第5話

家に帰ると、両親が喧嘩していた。俺についてだった。

「あんなどら息子をいつまでも養っていくつもりはねぇ!」

「じゃあ、どうするのよ!あんたが働かせればいいでしょ!」

「俺に責任をなすりつけるな!俺はあんな風に育てたおぼえはねぇ!」

「ええ、そうよ!あんたは、子育てに参加したことなんてないものね!」

俺は、怒鳴り狂う両親の横を、目立たないようにすり抜けようとしたが、父親が俺を見てボソッと言った。

「おお、どら息子のお帰りか。頭のおかしな病院にいつもご苦労な事だな」

「頭のおかしなお前のせいで、毎日お母さんに怒鳴られてかなわんよ」

俺は切れた。頭のおかしなと二回も言われたからだ。

「あんたが俺が子供の、まだ抵抗もできないときに暴力を振るいまくったからこうなったんだろ!」

だが、父親は平然と言い返した。「ほう、人のせいか?今こんな風に働かねえで頭のおかしな生活を送っているのは、お前の生まれつきの性格だろうが。俺はな、お前がこういう風にならないように暴力でしつけてやっていたんだよ。感謝しろ」

「てめぇ!」これで頭のおかしなといったのは三度目だ。俺が猛然と襲いかかるが、父親はものともせずそれをかわし、俺の手を逆手にとり、ねじふせながら言った。

「ほう、気に入らなかったら、暴力か?俺はな、お前が暴力を振るうたびにノートにつけているんだ。いずれ警察にたれこんで、お前を豚箱から出られないようにしてやるからな」

父親は毎日鍛えている。定年退職後は、あえて街を歩き回る仕事をして足腰を鍛えているし、この間父親の部屋に入ったら、ダンベルがおいてあった。俺が暴力を振るったときに負けないように日々備えているのだろう。支援者どもに自己肯定感をたたき壊された今となっては、俺は鍛えようなどという発想も持てなかった。だから、老年の父親にさえ腕力で負けるのだ。

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