第17戒 初の国外での依頼

 ━━時を遡ること1時間・・・陽炎は会議の後ギルドで話をしていた。


「ヴィオラ、エンブレイズ王国でいい街はないか?」


「エンブレイズ王国ですか?それなら入ってすぐの所にフレアの街がありますよ」


「そうか、わかった。それと、エンブレイズ王国ってどんなものがあるんだ?」


「エンブレイズ王国でしたら、やっぱり炎と氷の融合実験ですかね。できた人はいないらしいですけど・・・」


「なるほどな・・・。炎とか氷の魔法って耐性がつくのか?」


「普段から炎と氷を扱ってたら着くと思いますよ」


 ヴィオラは陽炎の質問にスラスラ答えてくる。そのため、最後の質問も答えてくれるかと思ったが違った。


「最後に・・・伝説の武器とかないのか?」


 その質問を聞いてヴィオラは顔を青ざめせ慌てだした。


「どうした?」


 陽炎は思わず眉を寄せた。ヴィオラは顔を隠しながら小さい声で言ってきた。


「陽炎さん・・・この世界では伝説の武器のなまえは出してはいけないのです。言ったら恐ろしいことが・・・」


「何が起こるんだ?」


「・・・昔、子供の頃に1度だけ言ったことがあるんですが・・・その時は謎の触手にお尻を叩かれました」


「は?」


「その時は・・・泣いても、謝っても許して貰えませんでした。私は痛すぎて漏らしてしまいました。でも、やめて貰えません。その時に周りに人が沢山いたから何とかなりましたが・・・痛くて恥ずかしくて頭がおかしくなりそうでした」


「は?」


 何言ってんのとしか思えなかった。その時陽炎は少しだけ思った。やっぱりこの世界は普通じゃない。だから、この街に世界を見に行こう。そして、この世界について知らないといけない。そう決意を固めた。


 ━━そして現在陽炎達は国境付近まで来ていた。


「やっぱりいいな。ディリーの魔法でひとっ飛びだ」


「そんな浮かれてないできちんとしてよね。もうすぐ国境よ」


「あぁ、そうだな。お前らは大丈夫なんだよな?」


「私達の心配してる暇あるの?かーくんがいちばん通れないかもしれないのよ」


 そうしてる間に国境検問所まで着いた。


「止まれ!お前達何をしにこの国へ来た?」


「ギルドの依頼だ。俺はアダマンタイトの冒険者だから国外の任務をよく受けるんだ。今回もその一環だ」


「嘘をつくな!証拠はあるのか!?」


「はいこれ」


 そう言って紙を見せた。検問所の人はそれを見ると目を見開いて手のひらを返したように慌ててこっちに来た。


「すみません!どうぞお通りください!」


「助かったよ♪じゃあね♪」


 陽炎は検問所の人に向かって笑顔で手を振った。━━しばらく歩いてルーシャが質問してきた。


「ねぇ、なんで通れたの?それにあの人たちの態度の変わりよう・・・何を見せたの?」


「ギルド・ステイト支部・支部長の緊急依頼手続き書だよ。国外での行動が許可されるんだ」


「へぇ〜、凄いね」


 ━━さらに歩くと街が見えてきた。


「やっと着いたな。ここがフレアの街だ」


 目の前には街の風景が広がっていた。かなり独特な街だ・・・そこらじゅうの岩から火が吹き出している。


「わぁ、凄い!」


 陽炎が唖然としているとテムが横から言ってきた。そうだ!言っておかないと・・・


「ディリー、気をつけておけよ。一応火だからなこれ」


 陽炎は吹き出す火に向かって指さした。


「分かってるわよ。心配しないで陽炎くん」


「なら良いが・・・」


 やはり心配だ。まぁでも、今回ここに来たのはディリーに火に耐性をつけてもらうことだしな。そう思って、前を向いた。


「さて、まずはギルドだ。行くぞ」


 少し歩くと大きな建物があった。恐らくここがギルドだろう。巨大な扉を開けて中に入った。中には多くの冒険者がいた。陽炎達は一目散に受付まで行った。


「ようこそ。ギルドは初めてですか?」


「いや、俺は冒険者だ。依頼を受けて隣の国から来た」


「え?サモナール王国からですか?はぁ、じゃあギルドカード見せて」


 受付の態度が急変した。いやそうに陽炎のギルドカードに目をやると、一瞬驚いたかと思うと手のひらを返したように態度がまた急変した。


「す、す、す、すみません!まさかアダマンタイト級とは知らなかったので・・・」


「かまわないよ。それより依頼を受けていいか?」


「はい!」


 陽炎は出された依頼を見ていた。気づけばギルドの冒険者は皆陽炎の方を向いていた。すると、後ろから方を叩かれた。

 後ろを見ると男が立っていた。


「よお・・・あんたアダマンタイト級なんだってな。ちょっとツラ貸せや」


 しかし、周りがうるさく陽炎は上手く聞き取れない。


「つらかわせいや?俺はそんな変ななまえじゃないぞ」


「違ぇよ!ツラ貸せっつってんだよ!」


「あぁそういう事ね。嫌に決まってるだろ」


 男に向かってそう言い放った。すると、男はブチ切れたのか胸ぐらを掴んで殴ろうとしてきた。しかし、テムが横から来て言った。


「私のかーくんに手を出さないで」


「な!?ふざけるなよ!」


 男は激怒した。陽炎の胸ぐらから手を離すと今度はテムに向かって殴ろうとした。しかし、それはテムには届かなかった。


「お前俺の女に手を出すなよ!」


 鬼のような剣幕の陽炎を見て場の空気が変わった。空気が重くなる。押しつぶされそうな圧力にその場の全員が動けずその場に固まっている。もちろんそれはテムやディリーそしてルーシャも例外ではない。


「ちょっと待って!かーくん、もういいから!」


 そんなテムの言葉は目の前の男によってかき消された。


「俺の女か!良いな!そうやってモテてるアピールできてな!ウザイんだよ!」


 男は背中の剣に手をかけた。陽炎も刀を生成して構えた。男はなんの迷いもなく剣を振りかぶった。


「遅い・・・通用するとでも思ったか?”水流すいりゅう・激流下げきりゅうくだり”」


 陽炎は一瞬で男の両手首、両足首そして首を打った男はそのまま気絶した。


「安心しろ、峰打ちだ。死にはしない」


 その場の全員が固まった。しかし、その中の1人が突然笑いだした。


「なんだ?」


「いや、悪い悪い。まさかこいつを倒すなんてな。こいつはダイヤモンド級の冒険者なんだぜ」


「言ったろ。俺はアダマンタイト級だ。5個したの階級の奴に負けるほど弱くない」


「確かにな!まさかアダマンタイトがこれほどまでとは思ってなかったが凄いな!」


 ギルドの中は陽炎の話で埋め尽くされた。陽炎は無視して依頼を再び見た。すると、受付の女性が話しかけてきた。


「あの、多分ですけど陽炎様がやる依頼は無いかと思うのですが・・・」


「何故だ?」


「冒険者は皆その階級に合ったランクの依頼しかしないんです」


「そうなのか・・・」


 そう思ってもう一度依頼を見直した。すると、おかしな依頼を見つけた。


「これはまさか・・・」


「これですか?これは簡単な調査依頼ですよ。討伐出来るならしてもらっても構いませんけど・・・」


 陽炎は驚いて声も出なかった。


「何故ここにこれが?」


 陽炎は何度も読み直した。依頼人はギルド支部長、緊急依頼で失敗した場合の違約金は発生しない。そして、調査依頼だ・・・。


「あれ?何かありましたか?」


「いやちょっとな・・・前に見たことがあるような依頼だったけど似てるだけだな・・・」


「そうですか。では、受けてみますか?」


 陽炎は考えた。これを受けるということがどんなことか知っているからだ。だが、違ったならそれでいい。もし、予想が当たっていたならば俺はここに帰って来れるか分からない。恐らく・・・


「そう言えば、まだテムとディリーとの結婚式はあげてなかったな。一緒にルーシャもするか?」


「突然何言ってるのよ?確かにまだだけど・・・急いでしなくてもいいのよ」


 3人が不思議そうに言ってくる。しかし、依頼内容を見て察した。そう・・・その依頼内容は、あの女の子と初めて会った時と全く同じ依頼だったのだから。

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