第13戒 その勝負は突然に

 陽炎達はギルドの食堂で話をしていた。


「・・・て言うことがあったんだ」


 テムとディリーは暗い顔で話を聞いている。やはり、あの女の子のせいで安心できないのか。そう思っていたが違った。ディリーは顔を暗くすると目元を隠しながら言ってきた。


「陽炎くん・・・さっき使ったやつって私の真似したの?」


「急に何言ってんだ?」


「いいから答えて・・・」


「え〜と、まぁ、真似したな」


 それを言うと完全に俯いてしまった。陽炎が不思議に思っていると急に立ち上がり指を指して大声で言ってきた。


「私のアイデンティティを取らないでよ!」


「はぁ?」


「せっかくのアイデンティティだったのに!」


 突拍子もないその言葉にその場は凍りついた。しかし、何故かディリーは泣いている。


「なぁ、今言うか、それ?」


 なんの躊躇もなく発せられた言葉にさらに凍りついた。するとディリーは顔を真っ赤にして膨らませると怒って泣きながら出ていってしまった。・・・が、パーティ集合で連れ戻した。


「同じ手が2回も通じるとはおもうなよ。・・・あのな、あの時は仕方がなかったんだよ。2人とも気絶してたから」


「そんなのわかってるよ!」


(・・・え〜・・・)


「ディリー、今謝ったら許すよ」


「何よ急に・・・それはこっちの・・・」


「はぁ・・・”おしおき開始だ”」


「あ、ちょっと待って・・・」


 ディリーが言葉を発する前に陽炎はディリーを領域テリトリーに捕らえた。


「ディリー、むち打ちの刑だ。これをつけな」


 そう言って差し出したのは前にも使ったボールのようなものだ。


「え!?ちょっと待って、謝るから!ごめんなさい!空気読めなくてごめんなさい!」


 すると領域テリトリーは解けた。


「なんだ、これ付けて黙らせようと思ったのに」


「なんだじゃないよ!」


「2人とも話を戻すがいいか?」


「構わないよ」


 ガルフの問いかけに落ち着いて答えた。


「じゃあその女の子がまたでてきたってことか?」


「そういう訳では無いな。その女の子が中心になって周りで何かが怒っているんだ。今回もその1つだな」


「なるほどな・・・ところで嬢ちゃん達は名前なんて言うんだ?」


「私ですか?私はルーシャ・イルク。そしてこっちが私の父のファーニン・イルク。よろしくお願いします」


「よろしく。それでなんだけど、ルーシャが捕まった時の話出来る?」


「はい・・・」


 ━━それからルーシャの話は続いた。自分が突然連れ去られたこと、監禁されて酷いことをされたこと、ファーニンが陽炎達に気づかせるように隠し通路を開けておいたこと・・・。どの話も想像を超えた残酷な話だった。


「なるほどな・・・。しかし、そうなると何故連れ去ったのかがわからん」


「そうだな。連れ去ったのが陽炎と出会う前だとすると、陽炎は関係無さそうだな」


 皆考え込んでしまった。しばらく沈黙が続いたが何も思い浮かばない。そこで陽炎は口を開いた。


「ま、考えても分からねぇんだから後から調べりゃいいだろ。今はまず目の前のことに集中だ」


「うん!」


「そうだね!」


 テムとディリーは勢いある返事をした。それと同時にギルドに1人男が入ってきた。


「ようこそ、冒険者ギルドへ。今日は何か御用ですか?」


 しかし、男は何も答えない。ずっと陽炎達を見ている。しばらく見つめるとギルドから出ていってしまった。


「なんだったんでしょう?依頼を受ける訳でもなく見るだけなんて」


「しかも、かーくんをずっと見ていたよね?」


 しかし、陽炎は答えない。


「かーくんどうしたの?」


 それでも陽炎は答えない。顔を近づけると何か言っている。


「なんで、なんであいつがここにいるんだ?あいつも俺と同じで・・・」


「かーくん!もう、返事してよ!」


 そこでハッとした。すぐにテムを見て優しく微笑んだ。まるで何かを隠すように。


「ごめんごめん、昔いた国の人に似た人がいたんだ。人違いだったけどね」


 陽炎の言ったことにテムは疑いながらも返事を返した。


「やることが増えたな・・・。よし、これから何かあったらその時対処する。それでいいな?」


「意義は無いな」


『問題ないで〜す!』


 ガルフ以外の皆は声を合わせて言ってきた。それを聞いて陽炎はうっかり吹き出してしまった。そして・・・


(お前たちのこの笑顔は必ず守りきる。絶対に・・・)


 そう心の中で誓った。


 ━━━━━━━━━━━━一方、街の外の平原では・・・


「おい、来てやったぞぉ。出てくこいよぉ」


 謎の男は誰もいない方を向いてそう言った。すると空間が揺らぎ始めた。そして女の子が突然現れた。


「それで話ってなんだぁ?俺はギルドに殺しがいのあるやつを見つけて疼いてるんだよぉ」


「多分君が殺したいやつと私が危険視しているやつは同一人物だね」


「どういうことだぁ?」


「悪いが君の様子は監視させてもらった。すると君の見ていた男は私が殺し損ねた男だ」


「フハハハハッ!それで俺に殺してこいと言うわけかぁ!面白いぃ!行ってやるぜぇ!」


「話が早くて助かるよ。さ、行っておいで」


「へっ!言われなくてもなぁ、行ってやるぜぇ!」


 陽炎達に危機が迫っていた。しかし、陽炎達はそれに気づくことは無かった。


 ━━━━━━━━━━━━━━━陽炎達はガルフと別れギルドで依頼を探していた。ルーシャは自分から一緒にいたいと言ったので一緒にいるが、ファーニンは仕事があると帰ってしまった。


「何か依頼を探していますか?」


「うん。でもなんか今日は受けるべきじゃない気がするんだよな」


 陽炎が依頼を見ていると古代樹が反応した。


「どうしました?」


 そんな陽炎の様子を見たヴィオラが心配して聞いてきた。


「まずい・・・ヴィオラ、この街の住民ひなんさせてくれ」


「え?なんでですか?」


「なんででもだ。とにかく今は早く逃げさせた方がいい」


「ん〜、わかりましたけど遊びだったら許しませんよ」


 陽炎は急いで3人がいる場所まで戻った。そこで、古代樹が反応したことを言った。


「・・・とまぁ、そんなとこだ。おれは行くがお前たちはどうする?」


「行くに決まってんじゃん!」


「行かないでどうすんのよ!」


「あ、あの私も行きます!」


 陽炎は頷くと急いで街の入口まで走った。入口に着くとまだ、誰もいなかった。


「良かった。間に合った・・・っ!?」


 しかし、すぐに斬撃が飛んできた。その斬撃は門を2つに裂いてしまった。


「やぁっと来たかぁ!待ちくたびれたぜぇ!」


「・・・何者?・・・」


「俺かぁ?俺はなぁ・・・お前を殺すものだよぉ!」


 男はそう叫ぶと一瞬にして消えてしまった。気がつくと、一気に間合いを詰められていた。


「!?」


「おせぇよぉ!”海太刀流抜刀術みたちりゅうばっとうじゅつ回裂かいれつ”」


「”生成せいせい””加工かこう”」


 突然の攻撃だったが、すぐに刀を生成して受け流した。


「危ないな。不意打ちか?汚いな」


「なんとでも言えぇ。俺はどんな手を使っても勝つってだけだぁ。悪いかぁ?」


「いや、いいともうぞ。俺も同じだからな」


 すると相手の後ろからディリーが攻撃した。その攻撃はもろに直撃した。大抵の人はこれを喰らえば一溜りもない。当然戦闘は不能となるはずだが・・・


「まさか、これが聞いてないとはな・・・」


「これが攻撃かぁ?反吐が出るんだよぉ!”海太刀流抜刀術みたちりゅうばっとうじゅつ開裂かいれつ”」


 さらに攻撃を繰り出してきた。先程の回転からの一閃と違い、縦に切り裂く一閃のようだ。


「舐めるなよ。”風流ふうりゅう風影刃ふうえいじん”」


 お互いの技がぶつかる。すぐさま2人は距離を取った。陽炎は腕に切り傷が、相手には頬に切り傷が出来た。


「やるなぁ!俺の斬撃を止めてからの二弾攻撃。一つ目は遅く、二つめは早くすることで緩急をつけ見えない斬撃を作り出す。さすがあのドラゴンを倒した男だぁ!」


「お前の方もなかなかやるよ。ここまで俺の技が見破られるとは思ってもなかったよ」


「へ、そーかいそーかい・・・じゃあ俺の技も見破ってみるんだなぁ!”海太刀流抜刀術みたちりゅうばっとうじゅつ壊裂かいれつ”」


 陽炎はその技を刀で弾いた。すると・・・


「な!?刀が・・・」


 陽炎の刀が壊れていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る