお兄さんの残していった謎は全部言い知れない恐怖へと繋がっており、ますます今の状況を嘆かずにはいられなかった。自分の秘密だけじゃなく、挙げ句ぱんつまで奪われるなんて惨状、誰が想像できただろう。
あのお兄さん、一体何者なんだろう?演技力もあんなにすごくて、よっぽど頭の切れる人だろうし……しかもものすごく強くて、大人数相手に一歩も怯まなかったし……。
……でも、ちょっと気になってしまう。
「……ひどい目に遭ってないかな」
連れて行かれたっていうことは、あのサングラスのヤクザさんも一緒かもしれない。
あのときは顔を一発殴っちゃったけど、気絶させるくらいだったからきっとすぐ復活してるだろうし……。あの人もすごく怖い人だったから、お兄さんのこともきっとただじゃおかないだろうし……。
「……はっ!だめだめ!心配なんかしてちゃ!」
どうせあの人のことだからぴんぴんしてるに決まってる!まずわたしが優先すべきなのはぱんつ!お兄さんを助けるのはついでなんだから!
そうしてお兄さんのことを頭から振り払おうとしたとき、ふと目に入ったものがあった。
「あれって……倉庫、かな?」
港にある大きな倉庫。あの辺りは稼働していない日はほとんど人気のない場所だったはず。
……ひょっとしたら!とわたしはそこへ足を向けた。
(……やっぱり)
近くにお兄さんを攫った黒い車が停められていた。
じゃあこの倉庫の中に、お兄さんが……?なら、助けに行かなきゃ……!と一歩踏み出したときだった。
(パァン!)
「っ!」
あの嫌な音が聞こえた。
ふっと横を見ると、今日何度も見た弾がこちらへ向かってきている。
それを躱したけれど、追加で二、三発も撃たれる。ここにいては的になると飛び退いて体勢を整えた。
「探す手間が省けたわ」
ピストルを構えた、また人相の悪い男の人がやってくる。
続いておんなじような怖い人がわらわらと集まって、あっという間に囲まれてしまった。その中には路地裏で撃退した人達も混ざっている。
「さっきはいいのくれたなお嬢ちゃん」
「大人に喧嘩売ってもええことないってわからしたらんとな」
今度はやられないとばかりに、みんな武器を持って構えている。
ここにこの人達がいるってことは、やっぱり……。
「……あのお兄さんは、ここにいるんですね?」
「あァ、そこの倉庫ン中や」
「心配すんな、連れてってやる。……その前に足腰立たなくしてもらわんとな」
そう言うと、またピストルでわたしを狙う。
「やめてください」
「あ?」
「わたしは争いに来たんじゃなくて、あの人に会いに来ただけなんです。だから……!」
さっきはなんとか手加減して済ませることができたけど、今のこの人達はわたしに対して警戒心を強めている。今度は下手を踏まないと、本気で襲ってくるに違いない。
そうなるとわたしもどこまで手加減できるかわからない。うっかり取り返しの付かない大怪我を負わせてしまったら……!
すると、ヤクザさんの一人がにやりと笑う。
「ほォ、喧嘩する価値もねェってかい」
「そういうことじゃ……」
否定しようとしたけど、引き金にかかったヤクザさんの指に力が入るのが見えた。
「ナメんなァ!」
発砲されたのをまた避けると、それを合図に取り囲んでいた人達が一斉にこちらに向かってやってきた。
みんな角材や鉄パイプに、刀なんて持ってる。怖すぎるよ……!
「おらァ!」
振りかぶられた角材をぱしっと受け止めると、それごと相手を投げて別の人に体当たりさせる。
「この野郎!」
後ろから羽交い締めにされると、前から鉄パイプを構えた人がやってくる。
ごめんなさいと頭の中で呟きながら前屈みになると、後ろの人の頭が身代わりに直撃。気絶したその人の体を持ち上げて前方へ投げる。
「クソがァッ!」
今度は三人が一斉にやってくる。左右に一人ずつ、前方に刀を構えた人が突進してきていた。
捕まる寸前にわたしは素早くしゃがむと、左右から来た二人は正面衝突。そのまま前にいる刀の人を無力化しようと身構えた時だった。
(………はっ!ぱんつ!!)
そうだった。今のわたしはいわゆる……のの、のーぱん……という状態であることを思い出してしまったのだ。
(ぜっっっっったい見られたくない!!!)
お尻を庇ったまま、地面を蹴ると、刀を持った人の懐に素早く入る。
スカートがめくれないよう、できるだけ小さな動作で刀を叩き落とし、そのまま背負い投げた。
よし、こういう動きならなんとかバレずに戦えるかも……!できるだけ動かずにしなきゃ……!
「くそッ、まるで歯が立たねェ!」
「クソガキめ、こうなったらッ……!」
それから何人も相手したけれど、幸いたいした怪我をさせることもなくいなすことができていた。
「ま、まだ続ける気ですか!」
取り囲んでいる人達の数は減ってきたし、起きている人達は手をこまねいているみたい。
対してわたしの体力は思ったより消耗されていない。このままいなし続ければ、全員やっつけられるかも……!そうすれば、ぱんつも取り戻せる!
(よーし、あと一息……!)
そう意気込んだ、その時だった。
(キキーーッ!!)
何だかブレーキのような音と、エンジン音が聞こえる。
「何ッ……うわッ!」
「危ねェだろテメェ!!」
後ろでヤクザさんの怒号が聞こえる。なんだろう?と思って振り向くと、
「くっ、車!?!?」
さっき見たあの黒い車が猛スピードでこちらへ突っ込んできた。
慌てて避けると、進行方向にいたヤクザさんの何人かが撥ねられてしまった。
見境がない!ヤクザさんってここまでするの!?
「ちょ、ちょっと……!きゃあっ!!」
突っ込んでいった車は方向転換すると、またこちらに向かって突進してきた。
すると、助手席から一人のヤクザさんが顔を出す。
(パァン!)
「ひゃっ!!」
車だけじゃなくて発砲!?めちゃくちゃすぎるよ!
どうしよう、こんなの避け続けてたら他のヤクザさんも轢かれちゃうかも……!なんとかしなくちゃ!
(で、でもどうやって……!?)
暴走車の壊し方なんて修行で習わなかったし、そんな技もない!
修行で何回か丸太や岩を相手にしたけど、さすがに鉄の塊は経験してないし!でも、このままじゃ……!
(ううう……どうしたら……!)
何かないの?何か……!
おばばっーーーー!
『向かってくるもんは「せき止めれば」よろしい』
「……そうだ」
単純な話、止めればいいんだ。
川の激流をせき止める岩のように。もしくはその力を分散させればいいのかも。
「よーし……」
すうっと深呼吸をし、海を背後にして力強く地面を両足で踏みしめる。
決して動かず、真正面から車を迎え入れる構えを崩さないように。
静かに両手の掌を前に出し、ゆっくりと重ねる。足の裏から伝わる力を集中させるようイメージしながら、息を整える。
(自分を大きな岩だとイメージして……でも相手は鉄の塊だから、強めに押さえるよう……)
この技は確か、山の中の修行でイノシシに襲われた際に使ったのが始めだったと思う。
なだれ込むように突撃してくる敵を止めるために使用された技だとおばばに教わった。あの時はイノシシを止めることはできたものの、勢い余って前のめりになりながら、わたしの頭上を一回転してそのまま倒れちゃったんだっけ。
車がそうなるとは限らないけど、念のためその場にとどまるように押え込まなきゃ……!
(乙吉流、『芽生(めばえ)』の段)
猛スピードで車が向かってくる。助手席からまた発砲されるけど、避ける必要は無い。
呼吸は整った。あとは、掌に溜まった力を、衝突するタイミングに合わせて―――。
(『流止(ながれどめ)』――――――!)
一気に叩き込んだ。
掌に触れた瞬間で技を放ったので、完璧なタイミングだったと思う。
これでなんとか、車を押し止めれる……!
(ピシッ……)
「ん?」
何やら耳慣れない音が聞こえた気がする。
肝心の車はタイヤが止まることも無く、そのままわたしをすり抜けるように通り過ぎた。
(かぱっ)
「え」
文字通り、『真っ二つ』になって。
(えぇええぇえええ!?!?!?)
何が起こったかわからない。だって止めるだけのつもりだったのに、なんで!?なんで真っ二つになるの!?車ってそんな簡単に割れちゃうものなの!?
運転席と助手席の人も同じく呆気にとられていて、自分が今どうなっているかもわかっていないみたいだった。そりゃそうだよね……。
……いやそうじゃなくて、このままじゃ海に突っ込んじゃう!
「危ない!」
慌てて運転席と助手席の人を掴み、さっと降ろす。
真っ二つになった車体はそのまま海の方へ走っていき……。
(ばしゃーーんっ)
大きな音を立てて落ちた後、ぶくぶくと沈んでいった。
その光景を、ぽかんとしながら見るわたしと二人のヤクザさん。
……どうしよう、これ、弁償かな……。
「だ、大丈夫ですか…?」
とりあえず怪我はないかな、と地面に座り込む二人に声をかける。
すると二人は気がついたようにぱっとわたしを見上げた。
「ひっ……ひぃいいいっ!!」
「化け物!!」
二人が悲鳴を上げて走り出すと、他のヤクザさん達も一目散に逃げていった。
その場にぽつん、と取り残されたわたしは、ヤクザさんの捨て台詞を静かに呟く。
「…………ばけもの、」
………ご尤もです………。
*****************************************************
―――外で激しい攻防戦が繰り広げられていた中、倉庫の中では引き続き剣呑な空気が続いていた。
「は、……なるほど、これは主君の証だけやのうて……奴らに飼われている証でもあるっちゅうことか」
手の中の印籠を弄びながら、柏木はニヒルな笑顔を浮かべる。
先ほど遮那に挑発されて一瞬憤ったものの、すぐさま平静を装っている。
「そういうこった。てめェらの親父は首輪つけられて喜んでんだよ」
にも関わらず遮那はまた藪をつつき続ける。ここまで来るといっそ清々しいほど嗜虐的だった。
「………強い武器を持つには相応の覚悟がいる。そいつをうちのオヤジは見えなくなってもうてたんやなァ」
切なさを滲ませた声色で語りながらも、大鷲の紋を憎々しげに見つめる柏木。
「あの人の頭にあるんは返り咲くことだけやったからな……けどな」
ぎゅっと印籠を握りしめつつ懐に入れながら、静かに遮那に銃を向ける。
黄色いサングラスの向こうの目は、どこか決意を感じさせるものがあった。
「それでも俺にとっては親や。そこだけは筋通させて貰うで」
その意図がわかった遮那は、また愉しそうにニヤリと嗤う。
「……果たして丸く収まるかねェ?」
「収めなあかん。ここでワレを沈めてそれをネタに黒鵜を喰ろうてしまえばええ」
「親父ギャグまで飛ばすなんて余裕じゃん」
「ほんならついでに苦労人もつけたろか?」
「苦労人が黒鵜を喰ろうてしまう……ねェ」
くくくっと肩を震わせる遮那に対し、柏木は無表情を貫いていた。
「苦労人だなァセンパイ」
一通り笑った後、いっそ憐んでいるような眼差しを柏木に向ける遮那。
柏木はそんな目を向けられるのも屈辱だったが、聞くべきことを聞くために遮那の胸ぐらを掴む。
「ああ、取りこぼしがもう一個あるな。……あのガキはどこや」
そう、自分達をねじ伏せた例の少女。
彼女もまた印籠を目撃しているし、遮那から何か聞いているかもしれない。
いずれにせよ、あんな化け物を放置しておくわけにはいかない。
「あァ、あいつ?……あいつなら心配ねェよ」
さも当然のように遮那が言い放つ。
どう大丈夫なのか、と柏木が問い質そうとした、その時だった。
(ガラガラガラッ)
巨大倉庫の扉が開かれ、外の光がその場を照らす。
開けた者の姿は逆光に黒く埋め尽くされていたものの、そのシルエットで何者かはすぐにわかった。
「あのガキ……!」
そう、例の少女だった。舎弟達も警戒し、さっと身構える。
どうやら外に待機していた者達とやり合ったようだが、この様子では全員やられたらしい。
つかつかと入ってくる彼女は、きっと威嚇するような目をこちらへ向けている。
「さァセンパイ?丸く収めてみせろよ。…収められるんならな」
愉しそうに挑発する遮那の胸ぐらを乱暴に離した柏木は、やってきた少女と対峙する。
「待っていましたよ、お嬢さん。先ほどは手荒い一発をどうも。……まあお互い様でしょうが」
「………」
少女はこちらに目もくれない。
後ろの遮那の方をじっと見ているようだ。
「……ああ、あなたの大好きな『お兄さん』ならご心配なく。この通りふてぶてしく笑っておりますので」
その言葉を聞いた直後、少女はかっと目を見開いたかと思うと、そのままずんずんと力強く歩を進めた。
「おっとそこまで」
柏木は少女を制止するため、遮那に再び銃口を向ける。
「ちょっとでもあんたがその場から消えたら撃ちますんで、そのつもりで」
「………」
この少女はとんでもないスピードの持ち主だということは身を以て知っている。
一瞬でもそこから姿を消した時にこそ、思わぬ所から攻撃がやってくる。ならばそれを封じるしかない。
「このお兄さんからは一通り事情は聞きましたが……ついでにあんたのことも教えてもらいましょうか」
柏木は少女をまっすぐ見つめたまま、遮那の頭に銃口をぐりぐりと押しつける。
「まずは、そうですね……名前や家族構成。あぁそれと、同類のお仲間がいたらそれについても詳しく「もういいです、そういうの」
質問を途中で見事にぶった切った少女。眉をひそめた柏木だが、少女から漂う気配が最初に出会った時とはまるで違うのに気づいた。
「そういうのやりたくないです。わたしは返して欲しいものがあるだけなんです」
どこか鬼気迫っているような、切羽詰まったようなものだ。
一刻も早く遮那を返して欲しくて焦っているのだろうか。
「返して欲しいんなら質問に答えた方が手っ取り早いと思いますがねェ」
「そんなのできません」
「ならこちらもこうするしかない」
遮那に強めに銃口を押し付ける。
だが少女はそれでも態度を変えない。
「それもやっちゃダメです」
「なら答えを…」
「嫌です」
「じゃあ」
「ダメです」
「なら」
「嫌です」
……なんだこの堂々巡りは。
ただでさえイラついているのに、こんな下らない押し問答までされては切りが無い。
いっそのこと、次の答えで引き金を引いてやろうかと柏木は指に力を入れる。
そして、その苛立ちを感じていたのは他の舎弟達も同じだったようだ。
その中の一人が、少女の後ろを、息を潜めて忍び足でじりじりと歩み寄っている。その手には角材が握られていた。
「ッッ!!」
舎弟が力一杯振りかぶる。
それに少女が気づき振り返ったのは、ほぼ同時だった。
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「待っていましたよ、お嬢さん。先ほどは手荒い一発をどうも。……まあお互い様でしょうが」
やっぱり、あの時のヤクザさんがいた。鼻の真ん中に大きな絆創膏を貼っている。
うう、やっぱり怒ってる……お互い様って言ってるけど、明らかに向こうの方が怒ってるよね……。
その怒りの目線から少しでも逸らしたい……とヤクザさんから視線を逸らす。
(…………いた!!)
探し求めていたお兄さんはそこにいた。ちょっと殴られちゃってたみたいだけど、無事みたい……!
「……ああ、あなたの大好きな『お兄さん』ならご心配なく。この通りふてぶてしく笑っておりますので」
いや本当にふてぶてしい!捕まってるのに何であんなに余裕そうな顔できるの!?
(相変わらずニヤニヤしてるしっ……って、あれ?)
ふと、お兄さんがにやけた顔で、ちょっと右肩を動かした。頭を少し傾けて、視線を自分の胸元へ示している。
(何かの合図かな……?)
つられてわたしも、そこへ視線を落としてみる。そこにあったのは……。
(ぱっ………ぱぱぱ、ぱぱっ、ぱんつ!!!)
お兄さんの胸ポケットからちょっとはみ出ている、見覚えのある柄。
あれは間違いなく、探し求めていたわたしのぱんつだった。
早く取り戻さなきゃ!はやる気持ちのまま、わたしはずんずんと前へ進んだ。
「おっとそこまで」
すると、ヤクザさんがお兄さんにピストルを向ける。
「ちょっとでもあんたがその場から消えたら撃ちますんで、そのつもりで」
「………」
それどころじゃないよ!!もう一刻も早くぱんつを返してほしいのに!!
しかも焦るわたしを見ながらお兄さんはニヤニヤしてるし!もうやだあの人……え?何か手を……ごそごそしてる?あれって、縛られてるんじゃないの?
「……(しゅるり)」
(えっ、解いた!?)
今の間に解いて見せたのあの人!?やっぱりマジシャン!?
(あっ、でもそれなら自分でなんとかしてくれるかも……!?)
びっくりどっきりしながらも、そんな期待を込めてお兄さんを見つめるわたし。
……でも、それは次の瞬間に呆気なく砕け散ってしまった。
「このお兄さんからは一通り事情は聞きましたが……ついでにあんたのことも教えてもらいましょうか」
「……(すすす)」
(!!!)
ピストルをぐりぐり頭に押しつけられているにも関わらず、お兄さんの行動は斜め上をいっていた。
あろうことか、胸ポケットからはみ出ていたわたしのぱんつを、すすすっと取り出して見せたのである。
(ちょっ……ちょっと!!そんなことしちゃだめ!!絶対だめ!!!)
「まずは、そうですね……名前や家族構成。あぁそれと、同類のお仲間がいたらそれについても詳しく「もういいです、そういうの」
ヤクザさんに質問されたけど、もうそんなの気にしてられない。もうそれどころじゃない。
こんなやりとりしてる場合じゃないよ!
「そういうのやりたくないです。わたしは返して欲しいものがあるだけなんです」
そう、大事なぱんつを!!
「返して欲しいんなら質問に答えた方が手っ取り早いと思いますがねェ」
「そんなのできません」
質問って何だっけ……!?いやでも、きっと秘密を教えろとかそういう類いのものだよね、きっと。
そんなの絶対イヤに決まってる!ぱんつのために大事な情報譲るなんて情けなさ過ぎる!
「ならこちらもこうするしかない」
またお兄さんの頭にピストルを押しつけるけど、もうそんなのも気にならなかった。
だってわたしのぱんつをびよんびよんして遊んでるんだもん!!ゴムが伸びちゃうでしょ!!
「それもやっちゃダメです」
「なら答えを…」
「嫌です」
「じゃあ」
「ダメです」
「なら」
「嫌です」
無心で反射的に答えてるからヘンな堂々巡りになっちゃってる。そんな中でもお兄さんは声を殺して笑いながらぱんつで遊び続けてる。もうどうしたらいいのかわからない。
(だ、誰か助けて……!)
半泣きで心の中で助けを求める。
(神様、お願いします。どうか、ぱんつを守る力を、どうか……!)
ぎゅっと目を閉じて強く念じる。これで助けに来てくれたらすごく嬉しい。
そう簡単に叶うわけじゃないってわかってる。でもどうか、今だけ奇跡を、どうか……!
「ッッ!!」
その時、背後で何か力むような呼吸が聞こえる。
神様に祈るあまり気配に気づけなかったようだ。さっと振り向くと、別のヤクザさんが角材を大きく振りかぶっていた。
「っ、たぁっ!!」
振り下ろされる前に、反射的に地面を蹴って跳び上がると、ヤクザさんの頭部へ強烈な回し蹴りをする。ヤクザさんはそのまま吹っ飛び、倉庫の中の棚へ突っ込んでいった。
それをみた別のもう一人のヤクザさんが、木刀を持って後ろから殴りかかってくる。
「死ねェッ!」
空中じゃ避けるの間に合わない……なら受け止めなきゃ!
体を捻って向き合い、白羽取りをしようと構えた。
……だから、忘れていた。わたしは落下中だったってこと。
(ふわぁっ……)
下からの風を受けて、プリーツスカートが舞い上がった。
同時に、すーすーしていた場所が、外気に晒されて一層寒くなった。
「!!!」
白羽取りの手はスカートを押え込む。
わたしに振りかぶられたはずの木刀は、なぜかぴたりと動きを止めていた。
(しぃ~~~ん……)
……沈黙が痛い。
ただただ心臓の鼓動だけが早い。
思わず蹲っちゃったけど、なぜかどこからも攻撃がやってこない。
(うそ、うそ。見られた?ひょっとして見られた?お、お尻も……ま、ま、前も……!?)
この沈黙はまさか、そういうこと……!?
嘘だと言って欲しい。そう思いながら、わたしは目の前で木刀を振りかぶっていたヤクザさんを恐る恐る見上げる。
「………お、お前、」
ヤクザさんはとっくに木刀を降ろしていた。
その代わりに口の端をひくひくさせながら、震える指でわたしを指す。
(え?違うよね?違うよね?違うって言って。もしくは何も言わないで、お願い……!)
再び神様にお願いしてみたものの、残酷な現実がヤクザさんの口から零れ出てきた。
「お前ッ……まさか、ノーパ「いやあああああああああああ!!!」
最後まで聞きたくなかった。その一心でわたしはヤクザさんの胸ぐらを掴むと、また別の方面へ投げ飛ばした。
「ッ!!」
木刀のヤクザさんが飛んでいった方向は、ちょうど黄色いサングラスのヤクザさんの方だった。
がつんっ!と大きな音を立てて互いに頭突きした後、二人は折り重なり倒れて気絶してしまった。
「あ、兄貴!!」
別のヤクザさんが悲痛な声を上げる。
「くそっ、やっちまえ!!」
「今なら下手に動けねェはずだ!」
リーダーがやられたことで士気が上がったヤクザさん達が、一斉にわたしの方へ向かってきた。わたしがのーぱんなのを気にして不自由だとふんでいるみたい。
こんな狭い場所で、多勢に無勢。外だったらまだなんとか対応できたけど、これはさすがにお尻を庇いながらは難しいかもしれない。
……ていうかそもそも、のーぱんの状態で誰にも近寄って欲しくないし!!
「いやーーーっ!!来ないで来ないで来ないでーーーーーっ!!!」
もうなりふり構ってられない。
見られちゃったとしても記憶を消す勢いで全員やっつけるしかない!!
やけくそになって暴れまくるわたしを、例のお兄さんはまたニヤニヤと愉しそうに眺めていた。
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何ともまあ、面白い生き物だと笑みがこみ上げてくる。
とっくに拘束も解いて自由の身になった遮那は、気絶した柏木の胸元から例の印籠と、ついでに新しいタバコを失敬する。
「あーーーどっこいせ」
そのまま座れる場所へ移動し、悠々と足を組んでタバコに火を点ける。
目の前では例の少女……野田うずらと尾上の舎弟達の、悲鳴と怒号が行き交う大乱闘が繰り広げられていた。
「あーあ、丸見え丸見え」
うずらは明らかにやけくそになっているようだ。まるで沸騰しそうなくらいに顔を真っ赤にし、半泣き状態で向かってくる男をちぎっては投げ、ちぎっては投げを繰り返している。もうスカートの中など気にしていられないようで、それはもう社会的な意味でも悲惨で面白い光景だった。
(……どう見ても、あの野郎と同じだ)
遮那は脳裏に、因縁の相手を思い描く。
全てを面白おかしく、どうでもよさそうに雲の上から眺めているような男。
天衣無縫でありつつも、他者を惑わし破滅へ導く魔性の獣。
その力は人の限界などあっさりと跳び越え、思うがままに敵を蹂躙し尽くし、いとも容易く地獄を作り出す、人智を越えたもの。
それはまさに、人類の突然変異とも言うべき生命体だった。
遮那は暴れ続けるうずらの動きをじっと見つめる。
少女の体格に見合わぬ怪力、目にもとまらぬ俊敏さ、飛んでくる弾丸を容易く避ける動体視力。
大の男が束になってかかっていっても、傷一つつけることすら叶わない。
ああ、まさしくあの小娘は、奴と同種の生き物。
アレさえ手に入れれば、自分は目的を果たすことができる。
あの幽霊の喉元まで、迫ることができる。
「とりゃあぁっ!!」
うずらの雄叫びが響き渡ったのを最後に、倉庫内に沈黙が訪れた。
荒れに荒れた大乱闘は終わりを告げ、そこに立っていたのはうずらのみ。
遮那はぱちぱちと軽く拍手を送った。
「お疲れェ~。なかなか見応えあったぜ?ノーパン戦法」
いやアマゾネスかな?そう煽る遮那をまっすぐ見つめつつ、ぜえぜえと肩で息をしながらうずらは早歩きで迫る。
そしてとうとう、高みの見物を決め込んでいた男の前に立った。
「……返して欲しいか?」
遮那はうずらのショーツをひらひらと揺らしてみせる。
うずらは怒りと疲弊と羞恥に満ちた顔で、なんとか言葉を紡いだ。
「あたりっ、前です……!そのためにここまでっ…きたんだから……!!」
「まァ聞けよ」
そんなうずらを手で制しながら遮那は言う。
「てめェを雇いたいのはこっちも本気なんだ。そのためにやらなきゃならねェことは何でもやる。てめェの家族に頭下げてでもな……それに、」
遮那はうずらにすっと指を差す。
「オレが追ってる男は、てめェらにとっても無関係じゃねェ。これは事実だ」
「……!」
これを聞いたうずらは驚いた表情を浮かべる。
「こっちの要求飲んでくれるならこいつらまとめて今日のこと『丸く収めて』やる」
「………」
「どうする?……野田うずら」
問われたうずらは腕組みをし、俯いて考え始める。
何やら「やっぱりあざみの……?」「それならおばばに……」「連れてくしかないのかな……」「え、本気で……?」とぶつぶつ言っていたが、考えが決まったのかすっと真剣な顔で顔を上げる。
「……本気なんですね?」
「あァ、本気だよ」
「うぅ………」
観念した様子で、うずらはわかりました、と小さく呟いた。
「わかりましたので、その……それを……」
うずらの視線は明らかに一点へ集中していたが、遮那はそれに気づきつつもわざとらしく聞き返す。
「あァ?」
「いや、だから、手に持ってるものを……返して……」
「……ああ、ならお願いしねェと」
「なんでですか!」
うずらは勢いよく突っ込んだ。
「わからねェか?もう始まってんだよ。てめェとオレの『関係』はな」
あんまりにも愉しそうに笑いながらショーツをくるくる回す遮那。
うずらはうぐぐ…と顔を真っ赤にして葛藤しつつも、きゅっと表情を引き締めて跪いた。
続いて、従者としての彼女が呼ぶべき名を口にする。
「………殿、」
どこか厳かさが漂う中で、うずらは静かに主へ嘆願した。
「ぱんつ、返してください」
―――――――これが、野田うずらと逢坂遮那の契約の始まりである。
うずらのおしごと 佐藤シンヂ @b1akehe11
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