第15戒 脅威と恐怖と破壊をもたらす者

 あの後陽炎達は病院に運び込まれた。幸いテムとディリーは傷が浅かったが深刻なのは陽炎の方だった。背中の傷に加え、右肩から左の脇腹にかけての傷がかなり深かった。そのため、病院に運び込まれた時にはかなり危険な状況だった。


「かーくん・・・なかなか起きないね」


「そうだね・・・もう1週間は経つよ」


「1週間前はあんなにピンピンしてたのに・・・」


 そう確かに陽炎はピンピンしていた。自分で歩いて病院まで行こうとしていたのだ。しかし、街の住民達の静止により運ばれたのだ。


「本当に心配だよ・・・運ばれた途端気を失ったんだから・・・」


 しばらく沈黙が続いた。そんな中部屋に誰か入ってきた。


「まだ起きねぇのか?」


 ガルフだった。ガルフは入ってくるなり椅子に腰掛けた。


「ガルフさん、いつも来てくれてありがとうございます」


「いいぜ別にそんな畏まらなくても」


「いえ、そんな訳にはいきません」


「それならいいが・・・。それにしても、まだ起きないんだな」


「はい。あれから全く起きる気配はありません」


「そうか・・・。・・・早く起きねぇと2人が悲しむぞ」


 ガルフは陽炎の耳元で小さく囁いた。


 ━━陽炎は夢を見ていた。目の前には知らない人かいる。


「・・・ここは、どこだ?」


 陽炎ご見回していると遠くから声が聞こえてきた。


「おい、お前ら!出撃だ!」


(出撃!?何言ってんだ!?)


 すると後ろから女性に話しかけられた。


「よう、調子はどうだ?」


(誰だこいつ!?)


 陽炎は話をしようとした。しかし、声が出ない。しかし、目の前の女性はお構い無しに話を続ける。


「・・・今日は最後の聖戦だ・・・。絶対勝つぞ・・・・・・・・・・・・お前も生きて帰ってこいよ・・・・・・・・・”陰朧かげろう”」


(え?)


 そこで夢は途切れた。目を開けるとそこは病院だった。


「起きた!やったやったぁ!」


「かーくーん!心配したよぉぉぉ!」


「お前ら・・・」


 2人は泣きながら抱きついてきた。


「陽炎、そいつらお前のこと心配してずっとここにいたんだぜ」


「そうだったのか・・・。心配かけたな、2人のおかげで助かったよ。ありがとう」


 そう言って2人の頭を撫でた。2人は気持ちよさそうに目を閉じて頬を赤くした。


「さて、もう少し寝るか」


 そう言って布団を被ったかに思えたが、布団は瞬く間に取り上げられた。


「寝るかじゃないよ!起きて起きて!遊びに行こうよ!」


「あのなぁ、今起きたばかりだぞ。俺病み上がりなんだぞ」


「む〜!」


 テムとディリーは2人揃って頬を膨らませた。


「冗談だよ。行こっか」


 2人は顔を明るくした。ベットから降りると上着を手に取った。


「あ、俺の上着がズタズタだ!ふざけんなよ!」


 上着を見るとズタズタだった。確かに切られはしたが、明らかに切られた傷とは違う傷があった。こうなった理由も予想が着くので何も言わないことにした。


「まぁいいや、ついでに買いに行こうぜ」


 そう言ってドアを開けると人が立っていた。敵か!?と思ったが違った。


「陽炎さん、なぜベットから降りているのですか?」


「え?今から外に行こうと思ってるからだよ。てか、あんた誰?」


「私は、この病院の医者です。あなたの傷は深いのですから安静にしておいて下さい」


 そう言ってベットまで陽炎を連れていき寝かした。


「て言うことで、行けないらしい」


 すると2人が地面に手を付き落ち込んだ。陽炎はその様子を見て笑ってしまった。それにつられて2人も笑いだした。


 ━━1人の男が立っていた。男は背中の剣を振りかぶった。それだけで家は破壊された。


「さて、次はこの街だ。ここを壊せば王都はおれのものだ・・・」


 するとそこに魔法が飛んできた。しかし、全て剣手弾かれた。その後ろからは男が歩いてきている。


「やはりあなたでしたか・・・」


「フッ、またお前か・・・何度も言っているだろ、俺の邪魔をするなって」


「そう言われましてもねぇ、街を壊す以上防がせてもらいますよ」


「無駄だ、この街は壊す。その後王都も潰す」


「そうなると、尚更この街は守らないといけません。なんせ、王都を守る最後の砦なんですから」


「それなら・・・足掻いてみろ”・・・”」


 男は剣を振るった。その一撃は地面をえぐり地面を大きく揺らした。その余波は陽炎のいる街まで届いた。


 ━━陽炎達は慌てた。なぜなら、地震が起きたからだ。かなり強い地震だったのだろう。部屋の中はめちゃくちゃになった。しばらくすると揺れは収まった。


「かなり強かったな」


「そうね。本当に珍しいわ」


 どうやらこの世界で地震は珍しいらしい。ディリーは部屋の角でうずくまっている。


「大丈夫か?」


 陽炎はディリーの近くに行った。ディリーがただ地震が怖くてうずくまっているのか、そう思いながら話をかけようとした。しかし、違った・・・


「街が・・・王都が壊される・・・」


 ディリーから衝撃の言葉が発せられた。


「どういうことだディリー!?」


「陽炎くん!危険だよ!王都が壊される・・・そしたらこの街も・・・」


「お前、こんな時に・・・」


 冗談言うなよ・・・そう思ったが、ある考えが頭をよぎった。そう、ディリーはドリューアスなのだ。当然地震がどこで起きたか?どうして起きたのか?これからどうなるのか?全てがわかる訳では無いのかもしれないが、分からないことは無いはずだ。


「ディリー!説明してくれ!何が起こっている!?てか王都ってなんだ!?」


 その時、扉をノックする音が聞こえた。


「誰だ!?」


「私です!陽炎さん、テムさん、ディリーさん今すぐ来てください!緊急会議です!」


「どういうことだ!?ヴィオラ、何が起こっている!?」


「ギルドに来てください!そこで説明します!」


 3人はギルドに向かった。ギルドの中に入るとルーシャがいた。3人が席に着くと会議が始まった。


「先ほどですが連絡が入りました。単刀直入に言います。・・・王都が壊滅しました」


「な!?」


「嘘だろ!?」


 他の冒険者達は口々に言っている。


「本当です。これは、十魔の1人であるタングストが体験したことですが、王都に行く道の前にある最後の砦の街、ロックウォールに男が現れたらしいです。その男はとてつもなくでかい剣を持っていたそうで、一振で家を容易く破壊したそうです」


「っ!?」


 陽炎は思わず驚いてしまった。自分を切った男と人相が同じだったのだ。


「陽炎さん、どうしましたか?」


「いや、なんでもない・・・話を続けてくれ」


「はい。その男ですが、タングストが戦闘を行ったそうです。しかし、その男には魔法は通用しなかったようです。さらに、その男の目が赤く光ったかと思えば気づいた時には右腕が切断されていて、そこから発せられた斬撃と地震によって王城は破壊されました」


「一撃でか!?」


 冒険者達はざわめき出した。


「静かにしてください!今ここで騒いでも何も起きません!今、この国では厳重な警戒態勢が敷かれています。身の安全を守る行動を優先してください!これで会議は・・・」


「待ってください!」


 突如後ろから声が聞こえた。振り向くとルーシャがいた。


「なんですか?ルーシャさん」


「私は実際にその男を見ました。さらに、かげくんは実際に戦って話をしています。その話を聞くべきです!」


「本当ですか!?本当に戦ったのですか!?」


 ヴィオラは驚いて聞いてきた。冒険者達もこっちを見ている。


「そいつと同じ人かは知らんが戦った。だが、戦ったと言っても一瞬だぞ」


「それでもいいです!参考にさせてください!」


 ヴィオラはそう言ってこっちを向いてきた。陽炎は静かに話し出した。

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