名前

昼休みになり、いつもの裏庭に向かっていた時だった。

「おーい、東雲―」

 声のした方を振り返る。

 明るい髪色、耳にはピアス、少し着崩した制服、ブレザーの下のパーカー。

 不良だ。

「あっ、おい、待て!」

 僕は逃げ出した。不良にたかられると思ったからだ。

「何で逃げるんだよ!」

 こっちだって何で追われているのか分からない。


 しかし、体力の差は歴然だった。

 僕は廊下の突き当りで、追いつかれてしまった。

「ったく、廊下は走るもんじゃねえぞ」

「す、すみません!」

「あのさあ、お前、何か勘違いしてるだろ」

「ごめんなさい!」

「どっちかちゅーと謝るのは俺の方だ」

「へ?」

「さっき、バスケで頭に当てちまっただろ。あの後、大丈夫か? 痛みは?」

 そういえば、バスケのパスをくれたのは彼だったか。

「あ、うん、大丈夫だよ」

「なら、良かった」

「心配してくれて、ありがとう」

「ああ。あのさ、一緒に昼飯食わねえ?」

 こんな風に誘ってくれたのは彼が初めてだった。

「ええと……」

「嫌なら大丈夫だけど」

「い、嫌じゃないよ! 一緒に食べよう、えっと……」

「ん? どうした?」

 彼の名前を覚えていなかったのだ。

「えっと……」

「ああ、もしかして、俺の名前忘れた?」

「ご、ごめん……」

「山城、山城千鶴だよ」

「山城君。うん、覚えた。……東雲彼方です」

「俺は、お前の名前覚えてるっつーの」

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