絵描きの僕にできること

「絵?」

 巫女さんが不思議そうな顔をする。

「僕に出来ることは、それしかないので。……絵を見て、その人が側にいるって思ってもらえれば……」

「確かに、良いかもしれませんね」

 僕は、さっきの人を思い出し、絵筆を取る。

「もう一回、あの人の顔を、よく見たいな」

「分かりました。連れてきます!」

 巫女さんが、すごい勢いで走っていった。

「行っちゃった……」


 数分後、巫女さんが男性を連れて戻って来た。

「今、キャンペーンをやってるんです~。お参りして下さった方に似顔絵プレゼント~」

「さっきはやってなかったようだけど」

「今やろうと決めたんです~」

 かなり無理やりだが、何とか似顔絵を描かせてもらえることになった。

「よろしくお願いします」

「あ、はい。あなたは……?」

「えっと、一応、絵を描く仕事をしています。東雲彼方です」

「東雲さん、……よろしくお願いします」

「はい」

 筆を執る。

 そういえば、人物画を描くのは久しぶりだった。

 鉛筆で輪郭を描き、補助線を引く。

 眉、目、鼻、口を描いていく。

 清書をし、男性用と、妖用の二枚を仕上げる。

「おまたせしました」

「はあ、ありがとうございます」

 男性は少し不思議そうな顔をしながら、帰って行った。

 残った狸妖怪に、絵を渡す。

「これを大事に持っているんだよ」

「ありがとう」

 狸妖怪は、ぴょんぴょん跳ねて喜んでいた。

「これで、もうあの人に取り憑いちゃダメだよ」

「うん、わかった」 

 狸妖怪は絵を大事そうに抱えて去っていった。

「これで一件落着ですかね」

「そ、そうですね」

「これからも、よろしくお願いしますね。妖の声が聞こえる方は貴重ですから」

「え、あ、はい」

 それで僕は帰途につきながら、考えた。

 妖が見えることを人と共有して良かったのか、それに声まで聞こえる人は貴重だと言われた。

 次、神社に行く時に、また何か頼まれたりするのだろうか……。


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