第6戒 恐怖のギルドのバイト

一瞬だった。攻撃魔法や支援魔法が使えない陽炎がこんな動きをするとは誰も思っていなかった。しかし、陽炎はやった。右手に持つ刀は燃えて少し溶けている。どうやら自分の火で刀を融解してしまったようだ。


『・・・す、凄い!』


「今の技何!?」


「凄いよ!あんな技見たことないよ!」


「当たり前だろ。これが俺の力なんだからな」


「じゃあさっきの敵は陽炎さん倒せたってことですよね」


「・・・」


「あ、本当ですよ。別に私達が戦わなくてよかったじゃない」


「・・・すまん」


陽炎は何も言えなくなり謝るしか出来なかった。テムはそんな様子を見て思わず吹き出してしまった。


「え?テムちゃんどうしたの?」


「いやさ、なんだかおかしくなっちゃって。つい笑っちゃった」


それを聞いた2人も笑いだした。


「それじゃあ帰るか!」


『うん!』


━━ギルドに帰ってきた3人は依頼達成の報告をしていた。


「はい、以来達成ですね。報酬は銀貨3枚になります」


そう言って銀貨3枚を渡してきた。どうやらこの世界の通貨は金銀銅出てきているらしい。そういえばテムが、銅貨100枚で銀貨1枚銀貨100枚で金貨1枚と言っていたのを思い出した。


「そうだ、もう1匹いたんだった。・・・依頼を受ける前に倒した魔物はどうなるんだ?」


「そのような場合ですと自動的に依頼を受けたことになります。なので、報酬は貰えますよ」


「そういうものなのか・・・。じゃあこれよろしく」


そう言って陽炎は魔物の一部を出した。


「っ!?これをどこで!?」


「後ろから襲ってきたから倒した」


「これ、Aランクモンスターの黒爪狼こくそうろうですよ!」


「なんだそれ?」


「知らないんですか!?最近この近くに出ていて、初心者がすぐにやられちゃうんですよ!」


「へぇ〜」


「なんでそんなに興味無さそうにするんですか!」


「だって倒したんだから・・・」


「まぁいいです。では、報酬を渡します。金貨6枚です」


「ありがとな」


報酬をもらって帰ってくるとテム達が何か食べていた。しかも机にいっぱいに並べてある。


「何食ってんの?」


「何って自分へのご褒美よ」


「今回の依頼で頑張った私に対しての報酬です」


「それはいいな!で、誰が払うんだ?俺は払わないぞ」


すると2人の手が止まった。2人は何かを頼むような目でこちらを見ている。


「そんな目をしてもダメだ!自分が食べたものは自分で払え!」


『そんな事言わないでぇぇぇぇぇ!』


2人は泣きながら陽炎に飛びついてきた。


「今回だけは払ってよ!」


「嫌だ!なんで俺が払わないといけないんだよ!」


「だって今回嘘ついて私達に戦わせたじゃないですか!」


そう言ったが陽炎は冷静に説明した。


「あのな、強い魔物が来ているのに手の内晒すアホがどこにいる?」


それを聞くと2人はは一瞬黙ったが、すぐに泣き始めた。2人の足元には水たまりができるほど涙を流している。


「じゃあ2択だ。俺のおしおきを受けるか、皿洗いでもしてここの手伝いをするか、どっちか選べ」


『皿洗いします!皿洗いでもなんでもするのでおしおきだけはやめてください!』


「よし!決まりだ!今から言ってくるよ」


陽炎は再び受付の女性のところに来た。どうやらさっきの話を聞いていたらしい。準備はできたと言わんばかりの眼差しでこらをみている。陽炎は2人を連れてくると、受付の女性は2人の手足に枷をつけて裏に連れて行ってしまった。

・・・・・・・・・・・・・・・・あ、これやっちまったかも・・・陽炎はおもわずギルドから出てしまった。━━しばらく街を見回ってギルドに戻ってきた。すると2人が手足に枷をつけられ露出度の高い服で働かされているのを見た。2人は陽炎を見つけるなりすぐさま飛びついてきた。


『うわぁぁぁぁぁん!助けてぇぇぇぇぇ!』


・・・え?ここってそんな怖い場所なの???そんなことを思わせるほど2人は怯えていた。凄く足が震えていて、Sランク級の魔物に鉢合わせたくらい怯えている。


「どうした?すごく脅えているが・・・」


「そこ!何してるの!早く働きなさい!」


その声と同時に鞭が飛んできた。2人はその鞭でおしりを叩かれていた。


「ひぎぃ!はいぃぃぃぃ!」


「ひぐっ!わ、わかりました!」


陽炎は固まってしまった。あまりの変貌さに足が震えて動けなくなったのだ。よく見るとギルドの中にいる冒険者は皆なにかに怯えて震えている。だが、その理由はすぐにわかった。ついさっきまで話していた受付の女性が鬼のように怒っていたのだ。すると受付の女性は陽炎の顔を見るなり急に穏やかな顔になり話してきた。


「あら、陽炎さん。どうしたのですか?」


「え?あ、いや、なにか食べようかなって思っちゃって・・・」


「そうですか。では、あの席に座ってください」


陽炎は震える足を無理やり動かして机がある場所まで歩いた。━━それから30分がたった。しかし、状況は全く変わらなかった。唯一変わったことと言えば、2人のおしりがりんごより赤くなっている事だ。すると受付の女性がこっちに来た。


「陽炎さん!ありがとうございます!最近なかなか人が入らなくて困ってたんです。新人さんも一日でやめちゃうんですよ!酷いじゃないですか」


「は・・・はは・・・。そうだ、忘れてたけどお姉さんっの名前聞いてなかったな」


「私ですか?私はヴィオラです」


「ヴィオラか、いい名前だね」


「ありがとうございます♡・・・ところで、なんでここが人が足りないってわかったんですか?」


「え?いや別にわかったわけじゃないよ。なんとなく言ってみただけ」


「そうだったのですか!?でも、ありがたいてです。あと、もうひとつあるんですが、あなたの技ってなんですか?」


「技?」


「ほら、あの”俺流”とかいうやつです」


「ああ、あれね。あれは俺が昔いた国で見た技術をアレンジしただけだよ」


「そうなんですか!?凄いですね」


「それほどでもないよ♪」


2人は楽しく話した。だが、その時間も一瞬で終わった。ガシャンという、ガラスが割れる音がした。するとヴィオラの頭から角のようなものが生えだした。陽炎はその角が生え切る前にお金を払ってギルドから逃げた。すると他の客もいっせいに逃げてきた。これはあれだな、新人にめちゃくちゃ厳しいパターンだ。そんなことを考えていると他の冒険者が話しかけてきた。


「よう!俺はガルフ。一緒にクエスト行かないか?」


「いいなそれ。いいよ」


「よし!決まりだ。おい、お前ら!」


ガルフがそう言うと後ろから女性が3人近づいてきた。


「これが俺のパーティだ。右からハル、ソルト、メロンだ。今日一日だけでも一緒に組まないか?」


「いいよ」


「ありがとな。・・・それにしても、凄かったな」


「そうだな・・・」


すると後ろからソルトが話しかけてきた。


「本当に怖いよ。私も3回くらいあそこで働かされたけど、最後の方にはおしりが痛すぎて1週間椅子に座れなかったのよ」


「あ、私もです」


「私も」


他の2人が口々に言ってきた。これからは怒らせないように気をつけようと心に決めた。


「これで俺らの関係も良くなったな」


「なんでそうなるんだよ」


「だってもうこんなに話しているじゃねぇか」


「・・・そうだな。こういうのもいいな」


つい陽炎は微笑んでしまった。それを見たソルトが言ってきた。


「あ、やっと笑いました。私達と話してからずっと笑ってなかったんですよ」


「そうか?」


『そうそう』


「フッ、これで俺達も仲良くなれたな。クエスト行くぞ!」


『うん!』


ガルフのパーティメンバーは勢いよく返事した。皆は陽炎に向かって微笑んできた。こんなの、もう答えが決まってるみたいじゃないか。そんな想いで陽炎は言った。


「そうだな。行こうぜ!」

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