第8話
朝礼が終わり、皆が作業を始める。よくわからないおもちゃを組み立てる作業。パソコンの入力を練習する作業。幼稚園児でもできそうな作業だった。そんな中、俺は一人だけパソコンで音楽を聞いた。そんな俺の所業を見かねて、職員の一人が俺を呼び出した。「山下君、ちょっと話があるんだけど、いいかな?」
俺は面接室のようなところに通された。呼び出した職員は、若い男の職員だった。「座って」
職員がそう言ったので、俺はおもむろに腰掛けた。
「さて、山下君。君の将来について、少し話したいんだけどいいかな?」
「将来についてですか」
この時点で俺は気に入らなかった。なぜこんな自分の事を何も知らない職員に、自分の人生について決められなければならないのだろう。そう思った。
職員は続けた。「君は、将来どうなりたいんだい?」
俺は言った。「そんなことを聞いてどうするんですか?」
「君が将来なりたい姿になれるよう、私たちは支援したいんだ」
「俺がなりたいのなんて、音楽家か小説家に決まっているじゃないですか」
俺はまたそうやって自分をさらけ出す。隠しておけばいいのに。
職員はため息をついた。「それ以外には?」
「事務職とか工場作業員とかあるでしょう」
俺は怒った。「音楽家や小説家は俺みたいな頭のおかしな障害者にはなれないと言いたいだけだろうが!」
「何もそんなことは言ってない。障害者でも音楽家や小説家になっている人はたくさんいる。君も趣味でやっていれば10年先にはプロになれるかも知れない」
「はっ、障害者雇用で10年も20年も働いていたら、それこそつぶしが聞かなくなりますよ!」
「君はパソコンが得意なのでしょう?だったら、パソコンを使った単純作業という方法もある」
「俺がやりたいのはプログラミングだ!」
「パソコンの単純作業を20年やっていれば、もしかしたら一般枠で声がかかるかも知れない」
「プログラミングだって、わざわざお金を掛けてスクールに通ったんですよ・・・?」
「だったら、君の好きなパソコンで単純作業をすればいいじゃないですか」
「君、見るからにパソコンとか好きそうだし」
「俺がキモオタだという事ですか?」
職員は笑った。「まぁ、君の好きにやってみればいい、どうせうまくいかないにきまっているのだから」
「なんだと!?」
「さあ、面談はもう終わり。次が控えているからね」
面談は一方的に打ち切られた。
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