芹沢さん

芹沢さんは僕の後見人。

そして、僕の絵の価値を見出してくれた人。


美術の学校に通ったこともなければ、誰かから絵を習ったこともなかった。

僕を発掘した芹沢さんが言うには「君には何からも影響を受けず、ただ見たまま、感じたままを純粋に描いてほしいんだ」とのことなので、芹沢さんの方針通りに進めている。

それに歴史上有名な画家についてもあまり知らない。ごくごくたまに美術館で絵を見ることはあるが、それがどういう経緯で描かれ、どのような技法が使われているか、画家はどのような人物なのかもよく分からない。

そして、正直なところ、自分の絵の何処がすごいのかもよく分からない。



今日は都内の美術館で展覧会を見学しに行く。これは珍しいことだった。今まで自分の絵が飾られていても展覧会に出向かないことも多かった。何故今回、展覧会に行くことになったかというと、芹沢さんから「君の絵を見て、ぜひ画家本人にも会いたいという人がいてね。面倒かもしれないけど、会ってみてほしいんだ」と言われたからだ。

 芹沢さんの車で連れてきてもらった美術館は近代的な建物で、おしゃれな内装だった。来館者も何処となく余裕のありそうな人ばかりで、自分が場違いに感じられた。


待ち合わせは美術館内のカフェだった。ここも、おしゃれで落ち着かない。

「大丈夫。怖い人は来ないよ」

 萎縮している僕に、芹沢さんが言う。

「は、はい……」

 少し経って、待ち合わせの人がやって来た。

「こんにちは」

「こんにちは。こちらは高田さんだよ」

「こ、こんにちは。東雲彼方です」

「東雲くん、君の絵は何点か買わせてもらったよ」

「は、はあ、ありがとうございます」

「素敵な絵だね。私は北欧の絵が好きかな」

「はい、ありがとうございます」

 芹沢さんには絵の構想のために連れて行ってもらったことがあるのが北欧だ。

「あれは、実際に見た景色かい?」

「はい、そうです」

「そうか。写真で撮ったように繊細だね」

 僕は見たものしか描けないタイプの画家だった。

 その後も、色々と質問されたが、僕は端的にしか答えられなかった。所々、芹沢さんがフォローしてくれたが、こんな僕と話していて楽しかったのか不安だった。


 高田さんが帰った後、僕と芹沢さんは、次の作品の打ち合わせをし、帰宅した。



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