古文の勉強

次の日の昼休み。

 山城君の作ってきたドライカレーをスプーンでつまみながら話をしている。

「先生から、お前の勉強見てやってくれって言われてさ」

「何で?」

「お前の成績が悪いからだよ」

「悪いのかなあ……」

「自覚ないのかよ」

「これ、お前のこの前のテスト結果。5教科中、4教科赤点ってヤバいだろ。歴史だけ免れてるが、それもギリギリだぞ。しかも赤点追試でもダメと来た」

「そんなにダメかなあ」

「そのままだと留年するかもな」

「えっ」

 留年は、さすがにいけないだろうな。

「だから、今日の放課後から勉強会するぞ」

「勉強会……」

「そんなに構えなくてもいいぞ」

「う、うん、よろしくね」

「おう」


 放課後。

「じゃあ早速、勉強会始めるか」

「うん」

「とりあえず今日は一番点数が低かった数学からやるか」

「うん」

 僕は数学のノートと教科書を出す。

「今回のテスト範囲は式と証明、複雑な因数分解できるか?」

「ええっと……」

 山城君が例題を出してくれるが、僕は解き方が分からずに、問題とにらめっこしてしまう。

「分からないなら、素直に分からないって言ってくれて大丈夫だぞ」

「ごめん。分からないや」

「最初に共通因数をくくり出すんだ」

「キョーツーインスウ?」

「そこからか~」

「ごめん」

「もしかして、お前、数学は中学レベルも怪しかったりする?」

 僕は中学時代の数学のテストを思い出す。

「中学の頃も赤点だった……」

「じゃあ、中学の範囲からやっていくか。これが出来ないと高校レベルなんて無理だからな」

「そう、だね」

「中学の頃の教科書って、まだ持ってる?」

「あ、えっと、引っ越しの時に捨てちゃった。ごめんね」

「そうか。なら、俺のを貸してやるよ。明日、持ってくる」

「ありがとう」

「じゃあ今日は国語をやるか。テスト結果を見る限り、古典がやばそうだな」

「そう。文章が全然読めなくて……」

「古典は、まずは単語を覚えるところからだな。今回の範囲は『万葉集』か。和歌は掛詞とか枕詞とか技法も多いから難しいのかもな」

「カケコトバ? マクラコトバ?」

「やっぱり知らない風になるんだな」

「ごめん」

「そんなに謝らなくてもいいよ。……まずは枕詞だけど、ある語句を導き出すための言葉だ。例えば、「あかねさす」だったら「日、昼」が導き出されるんだ」

「へえ、覚えられるかなあ……」

「全部を覚える必要はないぜ。教科書に載ってる歌だけでいい。例えば、山部赤人の歌「ぬばたまの 夜のふけゆけば 久木生ふる 清き川原に 千鳥しば鳴く」だと、「ぬばたまの」が夜を導き出してる」

「へえ」

「で、訳していくとなると、枕詞は訳さなくてよくて……。夜もふけていくと、久木の生えている清らかな川原で、千鳥がしきりに鳴いている、ってなる。分かるか?」

「久木って、どんな植物?」

「あー、こんなのかな」

 山城君がスマホで検索して画像を見せてくれる。

「千鳥は?」

「えっと……、芸人の方じゃなくて、こんな鳥だな」

「何となく想像できたよ、ありがとう」

「お前、絵描けるんだから、絵で描いて覚えるのもいいかもな」

「あっ、それいいかも!」

「じゃあ、明日までの宿題として、教科書に載ってる万葉集の和歌を絵で描いてくるってどうだ? 出来るか?」

「うん。やってみるよ」

 その日は、それで解散になった。



 家に帰ってから、教科書を開き、原文と訳文を見る。

「これにしよう」

 近江の海 夕波千鳥 汝が鳴けば 心もしのに いにしへ思ほゆ    柿本人麻呂

「近江の海」は琵琶湖、これは行ったことがある。夕暮れの波の上を飛ぶ千鳥が鳴けば、千鳥は山城君が見せてくれた画像で、こんな感じかな。私の心もしおれる程に、昔のことが自然と思われてくる。柿本人麻呂って、どんな顔をしているんだろう。画像検索……、百人一首の札が出てきた。こんな顔かな、よし、絵が描けたぞ。


 描いた絵を鞄に入れ、僕は寝床に着いた。


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