第9戒 苦戦!
陽炎はテムとディリーにマウントを取られる形で倒れている。2人は涙を流しながら怒っている。
「あのなぁ・・・危ないだろ」
陽炎はいつものように言った。しかし、2人は何も言わない。
「・・・あ〜もう悪かったよ。こんなことになるとか思わなかったんだよ」
やはり、何も言わない。陽炎は分からなくなった。ずっと泣いて怒っているテムとディリーを見ていてどんな言葉をかけるべきかが分からなくなった。顔にはたくさんのテムの涙が落ちてくる。すると、何かが聞こえた。よく聞くとテムが何か言っている。
「・・・う・・・ない」
「・・・そうじゃないです・・・。私が言いたいことはそうじゃないです!」
「え?」
「もう!陽炎さん鈍感すぎです!」
何となく察した。しかし、それを言うことはかなり危険である。それでも、テムは涙を流しながら言ってきた。
「私は!陽炎さんのことが大好きです!全部好きです!優しいところも、厳しいところも全部大好きです!好きが止まらないんです!」
やはりそうだった。陽炎はわかってるよと言った顔で見守っている。
「私、陽炎さんが他の女の子達と遊んでいたら悲しくて胸が締められてなんだか辛いんです!」
するとディリーも言ってきた。
「私も大好き!陽炎くんを見てると好きが止まらないの!初めは他の人と同じだと思った。でも今回はちがった。私を倒そうとしなかった!そしたら、だんだん胸が暑くなって、ずっとみつめていたいの!」
・・・こんなことを言われたのは初めてだった。日本にいた頃はこういうのはすぐにニュースに取り上げられる。だからしなかったし、言われなかった。本当は少しだけだがわかっていた。だから、もう心に決めてある。迷うことは無い。
「・・・そうか・・・、そんなに俺の事を思っていてくれたのか。それなら俺からも1つ言わせてくれ」
「・・・うん」
「テム、ディリー、俺もお前たちのこと大好きだよ。だから、これからも一緒に旅して、楽しいことして過ごそう。もし良かったら、俺と一緒に着いてきてくれ!そして、俺と結婚してくれ!」
陽炎は目を見て言った。流石に2人もこの答えは予想していなかったらしい。付き合ってくれ程度と思ってたが結婚してくれと言われ2人は一瞬黙ったがすぐに笑顔になるとはっきりと
『うん!』
そう言って陽炎とキスをした。それも、2人同時に・・・━━陽炎はギルドの前に戻ってきた。そして、改めて自分が何を言ったのか理解し、後悔した。
(俺何言ってんだろ・・・出会って間もないのに結婚してくれって1足飛びすぎるだろ)
そんな考えは見ず知らずでテムが抱きついてきた。そんな様子を見て陽炎は思った。
(まぁいっか・・・テムとディリーが喜んでいるのならそれで良い)
「ん?何か言った?」
「いいや、なんでもないよ」
そして、夜が明けた。陽炎は朝早くからギルドに来ていた。
「・・・でさ、こういうことがあったんだ」
「そんなことが!?ふふっ、陽炎さんも隅に置けないですね」
そんなことを言って笑っている。
「それで、今日は自慢しに来たわけじゃないんですよね?」
「そうだったな。昨日の依頼についてだが、少し聞いてみたんだけどなどうやら国境付近によく出没すると聞いたんだが相手が他国の場合どうするべきなんだ?」
「う〜ん・・・その時は・・・捕縛してもらって結構です。戦闘中に国境を越えた場合もクエスト中なら大丈夫ですし・・・」
「ちょっと待て、国境は超えたらダメなのか?」
「はい。基本的にダメですね。密入国者と間違われます」
「厳しいな。どうやって他国に入国するんだ?」
「他国に入国するには国境検問所で検問してもらったら入れますよ。あ、でも陽炎さんはあまり行かない方が良いかと・・・」
「何故だ?」
「陽炎さんの職業ってちょっと特別じゃないですか。だから、危険人物に認定されて暗殺されたり、他国の戦力として引き抜かれたりするかもしれないんですよね」
「物騒だな。暗殺はどうにかなるが、引き抜きって断れないのか?」
「断ったら殺されるんですよ。国王の命令が聞けないのかー!って言われて」
「理不尽だな。気をつけるよ」
ヴィオラと話しているとテムがギルドに入ってきた。
「かーくん!行くよ〜!」
「あ、呼ばれたんで行ってきます」
「気をつけて。確認ですけど、危なかったらすぐに逃げてください。依頼失敗の違約金等は発生しないので無理して達成しないようにしてください」
「了解」
そう言って陽炎はギルドから出ていった。ギルドの中では冒険者がざわめき出した。
「聞いたか?今の。かーくんだってよお熱いね!本当に!」
「つい最近来たばっかりだろ!俺のテムちゃんを取りやがって!」
次々に陽炎に対しての暴言が増えて言った。
「はいはい!そこまでにするの!あの人には何かそういう魅力があるんでしょ!」
その一言で冒険者は黙った。そして、みんな思った。テムとディリーがドMなだけじゃねって・・・一方その頃陽炎はと言うともう国境付近まで来ていた。
「まさかディリーに移動魔法が使えるなんて」
「陽炎くんが言ったから思い出しただけだよ」
「なんか言ったっけ?」
「ほら、瞬間移動がしたいって。だから、私の能力に木の中を移動できるやつがあったのを思い出したの」
「あぁ、あれね」
「それはそうとかーくん。言ってた場所がここだよ」
しかし、周りを見渡しても誰もいない。
「岩陰とかに隠れてたりするのかな」
そう言って周りを探し出した。しかし、それらしき人物は見当たらない。すると突然強烈な悪寒がした。それはものすごい勢いでこっちに向かってきている。後ろを振り向くと黒い槍が飛んできていた。
「な!?」
陽炎はすぐに飛び退いて交わした。槍が飛んできた方向を見ると黒いマントを被った人がいる。その人は一瞬揺らいだかと思うとすぐに陽炎の目の前まで来ていた。
「っ!?」
「慌てないで下さい。すぐに殺したりしませんから」
そいつは陽炎の耳元で囁いた。
「かーくんから離れろ!”ライトニング・ショット”」
「無駄ですよ」
テムの攻撃は空間に吸い込まれていった。
「”
咄嗟に陽炎は発動した。しかし、すぐに壊されてしまった。
「何なのこいつ。全然攻撃が効かないわよ」
「聞いてないと言うより吸い込まれている。あの鎖も一部が吸い込まれたようになっている」
「ほんとだ!」
「ということは、時空系の魔法かな?」
「恐らくディリーの言ったことで当たりだな」
3人の会話を聞いたのかその人は話してきた。
「すごいですね。この一瞬でそこまで見抜くとは・・・。惜しいですが死んでもらいます」
その人はすぐに距離を詰めて来た。しかし、すぐに飛び退いた。なぜなら、陽炎が刀を生成して斬りかかってきたからだ。
「よし、今回も拘束出来れば俺らの勝ちな」
「簡単ね」
「そうだね。・・・そういえばだけどさ、かーくんの”俺流”ってやつもうちょっとかっこよく出来ないの?」
「え?今言うか?」
「いいから。カッコが付かないでしょ!」
「了解!」
「話は済みましたか?では行きますよ!”
空間が、ぐにゃりと曲がった。それと同時に陽炎の体に不思議な形の切り傷が出来た。
(不思議な切り傷だ・・・)
「まだまだ行きますよ!”
「来るぞ!」
(全てを防ぐのは無理だ。いなして受け流す!)
「”
陽炎は斬撃を当たらないよう受け流した。そのまま間合いに入り構えた。
「今回の依頼は捕縛よ!」
テムのそんな声が聞こえる。しかし、峰打ちなどしない。手を抜けばこちらが殺される。本気で行く!
「”
(な!?この間合いで攻撃出来るのか!?)
「クソッ!”
陽炎とその人の戦いは激しくなっていった。その様子を見てテムとディリーはついていけず影に隠れることにした。
「凄い!こんなのついていけないよ。それにしても、もう技名変えてるよ」
「陽炎くん。無事に帰ってきてね・・・」
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