第10戒 次元の脅威

 戦いは熾烈を極めた。砂煙の中からは炎や雷、水などが巻かれている。よく見ると、砂煙の中は空間が歪んでいる。


「”雷流らいりゅう五雷撃ごらいげき””炎流えんりゅう紅花べにばな””水流すいりゅう・・・”」


「”壊空かいくう””時烈じれつ””波動はどう・・・”」


 刀がぶつかる音が響く。甲高い金属音だ。2人の攻撃は色鮮やかなエフィクトをまとってぶつかり合っている。


「この一撃に魂を込める!”霊光れいこう幻惑げんわく修羅しゅら”」


「っ!?」


 その人は攻撃を躱したかに思えたが、少しかすりフードを切り裂いた。その中からは、女の子の顔が見えた。


「やってくれたわね・・・」


「まさか女の子だったなんてな・・・そっちの方が可愛いぜ!」


「死ね!」


 女の子はそう叫ぶと何か呟き出した。


「何を言って・・・まさか!?」


《この世界の時空を歪ませ世界の覇者となる絶望を巻き散らせ》


 空気がピリピリしだした。何か大技が来る予兆だと思った。その予想は的中した。


「”召喚サモン次元龍ディメンションドラゴン”」


 空間が光に包まれた。突如陽炎の体が宙に浮いた。気がついたら背中に痛みが走った。それから光が収まった。そこには絶望しか無かった。目の前には巨大なドラゴンがこちらを向いている。


「な!?ドラゴン・・・だと!」


「私はここらでおさらばするわ。それじゃあ頑張ってね」


「おい待て!逃げるな!」


 そんな叫びも虚しく女の子は空間が揺らいだかと思うとすぐに消えてしまった。


「クソッ!こんなのどうしろって・・・うぉっ!あぶねぇ!」


 ドラゴンはお構い無しに攻撃してくる。どうやら陽炎達を敵と認識したらしい。雄叫びを上げると爪で攻撃してきた。


「”火炎弾かえんだん”」


 しかし、あまり意味はなかった。ドラゴンの爪に弾かれた陽炎は100m先の岩まで飛ばされ叩きつけられた。


「大丈夫!?」


 テムが近づいてきた。しかし、何故か視界がぼやける。陽炎はそのままテムにもたれ掛かるように気絶してしまった。


「かーくん・・・お疲れ様。今度は私達に任せて」


 テムはそう言って陽炎の額にキスをした。するとディリーが近づいてきた。


「陽炎くん大丈夫?」


「うん。何とか受身はとったみたい。でも今は気絶している・・・」


「そう・・・ねぇどうする?ドラゴン・・・私達で倒せるかな?」


「わかんないよ。でも、かーくんが起きてドラゴン倒してたら褒めてくれるんじゃないかな?」


「きっと褒めてくれるよ。それまで、私達も戦おうよ」


「うん!」


 2人は頷くとドラゴンに向かって走り出した。2人は同時に魔法を連発した。しかし、あまり効果は無い。攻撃が来れば躱す。そんなことをずっと繰り返した。しかし、ドラゴンは倒れなかった。それどころかピンピンしている。


「はぁはぁ・・・全然・・・倒れないよ・・・」


「もぅ魔力がないよ・・・」


 ドラゴンは2人を見つめている。すると突然ドラゴンが息を大きく吸い込んだ。そして、波動のような息吹を出てきた。


「キャッ!」


「アァ!」


 2人は遠くに飛ばされてしまった。体が動かない。遠のく意識の中体を起こすと目の前にはドラゴンがいた。既にもう1発打とうとしている。


「ごめんね・・・もうダメだよ・・・」


「テム・・・。諦めちゃダメだよ。泣いちゃダメだよ」


「ディリーだって、泣いてるよ」


 2人は諦めたかのように立ち尽くした。そんなことはお構い無しにドラゴンは息吹を放った。2人は目を瞑った。しかし、どれだけ待っても息吹は当たらない。うっすら目を開けると目の前には陽炎がたっていた。


「間に合ったな」


「かーくん!?」


「陽炎くん!?」


 なんと陽炎が息吹を結界のようなもので護っている。


「くっ、やばい・・・領域テリトリーがもたねぇ!」


 どうやらここは陽炎の領域テリトリーの中のようだ。そういえば領域内だと生成スピードが上がると言っていた気がする・・・するとドラゴンの攻撃が止んだ。


「大丈夫!?早く逃げないと・・・」


「待て!もう1発違うやつが来る!」


 宣言通りもう1発打ってきた。しかも、先程とは違って空間が揺らいでいる。


「こいつの正体がわかった!こいつは次元龍ディメンションドラゴン。次元の狭間に生息する龍だ!今から”次元じげん息吹いぶき”が来る!備えろ!」


 そう言って大量の結界を張った。そして、直撃した。空間が揺らいでいる。結界がなければ一瞬で消し飛んでいただろう。そんな勢いで息吹は向かってきた。


「ウォォォォォォォォォォラァ!!!」


 大声と共に息吹を横に逸らした。息吹は岩山にぶつかると岩が虚空の中に吸い込まれて行った。


「な!?これは本当にやばい・・・」


 意識が朦朧とする。どうやら最初の攻撃で体内の血液が足りなくなっているみたいだ。陽炎はドラゴンを見つめた。すると横からテムが話してきた。


次元龍ディメンションドラゴンだっけ・・・なんでわかったの?」


「こいつを召喚したやつが言ってた。それに、俺の前いた国の話でドラゴンについて書かれててなそこに書いてあった・・・と言うより俺が考えた・・・」


 陽炎は誰にも聞こえない声で呟いた。


「じゃあ倒し方とかは・・・」


 陽炎は優しくテムに微笑んだ。


「あるよ。でも、そのためにはこのドラゴンの行動を止めないといけない」


「こんな大きなのを・・・」


「ねぇ陽炎くん私が少し抑えようか?」


「いや、やめといた方いがいい」


「どうして?」


「木ごとお前を吸い込むぞ」


「それならどうするの?」


 その言葉を聞いて陽炎は黙った。どうやらドラゴンはこちらのでかたをみているらしい。しばしの沈黙の後陽炎は口を開いた。


「もしかしたら拘束しないでもできるかもな」


 それを聞いて2人はハッとした。


「確かに拘束するとは書いてなかったね」


「ということは陽炎くん・・・」


「そういうことだ。出来るってことだ」


 2人は頷くと少し後ろに下がった。そして陽炎は詠唱を始めた。


《邪悪なる闇を断罪する光よ・・・世界を超越せよ》


「”死刑デスペナルティ”」


 陽炎のその言葉で空気が揺らいだ。━━しかし何も起こらなかった。


「え!?何も起こらな・・・い・・・」


 陽炎はハッとした。なぜなら目の前にはドラゴンがいたからだ。そのドラゴンは大きく息を吸い込むと全力で息吹を放った。しかし、その息吹は陽炎に当たることなくドラゴンの目の前に集まりだした。集まり終わるとその球体は爆発した。


「まずい!2人とも後ろに隠れろ!”領域テリトリー””多重防御結界たじゅうぼうぎょけっかい”」


 陽炎の目の前には無数の結界が現れた。それはパリィと音を立てながら割れていった。━━爆発が病むとそこには大きなクレーターが出来た。ドラゴンは上半分が消し飛んでいる。陽炎はギリギリ残った1枚の結界で何とか耐えたがかなり傷をおっている。


「かーくん!大丈夫!?」


「なんとかな・・・それよりドラゴンはどうした?」


「陽炎くん今はそれどころじゃないよ・・・。ドラゴンなら今肺になってるよ。私達の勝ちだよ!」


「ハハッ。それは・・・良かっ・・・た」


 そして陽炎は意識を失った。それを見て2人は話だした。


「・・・結局助けられちゃったね・・・」


「そう・・・だね」


「いつもかーくんに迷惑かけてばかりだよ・・・」


「ん、そうだね」


「かーくん、いつも私達に気を使ってるよね」


「そうだね・・・。私達のところに敵が行かないようにしてるよね」


「うん」


「嬉しいけど・・・心配だよ」


 よく見ると2人の目は潤っている。そして涙を泣かして泣き出した。涙は寝ている陽炎に落ちている。


「ありがとう!ありがとう!かーくんのおかげで助かったよ!」


「陽炎くん、ありがとう!助けてくれた時嬉しかったよ!」


 2人は泣きながら抱きついた。するとそこで奇跡的に陽炎が起きた。


「かーくん!」


「陽炎くん!」


「お前ら・・・泣くなよ。可愛い顔が台無しだぞ」


 そう言って頭を撫でた。しかし2人は泣き止むことなく陽炎の胸に顔を埋めた。陽炎はしばらくそこで泣き止むのを待つことにした。

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