第18戒 死の挑戦状

「どうしましたか?この依頼受けますか?」


 受付の女性は不思議そうに聞いてくる。陽炎は笑顔を作ると依頼の紙を渡した。


「じゃあ、受けます。ちょっと気になりますしね。では、準備が出来次第行くとします」


 そう言ってギルドからでた。


「ねぇ、本当に行くの?危険だよ」


「それでも行ってみないことには分からない」


「そう・・・分かったわ。でも、約束して。生きて帰ってきて。そしたら1度サモナール王国に戻ろう。そしてステイトの街で4人で結婚式をあげよう」


「そうだな。ま、結婚式はいつでも出来るからすぐにしなくてもいいけどな」


 そう言うとテムとディリーが頬を膨らませた。・・・え?俺なんか悪いこと言ったかな・・・そう思ってルーシャに目をやるとルーシャは顔を真っ赤に染めている。


「まさかお前ら、風邪引いたのか?熱があったらどうする。ちょっと脇に手を入れるぞ」


 陽炎が近づくとルーシャはさらに顔を赤くして何かを呟いている。


「おい、何ブツブツ言ってんだ?」


 耳をすまして聞いてみた。


「そんな・・・私とかげくんが結婚・・・恥ずかしいよ・・・でも、なんか嬉しいな・・・」


 ・・・あれ?俺なんか言ったっけ?・・・あ!


「もしかしてあれか?」


 そう言うとルーシャは小さく頷いた。そう、陽炎はテムとディリーとルーシャと結婚素油ると言ったのだ。だが、陽炎が結婚すると言ったのはテムとディリーであって、ルーシャには言っていなかった。そのため、突然の告白になったのだ。


「ま、いっか。・・・てかなんで2人は怒ってんだよ」


『ム〜〜〜』


「もしかして、結婚するって言っておいて結婚式あげなかったこと怒ってる?」


『んっ』


「・・・ごめん。帰っら盛大にやろうな」


 すると2人は顔を明るくした。


「約束だよ!」


「破ったら許さないから!」


「ハイハイ」


 どうやら3人とも機嫌を良くしたらしい。陽炎は優しく微笑むと依頼の確認を始めた。しかし、ギルドの前だったため後ろから冒険者が野次を飛ばしてきて確認所じゃなくなってしまった。


「仕方ない・・・歩きながら話そうか」


「そうだね」


 ━━しばらく歩くと目的地の場所に着いた。場所こそ違えど、前の時とシチュエーションは同じだ。


「さて、どこから来るかな・・・」


 当たりを見回しても何も見つからない。


「今回は違うんじゃない。調べても何も出てこないよ」


「そうだな・・・っ!?」


 振り返ると女がいた。しかし、あの女の子とは違う。すると目の前の女は突然話し出した。


「お前が陽炎か?やはり食いついてきたな」


(知られてるのか。嘘をついても無駄だな)


「何者だ?俺のことを知っているみたいだが・・・」


「そんなのはどうでもいい!私と戦え!」


 そう言うといきなり襲ってきた。


「戦えって言いながら襲ってきたら戦うしかないだろ!」


 2人の武器が衝突する。甲高い音を上げて火花が散った。


「これで終わると思うなよ!」


 その女はそう言うと連撃を放ってきた。


「クッ・・・舐めるな!”拘束こうそく”」


 地面から伸びてきた鎖は女を武器ごと拘束した。


「フッ、やるな。まさか、こんなあっさり捕まるとは」


「褒めてくれてありがとう。それで、何者?」


「私が話すとでも?」


 女はこの状況でも強気になっている。陽炎のことを舐めているのか、はたまた逃げる手段があるのか、まだ分からないがそれでも陽炎が有利なことに変わりはない。


「立場を考えろ。お前は俺の質問にだけ答えればいい。そしたら何もしないでやる」


「断る。・・・お前私を捕まえられたとでも思っているのか?」


「黙れ。俺の質問にだけ答えろと言った。聞けないのならそれ相応の対処をさせてもらう」


「良いだろう。答えてやる」


「いい返事だ・・・。まず、お前は何者だ?何故俺を狙う?」


「私はγだ。仲間からお前のことを聞いてな、戦いたかったのだよ」


「そうか。それで、仲間というのは何人だ?名前と人数、特技など全て教えろ」


「拒否させてもらう!それとそろそろ終わりにさせてもらう!」


「何を言って・・・」


「陽・・・炎・・・」


 後ろにはテムがいた。しかし、何かおかしい。その後ろにはディリーとルーシャがいたが3人ともいつもと様子が違う。


「お前らどうし・・・たぁぁ!何すんだよいきなり!」


 なんとテムが攻撃してきたのだ。テムはいつもと違った喋り方で言ってきた。


「陽炎、死んで」


 その言葉と同時にテムは剣を振りかぶった。・・・いや、剣と言うには少し違う。それは剣の形をした氷だった。


「”拘束こうそく”」


 地面から出てきた鎖は一瞬でテムたちを捕らえた。


「よし・・・っ!?」


 突如背中に痛みを感じた。胸の当たりを見ると穴が空いている。


「な・・・ぜ?」


 陽炎はすぐに後ろを見るとγという女が大きく口を開けていた。


「吹っ飛べ!」


 γはそう叫んだ。すると陽炎に強い衝撃波が襲った。陽炎は耐えきれずに後ろまで吹き飛ばされた。岩にぶつかって止まるとγが近づいて来る音が聞こえる。


「どうだい?私の力は」


「凄まじいね」


「うふふ、ありがとう。お礼に私の力教えてあげる♡私の魔法は言霊魔法ことだままほう。そう、言霊ことだまのγよ。私を捕まえるなら口を最初に塞いで置くべきだったわね。それと、私の武器はこれよ」


 そう言って取り出したのは笛だった。


「それであの剣技か。本当に凄いな」


「褒めてもなんも出ないわよ。それに、あんななまくらじゃダメよ」


「それは同感だな」


「じゃあ、これくらいでさよならね」


 γは笛を口に着けた。恐らく即死系の魔法だろう。γの魔法が何かわからずγ自身に効くのか分からない以上、受ける訳にはいかない。


「まだお別れの時間じゃねぇよ!”雷流らいりゅう轟鳴閃舞ごうめいせんぶ”」


 雷が落ちる音がした。それと同時に陽炎は雷のような速さでその場を離れた。


「さすがね。αがあれだけ言ってた理由が分かったわ。私の言葉を轟音でかき消すなんてね・・・でも、まだまだね!”雷鳥歌らいちょうか”」


 γが笛を吹くと笛の先から小さな黄色い波動が円のように現れた。すると、雷の鳥が現れこっちに向かって飛んできた。


「やばい!”魔法想像まほうそうぞうみず””水蓮すいれん水球みずきゅう””収集ギャザー”」


 γの放った鳥は陽炎の作りだした水の檻に吸い込まれていった。


「お返ししてやるよ!」


 雷を帯びた水の球はγに向かって一直線に飛んで行った。しかし、それはγに届く前に小さく爆発して霧散した。


「”爆散歌ばくさんか”・・・こんなものか・・・。やはり、接近戦に持ち込ませなければお前はこの程度ということだ」


 γは勝ち誇ったかのように語り出した。しかし、陽炎も負けじと強気な態度を見せた。


「陽炎!お前の本気を見せろ!でなければ面白くないだろう!」


「俺は面白さを求めて戦っている訳では無い。・・・だが、良いだろう。少し本気を出してやる」


 陽炎はそう言うと詠唱を始めた。


《邪悪なる闇を断罪する光よ・・・世界を超越せよ》


「”死刑デスペナルティ”」


 周りの空気がピリピリしだした。何かが起ころうとしていることをその場の全員が感じ取った。


「っ!?まさか!・・・3人とも耳を塞げ!その場から離れろ!」


「わ、分かった!」


 陽炎達はその場を直ぐに離れた。γは後ろから着いてこようとしたが拘束で縛ることに成功したため、足止めをすることが出来た。その数秒後、辺りにとてつもない轟音が発生した。


「━━━━!━━!━━━━━━━!」


 γが何か叫んでいる。しかし、聞こえない。すると、違う4つの地点からも轟音が鳴りだした。轟音の真ん中にいたγは目、鼻、口、耳・・・あらゆる場所から血を吹き出し始めた。その余波は陽炎達にも向かってきた。


「クソッ!これはまずい!”グロウアップ・・・”」


 急いで3人を捕まえた陽炎は、流れるように古代樹の中に入っていった。

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