妖怪の声
あなたにも見えるのですね」
「えっ、はい⁉」
いつの間にか巫女さんが僕の背後に立っていた。
「先ほど参拝に来られた方ですよ、肩に乗っていたでしょう?」
「え、えっと……」
幽霊や妖怪が見える人間というのが僕以外にもいることは知っていた。しかし、見えることを共有するのは憚られた。
「どうしましょう……。このままだと、あの方が取り殺されてしまうかもしれませんね……」
「……どうしたらいいんでしょうか?」
「そうですね。……祓ってみましょうか、巫女らしく」
そう言うと巫女さんは神社から帰りかけている男性の方に早足で向かって行った。男性に追いつくと肩を強く払った。
「失礼、虫が付いていましたよ」
「あ、ああ、ありがとうございます」
虫を払った割には強い力だったので、男性は少し怪訝そうな顔をしたが、そのまま去っていった。男性の後を払われたタヌキが追いかけようとする。が、巫女さんがタヌキの尻尾をすばやく捕まえて阻止する。
「どうです。中々良い手際だったでしょう」
「ハナセ! ハナセ!」
タヌキは巫女さんに吊られながら暴れている。
「あの、可哀そうだから、離してあげた方が」
「離したら、またあの方に取り憑くだけです。普通の生きてる動物なら可哀そうですが、こいつは動物霊、妖の類です。死にはしません。というか、既に死んでいる可能性もあります」
「オネガイ、アノヒトノトコロニイカセテ」
ずっと吊られたままのタヌキが泣きそうな声で哀願する。
「やっぱり話だけでも聞いてあげませんか?」
「話? どうやって?」
「どうって……、普通に……」
「妖が私達の言葉を話す訳ないじゃありませんか」
僕はここで彼女との認識の違いがあることに気付いた。妖や幽霊が見えてもその声まで聞こえない人もいる。逆に声だけを聞き取ってしまうこともある。
「あの、もしかして、彼らの声が聞こえないのですか?」
「逆にあなたは聞こえるのですか?」
「あ、ええっと……」
上手い誤魔化し方が思いつかなかった。
「聞こえるのですね?」
巫女さんの綺麗な瞳に見詰められ、回答に困る。沈黙は肯定と同義であった。
「…………はい」
「では、話してみてください。もう、あの人に取り憑かないように、と」
「……はい、やってみます」
「えっと、狸の妖怪さん、でいいのかな……。君があの人に取り憑いていると、あの人が病気になってしまうんだ。……だから、離れてくれないかな」
「イヤダ」
「よし、祓いましょう」
「もう少し待って下さい」
どうすれば、あの人に取り憑くのを止めてくれるだろうか。僕に出来ることは……。
「あの人の絵を描いてあげるから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます