第14戒 決着

 陽炎は相手と向き合った。刀は刃先が根元から折れてしまっている。もう使い物にはならないだろう。そんな思いで投げ捨てた。


「フハハハハッ!さすがのお前でもぉ、武器がなけりゃぁただの雑魚だぁ!」


 確かに今は武器がない。恐らくまた作っても壊されるだろう。陽炎は生成するをやめた。


「いい判断だなぁ!どうせ作っても魔力の無駄だぁ!俺が壊すからなぁ!」


「無駄かどうかわまだわからんぞ”グロウアップ・エンシェントツリー”」


 陽炎は古代樹を生やした。しかし相手はうろたえることなくこっちを見ている。


「またその技かぁ。知ってるぜぇ、捉えてた小娘の枷を切った技だろぉ」


 どうやら全て見られていたらしい。自分が今からすると思われる技は多分効かない。だが、それが違ったら・・・その先はまだ見えない、分からない・・・


「自分の実力を過信するのはいいが、相手の実力をみ誤らない方が良いぞ」


「あぁん?」


「お前は俺が今からする技を一つに決めつけた。バカか!俺が一つしか技がないわけないだろ!耄碌してんだよお前は!」


「俺は耄碌なんてしてねぇ!弱いくせに俺に指図するんじゃねぇぇぇぇぇぇ!!!”海太刀流抜刀術みたちりゅうばっとうじゅつ・火異裂かいれつ”」


「指図なんかしてねぇよ!それに、古代樹だからって火に弱いと思うなよ!”樹木呪戒じゅもくじゅかい・葉極はごくの牢ろう”」


 陽炎の生やした古代樹は相手の荒れ狂う炎を相手ごと包み込んだ。


「やったの?」


「いやまだだ・・・テム、結界を張ってろ」


 そう言って再び刀を作り出した。


「え?なんで?」


「いいから!早く!」


「は、はい!”ファーストウォール”」


「バカ!そんなのじゃダメだ!」


 陽炎は急いでテムとディリーの前に出た。そして庇うように抱きついた。


海太刀流抜刀術みたちりゅうばっとうじゅつ回裂かいれつ”」


 相手の攻撃が飛んできた。円を描いた斬撃だった。それは、陽炎の背中をザックリ切り裂いた。


「かーくん!」


「陽炎くん!」


 陽炎はテムにもたれ掛かるように倒れた。横からディリーが近寄って来たが、何も出来ない。


「ディリー、回復魔法とかないの?」


「ない・・・。ごめんなさい・・・」


「私こそごめんなさい!かーくんは大丈夫だと思って回復魔法は覚えなかったの・・・」


 2人は泣きながら謝っている。しかしそんなことはつゆ知らず、相手は剣をさやに収めた。次の抜刀術が来る。


「もう、ダメだ・・・かーくん・・・」


「まだ・・・諦めるなよな・・・” 樹木呪戒じゅもくじゅかい木霊こだましずく”」


 古代樹から一滴の雫が陽炎の傷口に落ちた。すると、陽炎の傷が綺麗に治った。


「かーくん!大丈夫なの!?」


「まぁまぁだな。・・・あのなぁ、お前ら俺が回復の1つも出来ないと思ったのか?」


『うん』


 2人は揃って言ってきた。こんなに信頼がないのか・・・。


「まぁいい、やっぱ離れてろ。お前らがいると思うように戦えない」


「何よその言い方、私達も戦うわ」


「じゃあ援護しろ。危なくなったらいち早く逃げろよ」


『りょーかい!』


「この俺を舐めるなぁ!”海太刀流抜刀術みたちりゅうばっとうじゅつ灰裂かいれつ”」


「その技はもう見破っている!”水流すいりゅう水神みかみ太刀たち”」


 陽炎は相手の技を受け流し間合いを詰めた。そして、すぐに切り込んだ。その攻撃は受け止められたが体制を崩すことが出来た。


「怒りで冷静な判断が出来なくなっているな!テム、ディリー!やれ!」


『わかったわ!』


「”ファイアースティンガー”」


「”ウインドブースト”」


 テムの炎の槍はディリーの風に押されて強い炎となった。その炎は相手を火傷させるくらいには燃やした。


「よくやったお前らぁ!」


 陽炎は倒れ込んだ相手の上に飛び、構えた。


(あいつらはよくやってくれた。なら、俺は俺のやるべき事をやる・・・)


「俺の勝ちだ!”陽流ようりゅう三十七式さんじゅうななしき落陽らくよう絶天ぜってん”」


 回転しながら切り裂く一閃。重力、さらに回転することで発生する遠心力を加えることで鉄すらも容易に切り裂くことが出来る。さらに、回転することでその一閃は神速となる!


「ギャアァァァァァ!」


 断末魔とともに相手は体を両断された。両断された体は断面から高熱の火が発生し灰に変えていく。陽炎は刀に着いた血を払うとさやに収めた。


「フッ・・・俺の勝ちだ」


 そしてその言葉を聞き届け相手は灰となって消えた。


「かーくん!」


 遠くから声が聞こえる。テムがこっちに向かってきている。ディリーがいないな。どこにいるか探すと後ろから抱きつかれた。


「お疲れ様。もぅ心配したんだから♡」


 ディリーが後ろから抱きついていた。


「悪い悪い。でも、お前たちのおかげで助かったよ」


「もぅ♡そんなこと言ってもなんにも出ないんだから♡」


「かーくん!」


 テムは前から飛びついてきた。


「かーくん!心配したよぉ!」


「だから悪いって言ってるだろ。俺だって心配したんだぞ」


 2人は泣きながら抱きついている。ふと、テムが横を見た。


「さっきの男はどうなったの?」


「あいつか?あいつは・・・」


 陽炎は急に黙ってしまった。テムが覚悟は出来ていると言わんばかりにうなづいた。


「あいつは死んだ。俺が殺したよ」


「・・・やっぱり・・・」


「お前たちが嫌な顔するのも分かるよ。でも、俺は執行者だ。これが俺の仕事でもある」


 陽炎が説得するように言っていると、テムが言ってきた。


「何言ってるの?別に責めてないよ。だって誇らしいもん。こんな悪いやつを倒したんだよ」


「そういうもんなのか?」


「そうよ。かーくんってなんか普通じゃないよね。どこから来たの?」


「いきなりだな。・・・そうだなぁ、とにかく平和でゆとりのある所かな。和の国って言うんだぜ」


「ワノクニ・・・?なんだか聞いたことあるわ。初代勇者が言っていた気がする」


「へぇ〜、勇者がねぇ」


(絶対テンプレだろ)


「今度行ってみようよ。勇者が作った国」


「それいいな。どんなところ何だ?」


「えっとね、北にあるから【大北魔導連盟国】って言うんだよ」


 そう言って北の方に指をさした。するとディリーが後ろから話に入ってきた。


「魔導連盟に行くの?それなら行きたいところがあるんだけど」


「まだ行くとは言ってねぇよ。まぁでも、行けたらいいな。どんなとこなんだ?」


「えっとね、元々あの国は3つの小さい国から出来ていたの。ずば抜けた魔法知識を持つノウィン皇国、圧倒的な魔力量を持つストージー王国、超絶的な魔法干渉力を持つヴァース国の3つを勇者が合併させてできた国なの」


「ね、すごいでしょ!陽炎くんもそう思うよね!」


「なんでお前がそんなに推してくるんだよ」


 3人はそんな平和な会話をして笑っていた。すると、後ろから誰かに話しかけられた。


「あ?誰だ?」


 振り返ると、そこに居たのは男だった。その男は背中にとてつもなくでかい剣を背負っている。男は何かを言っている。しかし、声が小さく聞き取れない。すると、男が顔を近づけてきた。


「だから、何言ってんのかわかんねぇよ」


 そう言って立ち上がると不意に痛みを感じた。


「え?」


 気がつけば陽炎の右肩から左の脇腹にかけて深く切られていた。陽炎は咄嗟にその場を離れた。目の前の男は血の着いた剣をさやに収めるとその場を去ってしまった。


「一体何だったんだ・・・」


「かーくん!」


「陽炎くん、大丈夫!?誰なのあの人!?」


「いや、知らねぇ・・・でも、敵ってことだけはわかったな」


 ━━一方その頃、女の子はまだ街の外の平原にいた。そこに誰か歩いてきた。


「やぁ、α君・・・どうだったかい?陽炎という男は」


 その問いにαと呼ばれる男は答えた。


「俺の敵では無いな。だが、もしあのまま放置していれば必ず我らの脅威となる」


「ハハハッ、確かにね」


 女の子の見ている方に目をやるとαと呼ばれる男の大きな剣は、粉々に粉砕されていた。


「まさかあの一瞬でそこまでやるとはね・・・なかなか面白いじゃない」


「あぁ、そうだな・・・」


 女の子達は陽炎のいる街を見つめ不敵に笑うと虚空の中に消えていった。

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