弁当

絵筆を握る。

 あ、描ける気がする。

 頭の中のイメージを瞬時に掬い取り、目の前のキャンパスに描く。


「描けました」

「やはり素晴らしいね、彼方君」

 芹沢さんが褒めてくれる。この人は大体褒めてくれるのだ。

 今回の絵は以前訪れた北欧の景色を描いた。

 僕が実際に見たものを、写真を見ながら描き上げた。

「じゃあ、これは高田さんに一番に見せるとするかな。もしかしたら、また買っていただけるかもしれないね」

「はい、だったら嬉しいです」

「ところで、学校の方はどうだい?」

「ええと……」

 山城君のことを言おうか迷った。彼のことを友達と形容してもよいのだろうか。

「普通にやってます」

「そうか。なら良かった」

 芹沢さんは深く聞いて来なかった。


 芹沢さんに送ってもらって、家に帰る。

 改めて見ると、確かに、部屋は片付いていた。

 山城君のお陰だ。これを維持しよう。


 今日の夕ご飯はカップ麺だ。

 カップ麺生活も改めろと言われたが、止められない。

 自炊ができないからだ。

 今度、自炊の仕方を山城君に聞いてみようか。

 迷惑かな、どうかな。

 そういえば、明日から山城君が僕のお弁当を作ってくれるらしい。

 朝、コンビニに寄らなくて済むのは楽になる。

 どんなお弁当を作ってくれるんだろう。楽しみ、かな。


 次の日。お昼時。

「わあ、すごい!」

 山城君の作ってくれたお弁当は色とりどりのおかずが入っていた。

 ミートボールにミニトマト、ブロッコリー、卵焼き、白飯にふりかけが付いている。

「さあ、食え」

「いただきます」

 卵焼きから食べ進めていく。甘くて美味しい。

 山城君は僕が食べてる様子を満足そうな顔で見て、自分の弁当に箸をつける。


「あのさ、申し訳ないんだけど」

「どうした?」

「ミニトマト苦手なんだ」

「好き嫌いはよくないぞ」

「食べたら吐いちゃうかも」

「何だ、その脅しは」

「ごめん」

「仕方ねえな。俺が食ってやるから」

「ごめん、ありがとう」

「そうか、東雲はミニトマトが苦手、と。ケチャップは大丈夫だよな?」

「うん」

「他には?」

「後はピーマンとか」

「子どもが嫌いな野菜ナンバーワンだな」

「うん、ごめん」

「炒めてあるピーマンも苦手か?」

「苦いから多分無理」

「細かく刻んでドライカレーとかに入れれば平気だろ」

「ドライカレー?」

「ドライカレー食ったことないか? ひき肉のカレーだけど」

「ない、かも」

「今度作って持ってきてやるよ」

「ありがとう」

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