数学の勉強

 次の日の放課後。

「今日はうちで勉強会やるぞ」

 という訳で、山城君の家に行くことになった。


「あれ、ここって……」

 僕がよく絵を描きに来る神社だった。

 僕は巫女さんがいないか探した。

「もしかして巫女さん探してる?」

「うん」

「ああ、それ俺だわ」

「へ?」

「俺が巫女さんって訳」

「えっ、えええええええ」

「うち、男しかいないから小さい頃から俺が巫女さんやってたの」

「そ、そうなんだ」

「ほら、声だって変えられる」

 山城君が女の人の声を出す。

「す、すごいね!」

「気持ち悪いとか思わないのか?」

「そんなこと思わないよ!」

「そうか、ありがとう」

「山城君が、このちづるさんってことだよね」

 僕は「よろしくお願いします」とだけ書かれたスマホのトークルームを出す。

「そうだよ」

「あれから幽霊や妖怪は現れてない?」

「ああ、今の所はな」

「良かった」

「じゃあ、勉強始めるか」

「うん」

「まずは昨日出した宿題からだ」

 僕は絵を出して、山城君に見せる。

「近江の海 夕波千鳥 汝が鳴けば 心もしのに いにしへ思ほゆ  柿本人麻呂が久木の生えている清らかな川原で、千鳥がしきりに鳴いているのを見てる様子だよ」

「へえ、上手く描けてるじゃねえか! さすが画家!」

「えへへ」

「これで宿題のチェックは終わり、と。メインの数学にいくか」

「うん」

「これが、俺が中学の頃使ってた数学の教科書、やるよ」

「ありがとう」

「まずは簡単な1次式の足し算・引き算からだ」

「うん。これくらいなら出来るよ」

「共通因数、XはX,YはY同士でしか計算できないからな」

「うん。出来たよ」

 山城君が丸付けをしてくれる。

「よし、全問正解。次は掛算、割り算だ」

「これも出来た」

「惜しい、1ミスだ。マイナス×マイナスでプラスになることを忘れないように」

「うん、分かった」


 その後も、山城君は夜まで勉強を見てくれた。

「今日、うちで飯食ってくか?」

「え、いいの?」

「このまま帰したら、どうせコンビニ弁当とか買って食べるんだろ?」

「うん」

「だったら俺の美味い料理を食わしてやるよ」


 宣言通り、山城君は美味しい料理を作ってくれた。

 肉じゃがとお味噌汁だ。

「千鶴の父です」

「あっ、東雲彼方です」

 山城家の食卓に着くと、山城君のお父さんがいたのだ。

「彼方君、千鶴がお世話になってます」

「いや、俺がお世話してるの。こいつ自炊できないから」

「不肖の息子ですが、よろしくお願いします」

「いえ、こちらこそ助かっています」


「じゃあ、また学校でな」

「うん。またね」


 山城君とちづるさんが同一人物というのには驚いたが、勉強会も出来たし、美味しいご飯も頂けて大満足だった。



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